第六話 興味はない……はずだった
豪華なシャンデリアが輝く大広間。
妃選出パーティが始まると、令嬢たちは我先にとカイゼルへ近付いていく。
「陛下、お目にかかれて光栄です。」
「こちら、私が焼きましたお菓子でございます。」
「よろしければ、一曲踊っていただけませんか?」
口々に微笑みかける令嬢たち。
だが、カイゼルには別の声が聞こえていた。
(お願い、私を選んで……!)
(皇后になれば公爵家より上だわ。)
(あの子を蹴落としてでも皇后になる。)
(暴君でも構わない。皇后になれれば。)
「……。」
やはり同じだ。
誰も彼も、見ているのは自分ではない。
皇帝という地位だけ。
「失礼する。」
短く言い残し、カイゼルは令嬢たちの輪を抜けた。
後ろでは不満げな心の声が飛び交う。
(なんで私を見ないのよ!)
(せっかく笑顔を作ったのに!)
(感じの悪い男……。)
聞き流しながら歩いていると、バルコニーへ続く廊下で見覚えのある後ろ姿を見つけた。
レイナだった。
一人で窓の外を眺めながら、小さな皿に乗った料理を頬張っている。
「うまっ。」
その声に、カイゼルは思わず足を止めた。
令嬢なら誰もが皇帝へ近付こうとする。
なのに、この女は料理を食べている。
心を読む。
(ローストビーフうまっ! これ毎日食べられるとか皇帝うらやましいな。)
そして。
「ローストビーフうまっ! これ毎日食べられるとか皇帝うらやましいな。」
「……。」
また同じだ。
一字一句違わない。
カイゼルは気付けば、レイナの前まで歩いていた。
「美味いか。」
突然声を掛けられ、レイナは振り返る。
「あ。」
「皇帝。」
周囲の令嬢たちがざわつく。
「陛下が話しかけてる……!」
「どうしてあの子なの!?」
カイゼルは構わず尋ねた。
「他の令嬢は余へ近付こうとしている。」
「お前は来ないのか。」
レイナは首を傾げた。
(行っても意味なくない?)
「行っても意味なくない?」
「アンタ、興味ない相手に話しかけられても面倒でしょ?」
「アタシも同じ。」
「腹減ってたから飯食べてる。」
「それだけ。」
「……。」
また同じ。
心と口が、一文字も違わない。
カイゼルは生まれて初めて、誰かとの会話が心地よいと感じていた。
その様子を、少し離れた場所からクラリスとエレノアが見ていた。
(どうして……。)
(なんでレイナなの……。)
(絶対に許さない。)
嫉妬に染まった心が響く。
カイゼルの瞳が静かに細められた。
――嫌な予感がする。
その瞬間。
クラリスがワイングラスを手に取り、レイナの方へゆっくりと歩き始めた。
その顔には、優しい姉の笑みが浮かんでいた。
しかし心の中は、真っ黒だった。
(このドレスを台無しにしてあげる。)
(皇帝の前で恥をかけばいい。)
カイゼルは、その企みをすべて聞いていた。




