第五十四話 迫る馬車
翌朝。
レイナはいつも通り朝食を終え、窓の外を眺めていた。
「今日もいい天気だな。」
すると。
コンコン。
扉が叩かれる。
「レイナ様。」
侍女の声だった。
「陛下がお呼びです。」
「カイゼルが?」
「はい。」
レイナは立ち上がる。
「分かった。」
部屋を出る。
廊下には近衛兵が数人立っていた。
昨日よりも警備が厳重になっている。
「……本当に警戒してるんだ。」
レイナが呟く。
そのまま廊下を歩いていると。
前方からカイゼルが歩いてきた。
「レイナ。」
「おはよう。」
「ああ。」
カイゼルはレイナを見る。
「昨夜は眠れたか。」
「うん。」
「ならよかった。」
カイゼルは少しだけ笑った。
「今日は帝城の外へ出る予定はない。」
「えー。」
「昨日のことを忘れたのか。」
「忘れてないけど。」
「なら大人しくしていろ。」
「分かったよ。」
レイナは頬を膨らませる。
カイゼルはそんなレイナを見て、わずかに口元を緩めた。
◇ ◇ ◇
その頃。
帝城の外。
一台の馬車が静かに停まっていた。
御者席に座る男が、城門を見つめている。
「……まだ動きはないか。」
その隣にいた男が答える。
「ない。」
「今日、レイナは外へ出ないらしい。」
「なら、どうする?」
二人は顔を見合わせる。
「予定を変える。」
「城から出るのを待つ。」
「いつになる?」
「分からない。」
「だが、必ず機会は来る。」
男は懐から一枚の紙を取り出した。
そこには公爵家の紋章が押されている。
「公爵様からの命令だ。」
「必ず生きたまま連れてこい。」
「分かっている。」
◇ ◇ ◇
昼。
レイナは庭園を歩いていた。
「暇だなぁ……。」
花壇を眺めながら呟く。
そこへ。
「何をしている。」
カイゼルが現れた。
「暇つぶし。」
「そうか。」
「アンタは仕事?」
「ああ。」
「じゃあ邪魔しちゃった?」
「いや。」
カイゼルは首を横に振る。
「少し休憩している。」
「また?」
「余も休む。」
「へぇ。」
レイナが笑う。
「皇帝って意外と暇なんだね。」
「……。」
カイゼルは真顔になる。
「今のは聞かなかったことにする。」
「ごめんごめん。」
二人が庭園を歩いていると。
遠くからアルベルトが走ってきた。
「陛下!」
「どうした。」
「城門付近で、不審な馬車が確認されました。」
カイゼルの表情が変わる。
「不審な馬車?」
「はい。」
「昨夜から同じ場所に停まっているそうです。」
「所有者は。」
「現在、確認中です。」
カイゼルは考える。
「レイナ。」
「ん?」
「今日は余のそばにいろ。」
「分かった。」
レイナは素直に頷いた。
しかし。
その時。
城門の方から大きな音が響いた。
「何だ!?」
近衛兵たちが一斉に走り出す。
アルベルトも振り返る。
「陛下!」
カイゼルはレイナを自分の後ろへ移動させた。
「動くな。」
「うん。」
城門の向こうから、複数の男たちが走ってくる。
「侵入者です!」
近衛兵の叫び声が響いた。
カイゼルの瞳が冷たく光る。
「……ついに来たか。」
レイナは拳を握る。
「またアタシを狙ってる?」
「ああ。」
カイゼルはレイナを見る。
「だが。」
「今度は、絶対に渡さない。」
その言葉と同時に。
城門の向こうから、黒装束の男たちが一斉に姿を現した。
そして。
その中には。
レイナを生きたまま連れ去ることだけを命じられた男がいた。
「標的を確認。」
「レイナ・アルフォード。」
「生きたまま連れていく。」
男たちが一斉に走り出す。
カイゼルは一歩前へ出た。
「来い。」
帝城の庭園に、冷気が広がった。




