第六十九話 逃げられない部屋
カイゼルは、レイナが連れていかれた廊下を進んでいた。
しかし。
「陛下!」
前方から兵士たちが一斉に押し寄せる。
「止まれ!」
「邪魔だ」
カイゼルが手をかざす。
ドンッ!!
冷気が廊下を駆け抜けた。
兵士たちの足元が凍りつき、次々と動きを止める。
だが。
その数は多かった。
倒しても。
倒しても。
次の兵士が現れる。
「……しつこいな」
カイゼルは苛立ちを隠さない。
その頃。
レイナは閉じ込められた部屋の中で、扉を睨んでいた。
「……どうにかして出ないと」
部屋を見回す。
窓はない。
壁も厚い。
扉には鍵が掛かっている。
「……最悪」
レイナは扉に手を当てる。
そして。
「……っ」
身体に力を込めた。
だが。
魔力がうまく集まらない。
「まだ結界の影響が残ってる……」
思った以上に消耗している。
それでも。
「こんなところで大人しくしてられるか!」
レイナは扉を蹴った。
ドンッ!!
しかし。
扉はびくともしない。
「……硬すぎでしょ」
その時。
カチャ。
鍵が開いた。
「……?」
レイナが身構える。
扉がゆっくり開く。
そこにいたのは。
「お父様……」
アルフォード公爵だった。
「少しは頭が冷えたか?」
「冷えるわけないでしょ」
レイナは睨みつける。
「アタシをここから出して」
「それはできん」
「なら、何しに来たの?」
公爵は淡々と答えた。
「お前には、この屋敷でこれまで通り働いてもらう」
「断る」
「お前に拒否権はない」
「あるって言ってるでしょ!」
レイナが一歩近づく。
「アタシはもう、ここには戻らないって決めたの」
「皇宮にいるから、自分が特別な存在にでもなったつもりか?」
「そんなこと思ってない」
「ならば大人しくしろ」
「嫌だ」
即答だった。
公爵の顔が険しくなる。
「……昔から、お前は余計なことばかりする」
「昔から?」
レイナの目が細くなる。
「アタシが何をしたっていうの?」
「お前は家の言うことを聞かなかった」
「……」
「姉たちの命令にも逆らった」
「それは――」
「そして今では皇帝まで味方につけている」
公爵は冷たく笑った。
「お前が皇宮にいる限り、クラリスとエレノアが皇后になるための邪魔になる」
「……やっぱり、それが目的なんだ」
「そうだ」
公爵は隠すことなく言った。
「お前をここへ戻し、皇宮から遠ざける。それだけだ」
「……」
「お前がここで働いている間に、姉たちが皇帝陛下との関係を築けばいい」
レイナは呆れたように息を吐いた。
「……ほんっと、くだらない」
「何?」
「アタシを閉じ込めて、姉ちゃんたちを皇后にする?」
レイナは公爵を真っ直ぐ見る。
「そんなことでカイゼルが言うこと聞くと思ってるの?」
「皇帝陛下のお気持ちなど関係ない」
「関係あるよ」
レイナは拳を握った。
「カイゼルが誰を選ぶかは、カイゼルが決めることだから」
公爵が黙る。
「それに――」
レイナは笑った。
「アタシは絶対に、ここで働かない」
「……そうか」
公爵は冷たい目を向けた。
「ならば、少し考え方を変えてもらう必要があるな」
「何するつもり?」
「何もしない」
公爵は扉の外へ向かう。
「ただ、ここから出さないだけだ」
バタン。
扉が閉まった。
再び鍵が掛かる。
「……」
レイナは扉を睨む。
「……絶対、出てやる」
その直後。
遠くから。
ドンッ!!
屋敷全体が揺れた。
「……!」
レイナが振り返る。
さらに。
ドン!!
壁が震える。
「カイゼル……?」
レイナの表情が変わる。
「……来てる」
そして。
屋敷の奥へ。
凍てつく冷気が、少しずつ近づいてきていた。




