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もう良いよね?  作者: 春町かがり
3/3

3

何やらランキング4位になっていました

沢山の方に読んでいただけた様で有難うございます。

感想を送って下さった皆様拙い作品ですが一言頂けた嬉しさは半端ないです!

有難う御座います。


度重なる遠征の緊張感の中で再び彼に接近する事になったのは偶然だった。


再会は大討伐の時で私が14歳の時だった。

突然の魔物の大発生により招集された騎士団、兵団、魔道士団が総力戦をかけた大討伐は国の威信を掛けた戦であり

かなりの緊張感のある任務だった。


私たち魔道士は何時もの如く後方からの援護だ。今回は騎士や兵団の皆さんが潜む地に陣を敷き魔物を追い込み、足止めしてそこを騎士団と兵団の皆さんが仕留める作戦です。


何時もなら、兵団や騎士の方々が追い込んだ魔獣を魔道士が大きな火で殲滅する作戦だが、今回は魔物の動きがだいぶ違い数も半端なく動きも違う。

大量に出現しているのにすばしっこくバラついて出現するので追い込んでも別場所にまた出現する。纏めて倒せないという厄介な討伐だった。

かなりの隊があちこちで接近戦をして居るので、大火炎とかの大物の魔法を使えない。味方を巻き込む恐れがあるからだ。

動きの素早い魔物が彼方此方と現れるのを地道に数匹づつ倒していくしかない持久戦となっていた。


あちこちで兵や騎士が入り乱れて剣や斧で斬りつけるが、その背後にまた数匹現れるなんてザラで、其れを見越して魔道士の此方も素早く盾陣と攻撃陣の構築をしなければならなかった。

最前線の死闘に報いる様にと後輩魔道士もつい力が入って踏み出したとき私の防壁陣と干渉してしまい、魔道士全体を守る防御壁が解けてしまった。私が即座に盾の陣を再構築したが、慌てた後輩魔道士の体は陣外に出てしまい魔物が後輩に牙をむき出しているのが視界に入った。騎士も兵も側に居ない!

流石に私でも攻撃も防御の発動も間に合わない、咄嗟に私は飛び込んだ。


自分の盾の中に取り込めればギリ何とかなる!

だが間に合わないかも知れない。

来るべき衝撃を待つが


何も無い?


死んだと思ったが何時迄経っても痛みが来ないので、ゆっくりと頭を上げると真っ二つに切れた魔物の姿が私達の横にシュウシュウと湯気を出して落ちていた。更に顔を上げると目の前には剣を構えた緑色の魔物の血糊で染まった騎士が、肩を大きく上下させて立って居た。


あの人だ!

キラキラと金の髪が光っていて振り向きざまにあの青い瞳が私を睨んだ。


私のした事が危険すぎると何度も小言を喰らい、確かに私も無謀だったと反省したが、後輩は母一人子一人で私と同じに魔力の所為で幼い頃にイジメで嫌な思いをしてきた子だった。だから何かと目に掛けて来たし私が指導係でもある。見捨てるわけにはいかなかった。


「咄嗟の行動はどうにもなりませんが

我が国の大切な魔道士殿には自重という言葉をご理解していただきたい。だが、俺は貴方の心根の優しさに敬意を持ちましたよ。でも危ないですから二度としないでいただきたい」


いや、そんな晴れた日の爽やかなお顔で怒られても、討伐中で気が立っている時は兵士や騎士とケンカ腰になるのに、不思議と言われたことに頷くしか無く、素直に謝罪して再び其々の位置に戻った。

ニンマリとする後輩の頭をパシンと叩き仕事に取り掛かったが、彼の去っていく後ろ姿さえ爽やか過ぎて、見つめ過ぎたのだろ、もう一度後輩の頭をパシンと殴った。


「春ですね〜」


なんて言うから……。


助けられてからは何かと声を掛けて来てくれる様になったのが不思議で、見た目を気にしない人なのはもう知っていたが、何かと気に掛けてくれてくれているのが何となくわかると討伐中なのにフワッとした気になってしまった。だってそんな男性は初めてだったんだもの。

男は見た目で女を判断するものでしょ?私の周りってそんなヤツばっかりだもの。其れを言葉にしちゃう最低なヤツしか知らないもの。初めての事で戸惑ったが仕事に専念しなければ命の危険と背中合わせだと自分を諌め仕事に集中する。


大討伐は騎士団の指揮官が倒れる大波乱で、急遽全体の指揮を任されたのが何とあの彼だった。大任にも臆さず彼の策は的確にはまり、なんとか死者を出さずに発生した全魔物を討伐し、発生源の穴も閉じることが出来て作戦は終結となった。

帰還することが出来たのは彼のおかげとも言える。同僚からの信頼が厚く部下達をよく見て居る。と言うか全体が見えて居るからこそ、指揮が出来たのだろうし、その指揮を実行する騎士さんに兵団の人まで適材適所で‥ん?


魔道士団も‥掌握されていたわね。


細かい指示出されたし、防衛線がキッチリしていてやりやすかったわ。前任者よりも指示出しが早くて、あっちだこっちだと魔獣に翻弄されていたのが

嘘のように兵の動きが纏まって最後なんて大魔炎を繰り出し一気にカタをつけられたのが不思議でしょうがなかった。


散らばっていたはずの実働隊の兵団、騎士の皆さんは気付けば追い込んだ魔獣から離脱して魔法陣の影響を受けない安全地帯まで下がっていたし、安心して大魔炎をぶっ放したのは紛れもなく私だった。いや打たされた……のかな。

それが出現点の穴にぶち当たり魔獣を燃やし尽くしながら小さくなったのが遠見で確認出来た。

魔獣出現点は抹消しなければならない。浄化魔法をかけ即永久凍土の魔法を打ち込み蓋をしてから消滅魔法を打ち込み跡形もなく穴を葬った。それが出来るのもここでは私だけなんだけどね。

それを見てニカリと笑ったのは彼だった。あー作戦通り動かされたわ…。

なんてちょっと疲れた体を後輩に預けたつもりが、駆けつけた彼に抱きかかえられたらしいのは後から後輩がニヤニヤしながら教えてくれた。流石に盾を作りながらの大魔炎の連発に重ね掛けのに魔術はキツかった。




王都に戻ってからは助けられた礼を騎士団まで伝えに行った事から、気安く昼を共にしたりする様な仲になっていた。

冷やかされる度に照れた顔で同僚に言い返す様子から、やはり私の容姿は気にならないみたいね。さり気なく私を庇ってくれたりもするし……私への侮蔑やそれに付随する酷い言葉を彼から聞いた事がなかった。聞こえているだろうに態度を変えない。

やはりすごい人だ。

とうとう私を夜会に誘ってくれてエスコートもしてくれると言ってくれた。

不細工加工した私のままなのに!


あの人を初めて男の人と意識して見るようになったのはあの時だったわ。

仕事も普段の会話からも信頼出来る人だと確信したと同時に、仄かな恋情が芽生えた時だった。勘違いだからと思うことにしたのに、やっぱりダメだった。


時折熱い視線を感じるようになり

それが嬉しくて、でも反応する事が出来ず、とても悲しかった。


なにせ私には許嫁がいる。私も彼を見つめたかったのに‥奴がいるために身動きがで出来ないのが辛かった。


討伐後、魔導師長からエスコート有りの絶対参加(軍関係等政治的な色々から)と言われていた夜会でほとほと困っていた。魔道士の中に同等の地位と位を持つフリーの人が居らず、釣り合いの取れるお相手となると限られるんだよね。討伐後私の位がまた上がったので仕方ないと言えば仕方がないのだけれど、ヤツは期待出来ないのは対等な地位が無いから。


また一人でローブ着て参加だな。と腹を括った時、窮地を知ってこんな私と共に行ってくれるというあの人。

居ないかわからない様な男だが父が決めた許嫁の居る身。それでもその男が私をエスコートしないなら俺がその役をしたいと(正直言うとこの夜会にはヤツは魔道士の順位が低くて私と同伴で無ければ出席出来ないがそもそも私の事を私と思ってない)彼は討伐後昇進で次期騎士団総隊長の地位を確約され、爵位も受けている。

そんな人から強請られれば、父もその熱意に負け母様の押しも有り共に夜会行く許可が出た。

この幸せが何時迄も続けば良いのにと願ったのは、私の秘密の本心だった。


エスコートが居るのに魔道士のローブ姿では失礼すぎるから、初めてちゃんとしたドレスを着て、流石に顔は髪で出来るだけさり気なく隠したままだったけど、迎えに来てくれた彼はドレスが似合っていると褒めてくれた。変に態度を変えずに何時も通りでいてくれたのが何より嬉しかった。やはり凄い人だと思った。


いつのまにか大切な人になっていて、

この人の隣に立ちたいと強く思った。隣に立つのに相応しく有りたいと。

そしてあの日がやって来た。



婚約解消後。

不細工加工を解いてから始めての夜会。

懇意の貴族の夜会だったので油断した。


「綺麗なお嬢さんどうかこの哀れな子羊とダンスを」


(子羊?駄犬だろうが!)


グラッセルを無視して逃げ回ったのに全く私だとは気が付かないし、しつこくダンスに誘ってきたバカが調子に乗っていた。

一応見目が良い事をひけらかしオレモテる男だよと誘って来たのだから笑える。幾ら何でも私の容姿を判らないとはほんと残念な奴だし、本当に私のことを見てこなかったんだと理解出来た。勿論速攻断った。


彼……バルドフィルは


「俺のパートナーなのだが、いい加減にしてもらえるか?」


なんて私の腰に手を回し身体を引き寄せ言ってもらえたのがすごく嬉しくて、今死んでも良いくらいに気持ちが跳ね上がった。

奴が渋々離れて行った後に、あれが例の元許嫁だと教えればバルドフィルは呆れて暫く睨んでいたけど、気にしなくて良い位の存在だから、私を見てほしくて頬に手を添えてヤツなんて忘れてダンスをしましょう?と誘えば喜んで!と答えてくれたのがとても嬉しかった。

だって漸くこの日が来たんだもの。


彼は私に許嫁がいる事を知っても親しい友人の立場を守ってくれる人だった。

私的には残念……だったけれど一線を引き、私に対して騎士として友人としての態度を貫いてくれていた。


彼が所属する騎士団はエリート集団と言われるだけあって、見てくれで無く人間性と実力を一番に、誰であろうとバカにすることなく互いを高め合えているという態度でいてくれた。

何より信頼で出来る人であり、側に居たい人になっていたのはもう間違いなかった。


漸く婚約解消したと彼に伝える事が出来た時はドキドキが止まらず、でも彼の気持ちがどうなのか?ハッキリ彼と何かの約束をした訳では無かったから怖かった。


婚約を継続していた父がグラッセルの本性を理解したので即、解消の手続きをしてくれた事を伝えると、バルドフィルは満面の笑みで良かったなと喜んでくれた。


そしていきなり跪き指輪を出されプロポーズしてくれた。

まさか指輪を準備しているなんて思っていなくて、嬉しすぎて声が出ない私をそっと抱きしめ


「受けてくれるなら頷いて」


と優しく囁いてくれた。夢に見た場面素敵すぎて現実じゃ無かったらどうしようと不安になり、見上げてくる彼は


「頷いてくれないの?」


と不安げに見つめてきたので慌てて頭を振って


「あっ違うの断ってないから、その

 お受けします」


頭を振ったのが断りだと思われたら嫌よ、だから言葉を紡いで必死で言えば、途端にギュッと抱きしめられた。幸せってコレなのね。


両家の挨拶もサクサク進み晴れて私はバルドフィルの恋人で婚約者となった。

私の素顔をこの時初めて晒した。

途端にうわーと口元に手を置き真っ赤になった彼の態度に不安になり、

ダメ?苦手な顔?やっぱり不細工なの?涙が出そうです。


「いや……可愛いとは思っていたけどここまで……ヤバイな……ローブやっぱりかぶって欲しい」

「ん?なんで?」

「他の奴らに見せたくないっ。あークソ小さいなオレ。君の前だと狼狽えてばかりだ」

「私はあなたに相応しく有りたいの。だから顔を出したのだけど、ダメ?」

「今のままで十分だけど君が思う俺に負けたくないな。俺も君に相応しく有りたいと思っている」


あぁやっぱり素敵。




バルドフィルの婚約者として恥ずかしくないようにと普段からローブのフードを被らず顔を見せるようになってから、何故だかグラッセルがつきまとうようになった。


面倒だなと思っていると丁度バルドフィルの隊が遠征するのに共に行く事になった。

バルドフィルが隊長となっての初陣だ。前から優秀で次期団長と言われていたのでまた共に戦えるのが嬉しい。


騎士団と魔道師団は共闘で魔獣討伐をする。被害報告が来たら目撃された魔獣によって向かう騎士隊と魔道師隊が選ばれる。今回もバルドフィルと私の隊が共闘となった。相性が良いのとS級魔獣だとこの組み合わせが多くなるかも、何せ大討伐で活躍したからね。


が何故か奴までついて来た。

隊が違うし、実力差もあるからお荷物なんだけどなぁ〜騎士隊の皆さんも胡散臭げにヤツを見ているしかなくて面倒くさい。


たまにお試し配置はある。実力が上がってきた魔道師の試験的なものだが、奴に関してそれは無い。

奴は知らなかったようだが、私は奴より上の特S級魔道師で魔道師隊の中では上司となる。それに私は魔道師隊の隊長を拝命している。年齢でも年功でもなく魔道師は実力の世界だからね。


バルドが私をリアと呼ぶので未だに私がジュリアだと分かっていないようで

グラッセルはバカのように

"君は運命の人だ"とか"国蝶と言う渾名に相応しい"とか馬鹿を晒し、果ては私のテントまで忍びこんだ為バルドが切れて殴り倒した。


「何をしに来た仕事をしろ!それと彼女はお前が散々からかって貶めたジュリアだ。今更お前が彼女の前に現れて何をするつもりだ。私の婚約者を馬鹿にするな!」

「は?ジュリアだと?」


ふっと厭らしい目つきで私を見たので

準備していた魔法陣を素早く敷き馬鹿を王都の魔道師本部へと飛ばした。これぐらいの物なら軽く飛ばせるし彼が一人居なくなっても全く損失では無い元々要らない奴だからね。移転は特Sクラス魔道師しか出来ないの 。

それと私は隊長だから、邪魔な奴を王都へ返す、その権限くらいある。


無事魔獣の討伐を終え帰城した。

今回はかなりの数の発生ではあったし凶暴なSランク魔獣だった。

私の開発した陣で魔獣を纏めて動作静止させその隙に討伐する事に成功。

通常騎士3隊90名に魔導師6人は必要な魔獣発生事例だったが半数以下の騎士数と魔導士で事足りたと言える。

これで魔導士の業務改善に役立つし騎士団の怪我人もごく僅かだったので私の陣は他隊でも採用されるだろうとの魔道長官の話だった。


私の研究は魔獣が一時停止する陣だ。魔獣討伐には数名の魔道士の力が必要な大きな陣をしくが、市井で売る廉価版には魔獣に対して一時停止と騎士団への通知を組み込めばかなり生存率が上がるのでは無いだろうかと考えている。魔獣に投げつけるだけのボール型で魔獣の魔力で起動するから魔力の無い市民でも使える様にした使い捨て魔獣撃退道具を考案して申請中だ。


ただ、討伐用は多数の魔獣を一気に扱うので複雑な陣を敷くし魔道士数名が必要となるし陣を敷く時間が掛かる。初期準備段階では騎士団と兵団の攻防に頼るしか無いのだがバルド達は見事な統制で凌ぎ、陣へと魔獣達を誘導してくれるいつもながら素晴らしい動きだ。

討伐報告と討伐用、廉価用の魔獣停止陣の実用化試験結果報告を上げると、異例の事だが王から慰労の会を開催してくれるとの連絡が来た(末の王子がお忍びで参戦して居たようでバルドの采配と私の陣をいたく褒めてくれたらしい)申請が降りて発売が早くなるかも。殿下が味方で良かった。


討伐途中で追い返したグラッセルがしれっと慰労会に参加していたのでビックリした。魔道長官に懲罰を頼んだはずなのに何故居るの?


仕事もせずに私の尻を追い掛けていた奴なんて、魔道師隊を辞めさせてくれと頼んだのにな。

うんざりしていたら懲りもせず私を誘ってきた。見えませんか?私の横にはエスコートする素敵な男性が居るのに流石に温厚な性格のバルドもいい加減切れた。


「リアは俺の婚約者だ」

「違うぞ!ジュリアは俺の許嫁だ。小さな頃からずっと可愛がってきた俺の許嫁だ。なっジュリア」


グラッセルは勝ち誇ったように宣言し私の腰を抱き込もうとしだが、私が躱しバルドに寄り添う。

まさか婚約解消を黙っていてというのがこんな結果になるなんて……。

面倒くさいヤツ。


これは不義だとか裏切りだ人の女を奪うなんて騎士団がそれで良いのか、とわめき立てたのでどうしたものかとため息と共に殺意が芽生えた瞬間、末の王子殿下がスッと前に出て


「俺が師と仰ぐバルドフィル隊長に失礼だな……お前所属は?」


とグラッセルに剣を構え一瞥を食らわした。


"魔道師ドーモレル隊A級グラッセル・タウンゼンです"と小さな声で答える。

小心者で長いものには巻かれろ精神の人だからね。殿下とわかった途端へこへこしてる。権力に弱いのね。

あっ隊長さんの名前出したよこの人。


「あー!お前、隊が違うのに勝手に来てジュリア隊長に帰された役立たず魔道師か!A級であの作戦によく参加しようと思ったな?ウケる。

まあでもあのジュリア隊長の見事な陣とバルドフィル隊の連携を体験せずに帰るとはなんとも残念だったな」


騎士と私の部下達の失笑に包まれた慰労会場にいたたまれなくなったのかグラッセルは再び


「そんなにカッコいい隊長さんが人の許嫁を誑かしてはいけませんよ。事によっては訴えないとねー」

「訴えればいいわ。そうしたらあんたが大馬鹿だとわかるから」

「は?」


まだ気がついていないのか?

私たちは衆人環視の中婚約者だと言っている事に気がつきなさいよ。

面倒極まり無いわね。実家に飛ばす?などと考えていると

バンッと開いた入口の扉にはおじさんが立ち、遅かったかと頭を抱えた。

えぇ遅かったですわね。おじ様お久しぶりね。


忙しいのはわかりますがちょっと遅かったです。下っ端官僚としての貴方も息子も危機管理も出来ていませんね。


グラッセルは自分の父の登場にビックリするも、私とバルドフィルに対しての追求の手が増えたとでもは思ったのか

ニヤッとして人の許嫁に触るなよなどとまだ言っている。

おじさんが慌ててグラッセルの口を塞ごうとするも避けられ更なる大声でバルドフィルを、そして私を貶める言葉を紡ぐ。

王子殿下が剣に置いた手の力を入れたのが分かり、あっと思ったが遅かった。ゲスい奴だけど殿下が手を下す程の者では無いです。だから切ったら

ダメ


「うわー」


殿下が切ったのはグラッセルのベルト

だった。

避ける事も出来ずに無様に下着姿を晒し更に下着の紐も切れたのかあわや全晒しの前になんとかしゃがみこんだが

お尻は半分出ちゃったね。

しまりのないお尻だこと。あまり運動していないお尻ね。


彼方此方から失笑が湧いては咳払いや止めようにも止まらないと言う笑い声が聞こえる。


「いや プッ悪いな、煩かったから。

まぁ聞けよ。ジュリア殿がお前の許嫁と言うが確かなのか?」

「当然だ……です殿下。ジュリアが5歳の時に会ってから10年、家族で交流があってその縁で許嫁になりました。そろそろ婚姻しようと思っていたところで騎士団の間男の邪魔が入ったと言うことです」


はー?私だと気がつかないで話しかけて来てたくせに騎士団を、バルドフィル様をコケにしてなんてやつ。


「へー、ジュリア殿は晩婚なんだな婚約が早いと婚姻も早いのが普通だよな?

何故まだしていないのだ?」

「だ……大討伐があって」

「えー大討伐なんていつの話さ。ジュリア隊長は確か今17歳だろう?なら3年も前じゃないかどんな理由で3年も延期しているの?隊長は特例が適用され14歳で成人の儀を済ませているし、本来の年齢であっても去年婚礼をして良かったはずだ」

「そ、それは……まだ卒業して無いからで……は?成人が済んでる?」


言えまい。他の女の尻を追ってました私の事など忘れていました年齢なんて覚えてませんよなんて殿下に言える訳がない。



「ジュリアの仕事が……忙しくて、そう、ひと段落まで待って」

「グラッセルもうやめろ」


おじさんが必死に止めに入った。

許嫁がよその男に所に行くなんてはしたないだろう?俺の立場無いだろうが訴えようぜ、父上もなんか言えよ。

なんて声が丸聞こえだが根本的に違う所が見えていないよね。


「あのーそもそも私はもうグラッセル様の許嫁ではありません。グラッセル様の放蕩ぶりは目に余るものがございましたので両家当主立ち会いのもと、とうに婚約解消しておりますの、その上でバルドフィル様と新たに婚約致しましたのよ」

「人の許嫁に失礼この上ない態度だったな訴えてもいいがなグラッセル」

「は?そんな訳ない俺は解消してない」

「会うたび婚約解消しろと言って来たのはグラッセル様です。それを改心させるから待ってくれと止めて来たのはおじさまです。待ったけれどちっとも改心されなかったし取っ替え引っ替え女は変わるし、それを見せつけて嫌味を言うわ女側からも早く別れろとかブスだのチビデブなどと暴言言われ早数年もういいでしょう?」

「貴様、我らがジュリア隊長に何という失礼な言動を」


あら、寒いわ。


魔導師隊、私の部下達が異様な魔力を垂れ流しているわね〜。

あらおじさま悪夢再びかと顔が青ざめてますわね。私の部下は私の魔力と相性が良い者を選んでいるから得意なモノは同じですのよ。水系から氷出すの大好きな連中ですの。それとね水も研げば剣より強いのですよ。


「あれ?隊長?ジュリアが?まさかまだ17歳の入隊仕立てのガキンチョが隊長って冗談だろう?」


「何を言っているんだ今更だろう。

先日の討伐指令を見れば誰が隊長かわかるはずだが‥知らずについて来たのか?本当に馬鹿だな。ならば教えてやろう。ジュリアは学園を12歳で飛び級卒業して経験値を積むため学園と魔道士隊の双方で研鑽しつつ、14歳には正式に魔導師隊入隊、有効魔法陣を多く構築して大討伐では活躍し、その功績から授爵、副隊長になり実践を経験してから17歳で隊長に就いたんだぞ。

それに大討伐の時は14歳ながら参加して大手柄を上げたんだ。ジュリアの陣が無かったら我々は食われていたし恐らくこの国の半分は魔物に占拠されていただろう」

「まぁバルドフィル様、あの時は危うく魔獣の毒牙にかかる所を助けて頂いたのは私の方です」


あの時は命がけだった。

容姿に関係なく人として私を助けるために飛び込んでくれた人。

信じて私を任せられる人。

大切な人を見つけられた運命の討伐だった。


うっとりと互いに見つめていると

嘘だーと大声で叫んだのは

グラッセルだった。


「自分より下と思っていた女が遥かに上であると理解したか?ジュリア隊長が我が国にもたらした功績は大きい、そしてバルドフィル隊長も英雄だぞ。誰もが夫婦となる事に不満などないが……お前は不満か?」


まだ幼い容姿から侮っていたのだろう凛とした威厳を出した末王子殿下からの言葉にグラッセルはおののきついにはうなだれた。


「ジュリアを手放してくれたことには感謝する」


バルドフィルの言葉が止めを刺した。

だが納得はしていない。


「何故容姿を隠したんだ」

「え?それはグラッセル様が隠せとおっしゃったのよ。それさえ忘れました?まぁ関心も無いし、人の顔さえ見ないでブサイクなガキだと思いこんでいたからそんなものでしょうね」


「俺から?

なんで?何でだよ。

チガウ、違う俺は」


などとブツブツ言いながらおじ様と共に衛兵に引き摺られ会場を出て行った。

グラッセルは直ぐに魔道士が不足している僻地へ転勤して行った。彼の地は魔獣が高確率で出現するので良い実地訓練になるでしょう。小物しか出ないけど案外被害が頻発するから寝る暇もない程忙しいらしいから頑張って。


おじさまも別の地の官吏として一人で出立した。人間より牛が多いという地で細々とうちへの借金を返済していくらしいです。死ぬまで無理そうと母様は笑っていらしたけど、この人事は父様も絡んでいそうだわね。あちらの離縁も成立したそうです。うちの借金とおば様への慰謝料……返せないだろうけど死ぬまで許されないと思う。


「陛下も加わっていた様だよ」

「え?」


バルドフィル様の恐ろしい言葉でビクンとしたのは仕方がないでしょう?

仕事が出来ない、子育てもロクに出来ない者は王都に必要ないって……。

あー殿下何か言っちゃいました?


私の婚約解消が及ぼした人事権発動はグラッセルと共に遊んでいた使えない貴族の子息子女も処分対象になり、家の金を貪っていただけの輩は僻地の小貴族の家に婿、嫁として飛ばされて各領地にて努力すれば王都に戻れるという餌をぶら下げられた。

グラッセルと共に怠惰な生活をしていた内一体どれだけ這い上がれるかは首を傾げるしかありませんがね。

また酒、賭博、果ては町のやくざ者と一緒になって悪事を働いて王都の民に迷惑をかけてきたバカどもは銀山へ送られたそうだ。

元々貴族の子供が平民に対して度が過ぎると問題になっていた。その中心に近かったのがバカグラッセルの仲間たちだった。各地で監視され抜き打ちで頻繁に視察が入るそうなので頑張って欲しいですね。何者になるかはご自身の研鑽しかないですから。


「地位のあるのはそなた達の父であってお前たちではない。爵位も持たぬ者がどう勘違いすれば民を愚弄出来るのか聞きたいものだ。民への責任を理解出来るまで王都への出入りなど許さぬぞ」


何だろう……。

私の事利用して煩い貴族のバカガキどもを一掃した?煩いハエだったのかしらね?


ついでにバカ親達も責任を負わせて排除してる?

陛下に上手いこと使われた感バリバリあるのは気のせいかしら?




現在私はといいますと。


「気晴らしに湖まで遠乗りしないか?」


その誘いには即乗った。

あの湖はとても綺麗で好きな場所だし何より二人で遠乗りよ。


バルドフィル様の密かな楽しみは私とグラッセルの記憶を塗り替えていく事らしく父から幼少時にグラッセル親子と共に出掛けた場所をつぶさに聞き出しているらしい。

君の記憶にヤツを残すのが嫌だからって、ならば後ほんの数カ所だ。


「私的にはバルドフィル様との新たな思い出が沢山になる事の方が楽しみなのでまだ行ったことのない所に二人で……将来は子供達とお出かけしたいです」

「ジュリア!」


「あの外です。ここ外だから。

誰かに見られるから」

「では、家ならいいか?」


うっそりと見つめてくる瞳に逆らえるわけが無いのに〜。

イタズラな手を抑え込み"め"と叱り

紳士的だったのにと言えば


「貴方を得たのに何を我慢することがあるのだろうか?」


湖を望む丘には誰も居ない事をいいことに少し背の高い草の生い茂るそこに押し倒され覆いかぶさるバルドフィルに深いキスをされる。唇を喰まれて舐められ入り込む舌に翻弄された。


「挙式で腹がでかくなるやも知れないな」

「……ダメ、それはダメ」

「我慢しろと?」

「はい、私の旦那様は英雄ですから」


くそーと大声で叫び"君は悪魔か"

とため息を吐いたバルドフィル様の

絶対ダメなのか?という問いかけが子犬の様な視線で、大きなガタイに似合わず思わず笑ってしまったら、もういいと拗ねて背を向けられた。


それがとても寂しくてバルドフィル様のシャツを握るだけで俯いていると

温かな温もりに包まれた。


「済まなかった、君を早く俺のものにしたくて焦った」


瞳にキスを落とされキツく抱き込まれた。どうやら王家から第2王子か末王子の妃にと私に声が掛かるのではという噂があって手を出せばもう話は無くなると思っての暴挙?

それだけ、失うことが怖くてとうつむく姿が可愛い。天下のバルドフィル隊長が焦って口ごもる姿なんて私しか見れないですから。



「愛していますバルド」

「愛しているリア」


二人で末長く共にいよう。


その言葉を耳元で囁かれ耳を齧られ腰がカクンとなったのはご愛嬌。

直ぐに抱きあげられお膝の上。長い長いキスをする私たちの周りは、暖かな日差しと清々しい風が吹きぬける。

まるで春の妖精たちに見守られているかの様な(いや本当に囲まれてるんだけど)キラキラした光に包まれていた。


因みに……母様は大きな宝石を胸にキラキラさせてニコニコしておりました。

長きに渡り娘をバカに縛り付けていた事と、バカを友とした事、ウチの金銭的損失への精神的苦痛の父からの慰謝料らしいです。ならば実質的被害者である私にこそ何かあって良いのでは?と母様に募れば


「貴方の結婚式のバージンロードはお爺様と歩くと言えば良いのです。若しくは孫は抱かせない宣言とか、何なら同居はしませんとかどう?」

「か……母様?」


母様……長年話を聞かなかった父様への復讐ですか?家一軒買えそうなお飾りでも直らない?

私が仰る通りの仕打ちを父様にしたとして、私の旨味が全然見えませんが?


「ふふふ、何でも言うこと聞くわよ〜。

嫁に出したくないからってあんなどうにでも御しきれるバカ男選んでる策士ですもの。年季の入った親バカ舐めたら駄目よ。孫まで嵌らせないように頑張ってね」

「え?母様それって、それって?」


私の旨味はやはり全くありませんよ?


もういいでしょ?

お付き合い頂きありがとうございます。

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[良い点] ヒロインがちっともめげないところ。 [気になる点] 異世界?なのにリクルートなどという企業名言葉が出てくるところ。 [一言] なるほど「ざまぁ」とはこういうふうに書くのですね。 勉強になり…
[一言] すごく面白かったです!
[一言] 当然元許嫁親子が一番悪いのですが元はと言えばあっさり騙された父親のせいでしょうね。 手元に置いておきたいからと娘をさんざん馬鹿にされておいてそのままにしていたとか…後から親ばかだったとか言わ…
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