第六十三話 閉じ込められた二人
部屋全体を覆う結界。
カイゼルは再び手を伸ばした。
氷の魔力が結界へ触れる。
しかし。
バチッ!
強い反発が起こった。
「……。」
カイゼルは手を引く。
レイナが心配そうに見る。
「大丈夫?」
「ああ。」
「でも、今の……。」
「少し厄介だ。」
カイゼルが結界を見つめる。
「外から魔力を吸収する仕組みになっている。」
「だから、強い魔法を使うほど結界が強くなる。」
「じゃあ、力任せじゃ無理ってこと?」
「ああ。」
レイナは腕を組む。
「なるほど。」
「じゃあ、別の方法を考えればいい。」
カイゼルはレイナを見る。
「そうだな。」
◇ ◇ ◇
扉の外。
公爵は二人の様子を確認していた。
「陛下でも、あの結界は簡単には破れません。」
魔術師が説明する。
「どれくらい持つ?」
「数時間は確実に。」
「十分だ。」
公爵は満足そうに笑う。
「その間にレイナを説得する。」
「皇帝の元へ戻る気などなくなるようにな。」
その後ろでは。
クラリスとエレノアが立っていた。
「本当にレイナを屋敷に置くの?」
クラリスが尋ねる。
「ああ。」
「また昔みたいに?」
「そうだ。」
エレノアが小さく笑う。
「じゃあ、明日からまた仕事をさせればいいのね。」
「好きにしろ。」
公爵は二人を見る。
「ただし、殺すな。」
「陛下が生きている限り、レイナには利用価値がある。」
「……分かったわ。」
◇ ◇ ◇
部屋の中。
レイナは壁を調べていた。
「こっちも駄目。」
「窓も開かない。」
「完全に閉じ込める気だね。」
カイゼルは黙って考えている。
「レイナ。」
「何?」
「そのペンダントを見せろ。」
「これ?」
レイナが母親の形見を差し出す。
カイゼルはペンダントを確認する。
「……妙だな。」
「何が?」
「この魔力。」
「このペンダントから、微弱な魔力を感じる。」
レイナは目を丸くする。
「母上の形見に?」
「ああ。」
「もしかして、この結界と関係ある?」
「分からない。」
カイゼルはペンダントを裏返す。
裏側には、小さな紋章が刻まれていた。
「これは……。」
「知ってるの?」
「古い魔法具の紋章だ。」
「このペンダント自体が、何らかの魔法具なのかもしれない。」
レイナはペンダントを見つめる。
「じゃあ。」
「これを使えば、出られる?」
「可能性はある。」
「よし。」
レイナが笑う。
「じゃあ、やってみよう。」
カイゼルも頷く。
「ああ。」
しかし。
その時。
ガチャッ。
扉が開いた。
「……!」
入ってきたのは、クラリスとエレノアだった。
クラリスはレイナを見るなり笑う。
「久しぶりね、レイナ。」
「……。」
「今日から、またここで暮らしてもらうわ。」
レイナの表情が険しくなる。
「冗談でしょ。」
「冗談じゃないわ。」
エレノアが冷たく笑う。
「皇帝陛下はここから出ていかれる。」
「あなたは、この屋敷に残るの。」
「今までみたいに働いてもらうわ。」
レイナは二人を睨む。
「絶対に嫌。」
「あなたに拒否権なんてないのよ。」
クラリスが一歩近づく。
「ここは、あなたの家なんだから。」
その瞬間。
「違う。」
カイゼルが低く言った。
「ここは、レイナの家ではない。」
「そして。」
冷たい視線が二人へ向く。
「レイナを働かせることを、余が許すと思うな。」
クラリスとエレノアの顔が強張る。
しかし。
公爵家は、まだ切り札を隠していた。
この結界を作った理由。
それは。
カイゼルの魔力を封じることだけではなかった。




