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暴君陛下は人の心が読める~本音しか言わない元ヤン令嬢を溺愛中~  作者: S@Y@


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第五十七話 皇帝への刺客

 夜の帝城。


 静まり返った廊下を、数人の男たちが歩いていた。


 全員、近衛兵の制服を着ている。


 しかし。


 その動きには、明らかな違和感があった。


「止まれ。」


 先頭の男が小さく手を上げる。


 目の前には、皇帝の執務室へ続く廊下。


「ここから先は?」


「俺が行く。」


 男が一人、前へ出る。


「お前たちは周囲を見張れ。」


「誰も近づけるな。」


「分かった。」


 男は一人で廊下を進んでいく。


 そして。


 執務室の扉の前で立ち止まった。


 ゆっくりと手を伸ばす。


 しかし。


「入れ。」


「……っ!」


 扉の向こうから声がした。


 男の動きが止まる。


「聞こえている。」


「早く入れ。」


 男は一瞬迷った。


 そして。


 扉を開ける。


「失礼します、陛下。」


 執務室の中。


 カイゼルは机に座っていた。


 書類を読んでいる。


 まるで何も知らないかのように。


「どうした。」


「夜分遅くに。」


 男は頭を下げる。


「警備の確認に参りました。」


 カイゼルは顔を上げる。


「そうか。」


「ならば、近くへ来い。」


 男はゆっくり近づく。


 その右手は、制服の内側に隠されていた。


 短剣。


 あと数歩。


 あと一歩。


 男が手を動かす。


 その瞬間。


「それ以上、近づくな。」


 カイゼルの声が低く響いた。


「……!」


 男が凍りつく。


 カイゼルは立ち上がる。


「お前。」


「近衛兵ではないな。」


「なぜ……。」


 男の顔が青ざめる。


 カイゼルは冷静に続けた。


「制服は同じでも。」


「お前の心は、近衛兵のものではない。」


 男が短剣を抜く。


「くそっ!」


 一気に距離を詰める。


 しかし。


「遅い。」


 カイゼルが手をかざす。


 床から氷が伸びる。


 男の腕を絡め取った。


「ぐっ!」


 短剣が床へ落ちる。


 男は必死に腕を動かす。


「離せ!」


「誰の命令だ。」


「……言うものか!」


 カイゼルは目を細める。


「そうか。」


 男の心へ意識を向ける。


 流れ込んでくる思考。


 公爵家。


 報酬。


 皇帝を殺せ。


 そして。


 クラリス。


 エレノア。


 皇后。


「……アルフォード公爵家。」


 カイゼルが呟く。


 男の顔から血の気が引く。


「なぜ……分かった。」


「お前が考えていた。」


「……!」


 男は歯を食いしばる。


 その時。


「陛下!」


 扉が開く。


 アルベルトと近衛兵たちが駆け込んできた。


「侵入者です!」


「すでに捕らえた。」


 カイゼルは短く答える。


「連れていけ。」


「はっ!」


 近衛兵たちが男を拘束する。


 男は引きずられながら叫んだ。


「まだ終わっていない!」


「公爵様は必ず――!」


 扉が閉じる。


 静寂が戻った。


 アルベルトがカイゼルを見る。


「陛下。」


「はい。」


「これで、公爵家が陛下ご自身を狙ったことも証明できます。」


「ああ。」


 カイゼルは冷たい目で扉を見る。


「もう十分だ。」


「公爵家を呼べ。」


 アルベルトが息を呑む。


「ついに……ですか。」


「ああ。」


 カイゼルは机へ戻る。


「これ以上、レイナを狙わせるわけにはいかない。」


「明日。」


「アルフォード公爵家を帝城へ召喚する。」


◇ ◇ ◇


 その頃。


 レイナは自室で眠っていた。


 何も知らずに。


 翌日。


 自分を傷つけ続けた家族と、再び顔を合わせることになるなど。


 まだ知る由もなかった。

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