第六十七話 追い詰められた二人
廊下に出た瞬間。
レイナとカイゼルの前を、何十人もの兵士が塞いだ。
剣を抜いている者。
槍を構えている者。
その全員が、二人を逃がすつもりなどないことは明らかだった。
「……ずいぶん多いな」
カイゼルが冷たく呟く。
レイナは隣で拳を握った。
「カイゼル。アタシ、まだ動ける」
「無理をするな」
「でも――」
「先ほどの結界で消耗しているだろう」
「……バレた?」
「顔を見れば分かる」
レイナは少しだけ顔をしかめた。
確かに身体が重い。
さっきの結界の中で力を使いすぎた。
それでも。
こんなところで捕まるわけにはいかない。
「……絶対に、あの屋敷には戻らない」
レイナが呟く。
その声を聞いたカイゼルが、静かに彼女を見る。
「戻すつもりはない」
「カイゼル……」
「余が必ず連れて帰る」
その言葉に。
レイナの胸が少しだけ熱くなった。
だが。
次の瞬間。
「かかれ!!」
兵士たちが一斉に襲いかかってきた。
「レイナ、下がれ!」
「分かった!」
カイゼルが手をかざす。
瞬間。
床から巨大な氷の壁が突き上がった。
ガガガガガッ!!
先頭の兵士たちが弾き飛ばされる。
「今だ!」
二人は廊下を走り出した。
しかし。
「逃がすな!!」
後方から次々と兵士が追ってくる。
レイナも必死に走る。
だが――。
突然。
足元が光った。
「えっ――」
バシュッ!!
床から魔法陣が浮かび上がった。
「レイナ!」
カイゼルが手を伸ばす。
だが。
魔法陣から伸びた光が、レイナの身体を包み込んだ。
「きゃっ!」
身体が動かない。
「カイゼル!」
「レイナ!!」
カイゼルが駆け寄ろうとする。
しかし、その前に大量の兵士が割り込んだ。
「邪魔をするな!!」
氷の刃が走る。
兵士たちが吹き飛ぶ。
それでも。
次から次へと新しい兵士が押し寄せてくる。
「くっ……!」
カイゼルの足が止まった。
その隙に。
「捕まえろ!」
兵士がレイナへ駆け寄る。
「触んな!!」
レイナは身体を捻り、近づいてきた兵士を蹴り飛ばした。
だが。
魔法陣の拘束は解けない。
「くそっ……!」
もう一人。
さらに二人。
腕を掴まれる。
「離せ!」
「レイナ!」
カイゼルが叫ぶ。
レイナも必死に抵抗する。
しかし、身体に力が入らない。
結界で消耗したせいだ。
普段なら振り払える程度の力なのに。
「……っ!」
両腕を押さえ込まれた。
そして。
首元に冷たい金属が当てられる。
「動くな!」
「……!」
カイゼルの表情が変わった。
「その手を離せ」
低い声。
廊下の空気が一瞬で凍りつく。
兵士たちが怯む。
だが。
「レイナ様を傷つけるな!」
奥から声が飛んだ。
「公爵様の命令だ!」
その言葉に。
レイナの顔が歪む。
「……また、命令……」
昔からそうだった。
何をするのか。
どこへ行くのか。
何を言うのか。
全部、あの家が決めていた。
そして今も。
「……アタシは……」
レイナはゆっくり顔を上げる。
「もう、アンタたちの言うことなんか聞かない」
「黙れ!」
兵士が腕を強く引いた。
「っ……!」
レイナの身体がよろめく。
その瞬間。
カイゼルの目が鋭くなる。
「――余の大切な者に」
冷気が広がる。
「二度と触れるな」
床が一瞬で凍りついた。
兵士たちの足元が凍結し、次々と動きを止めていく。
「な、なんだこの冷気は!?」
「足が動かない!」
「離せ!」
カイゼルが一歩進む。
だが。
その瞬間。
天井から巨大な鉄格子が落下した。
ガァン!!
カイゼルとレイナの間を、分厚い鉄格子が遮った。
「カイゼル!!」
「レイナ!」
鉄格子越しに手を伸ばす。
だが届かない。
「くそっ……!」
カイゼルが鉄格子を凍らせる。
しかし。
鉄格子には魔法を無効化する加工が施されていた。
「……!」
カイゼルの表情が険しくなる。
その隙に。
兵士たちがレイナを連れていく。
「待て!!」
「カイゼル!」
レイナが振り返る。
二人の距離が。
少しずつ。
離れていく。
「レイナ!」
「カイゼル!!」
そして。
兵士たちはレイナを廊下の奥へと連れていった。
カイゼルの前に残ったのは。
閉ざされた鉄格子だけだった。
拳を握る。
「……余から」
低い声が漏れる。
「レイナを奪うつもりか」
その目に。
冷たい怒りが宿った。




