第六十五話 母の形見に隠されたもの
壁の向こう。
魔法陣が、ゆっくりと光を強めていく。
その光に呼応するように。
レイナの首元にあるペンダントも、淡く輝いていた。
「……また光ってる。」
レイナがペンダントへ触れる。
カイゼルがその手を止めた。
「触るな。」
「でも……。」
「今は何が起きるか分からない。」
「分かった。」
レイナは手を下ろす。
すると。
光が少しずつ弱くなった。
「……。」
カイゼルは目を細める。
「やはり、お前の意思に反応している。」
「アタシの?」
「ああ。」
カイゼルは魔法陣を見つめる。
「公爵家は、お前の魔力を利用して何かをしようとしている。」
「でも、アタシには特別な力なんてないよ。」
「本当にそう思っているのか?」
「……。」
レイナは少し考える。
「そう言われても。」
「今まで、普通に暮らしてきたし。」
カイゼルは黙った。
その時。
壁の向こうから声が聞こえてきた。
「もうすぐです。」
「魔法陣の準備は整っています。」
「これでレイナの魔力を引き出せます。」
レイナが目を見開く。
「……聞こえた?」
「ああ。」
カイゼルの表情が険しくなる。
「やはり、まだ何か仕掛けている。」
「どうする?」
「まず、ここを出る。」
「でも結界が……。」
「破る。」
カイゼルが立ち上がる。
「さっきは魔力をぶつけるだけだった。」
「今度は違う方法を使う。」
カイゼルが床へ手を置く。
冷気が広がる。
しかし。
結界はすぐに魔力を吸収していく。
「……。」
「駄目じゃん。」
「まだだ。」
カイゼルは冷静だった。
「結界そのものを壊す必要はない。」
「え?」
「結界を作っている魔法陣を止めればいい。」
カイゼルは部屋の中を見回す。
「どこかに制御装置があるはずだ。」
二人で探し始める。
机。
壁。
床。
しかし。
何も見つからない。
「ないね。」
「……。」
カイゼルはしばらく考える。
そして。
「ペンダントを貸せ。」
「これ?」
「ああ。」
レイナがペンダントを外す。
今度は簡単に外れた。
カイゼルが受け取る。
すると。
ペンダントが強く光った。
「……ここだ。」
「え?」
カイゼルが床を見る。
ペンダントから伸びた光が、一点を指していた。
「床の下に何かある。」
「じゃあ、そこを壊せば……。」
「ああ。」
カイゼルが魔力を集中させる。
床が凍りつく。
そして。
バキィン!
石の床が砕けた。
その下から。
小さな魔法石が姿を現す。
「これだ。」
カイゼルが魔法石へ手を伸ばす。
しかし。
「待って!」
レイナが叫んだ。
「何か来る!」
次の瞬間。
壁が大きく揺れた。
ドンッ!
「……!」
部屋の外から、複数の足音が聞こえる。
「結界を強めろ!」
「陛下を逃がすな!」
公爵家の魔術師たちが動き始めた。
カイゼルは魔法石を握る。
「レイナ。」
「うん。」
「ここから出るぞ。」
レイナは頷いた。
「分かった。」
しかし。
カイゼルが魔法石を破壊しようとした瞬間。
ペンダントが突然、強烈な光を放った。
「……っ!」
レイナの身体が大きく揺れる。
「レイナ!」
「カイゼル……。」
レイナの目が、ゆっくり閉じていく。
「身体に……力が……。」
カイゼルが慌てて支える。
「レイナ!」
その瞬間。
ペンダントから、聞き覚えのない声が響いた。
『――レイナ。』
「……!」
カイゼルとレイナ。
二人とも動きを止める。
その声は。
レイナの母親のものだった。




