第五十六話 狙われた皇帝
帝城。
騒ぎが収まった後。
カイゼルは執務室へ戻っていた。
アルベルトが報告書を机へ置く。
「陛下。」
「捕らえた者たちは、全員拘束しております。」
「今回もアルフォード公爵家との繋がりが確認できました。」
カイゼルは報告書へ目を通す。
「そうか。」
「ただ、一つ気になることがございます。」
「何だ。」
アルベルトは一枚の紙を差し出した。
「男の懐から出てきたものです。」
カイゼルが受け取る。
そこには、帝城の見取り図が描かれていた。
いくつもの場所に印がつけられている。
「……レイナの部屋。」
「それだけではありません。」
アルベルトが指を差す。
「こちらは陛下の執務室。」
「そして、こちらは皇帝専用の馬車が置かれる場所です。」
カイゼルの目が細くなる。
「レイナだけを狙っていたわけではない。」
「はい。」
「今回の目的は?」
「まだ分かりません。」
カイゼルは見取り図を見つめる。
その時。
ふと、男の考えていたことを思い出す。
逃げる。
レイナを連れていく。
それとは別に。
もう一つの命令。
――皇帝を足止めしろ。
カイゼルの表情が変わる。
「……なるほど。」
「何か分かりましたか?」
「奴らの目的は、レイナを連れ去ることだけではない。」
「余を帝城から引き離すつもりだった。」
アルベルトが息を呑む。
「では……。」
「ああ。」
カイゼルは見取り図を机へ置く。
「次は余を狙ってくる。」
◇ ◇ ◇
その頃。
レイナは庭園のベンチに座っていた。
「……疲れた。」
今日は朝から騒ぎ続きだった。
レイナは空を見上げる。
「平和に暮らしたいだけなのになぁ。」
「それは難しいかもしれんな。」
「うわっ!」
突然声をかけられ、レイナが飛び上がる。
「カイゼル!?」
「ああ。」
「急に後ろから声かけないでよ。」
「すまない。」
カイゼルが隣へ座る。
「今日はもう大丈夫なの?」
「問題ない。」
「本当に?」
「ああ。」
レイナは少し安心したように笑う。
「ならよかった。」
カイゼルはその横顔を見る。
そして。
「レイナ。」
「何?」
「しばらく、余から離れるな。」
「また?」
「ああ。」
「どうして?」
カイゼルは少し黙った。
「今度は、余自身が狙われている可能性がある。」
レイナの表情が変わる。
「……カイゼルが?」
「ああ。」
「だったら余計に、アタシも一緒にいた方がいいじゃん。」
「なぜそうなる。」
「だって。」
レイナは真剣な顔をする。
「アンタ一人で戦うより、アタシもいた方がいいでしょ。」
「……。」
「アタシ、こう見えて結構強いよ?」
カイゼルはレイナを見る。
「知っている。」
「ならいいじゃん。」
「だが。」
カイゼルはレイナの手を取った。
「お前を危険な場所へ連れていくつもりはない。」
「……。」
レイナは少しだけ頬を赤くする。
「そういうこと、普通に言うよね。」
「何がだ。」
「なんでもない。」
レイナは顔を逸らした。
◇ ◇ ◇
夜。
帝城の外。
一台の馬車が静かに動き始める。
その中には、数人の男が乗っていた。
「準備はできたか。」
「ああ。」
「今夜、皇帝の執務室へ向かう。」
「警備は?」
「すでに一人、こちら側へ引き込んである。」
「なら問題ない。」
男は懐から短剣を取り出す。
「レイナを連れ去る必要はない。」
「今度は皇帝を直接狙う。」
馬車は暗闇の中を進んでいく。
しかし。
その計画を。
すでにカイゼルは知っていた。
帝城の奥。
執務室の窓辺に立つカイゼルは、静かに目を閉じる。
聞こえてくるのは。
遠くから近づく殺意。
「……来るか。」
カイゼルは目を開く。
その瞳は、冷たく光っていた。




