第五十二話 忍び込んだ者
帝城へ戻ったレイナとカイゼルは、すぐに執務室へ向かった。
廊下には、いつもより多くの近衛兵が配置されている。
「……なんか、物々しいね。」
「ああ。」
カイゼルは短く答える。
執務室の前まで来ると、アルベルトが待っていた。
「陛下。」
「状況は。」
「侵入者は一名です。」
「ですが、逃げられました。」
カイゼルの表情が険しくなる。
「何を持ち出した。」
「こちらです。」
アルベルトが一枚の書類を見せる。
「帝国西部の軍事拠点に関する資料です。」
レイナは目を丸くした。
「そんな重要なものを……?」
「ああ。」
カイゼルは書類を見る。
「公爵家が欲しがるような情報ではない。」
「では、別の目的が?」
「その可能性があります。」
アルベルトが答える。
「侵入者が何をするつもりだったのか、まだ分かっておりません。」
カイゼルは少し考える。
そして。
「城内を徹底的に調べろ。」
「特に出入口と使用人用の通路だ。」
「承知しました。」
アルベルトが一礼する。
その時。
レイナが何かに気づいた。
「ねえ。」
「何だ。」
「さっきから、あの人たち……。」
廊下の先を指差す。
そこには数人の侍女が立っていた。
しかし。
その中に、一人だけ見覚えのない女性がいる。
「……あの人、見たことない。」
カイゼルがそちらを見る。
「どの者だ。」
「あの、一番端。」
女性はレイナたちの視線に気づくと、慌てて頭を下げた。
「失礼いたします。」
そして、すぐに廊下の角へ消えていく。
カイゼルの目が細くなる。
「アルベルト。」
「はっ。」
「あの女を確認しろ。」
「承知しました。」
近衛兵が追いかける。
しかし。
「陛下!」
すぐに声が響いた。
「いません!」
アルベルトが驚いたように報告する。
「廊下の先にも、部屋にも姿がありません!」
カイゼルの表情が変わる。
「……転移魔法か。」
「その可能性が高いかと。」
レイナは少し不安そうにカイゼルを見る。
「ねえ。」
「あの人も、公爵家の人なのかな。」
「まだ分からない。」
カイゼルはそう答えた。
しかし。
心の中では、別のことを考えていた。
(あの女は、レイナを見ていた。)
(ただの侵入者ではない。)
カイゼルはレイナを見る。
「レイナ。」
「ん?」
「しばらく、余のそばから離れるな。」
「分かった。」
レイナは素直に頷く。
その直後。
遠くから、侍女の悲鳴が聞こえた。
「きゃあああっ!」
カイゼルとアルベルトが同時に振り向く。
「何事だ!」
近衛兵が走ってくる。
「陛下!」
「レイナ様のお部屋でございます!」
レイナの表情が変わる。
「……アタシの部屋?」
カイゼルはすぐにレイナの手を掴んだ。
「行くぞ。」
二人は急いで廊下を駆け出した。
そして。
レイナの部屋の扉が開いた瞬間。
二人は言葉を失った。
部屋の中は荒らされていた。
引き出しは開けられ。
衣服は床に散らばっている。
そして。
ベッドの上には、一枚の紙が置かれていた。
カイゼルが拾い上げる。
そこには、短い言葉だけが書かれていた。
『次は、本人を連れていく。』
レイナの顔から笑みが消える。
カイゼルの手の中で、紙が凍りついた。
「……そうか。」
低い声。
「余に喧嘩を売るつもりか。」
その瞳に、冷たい怒りが宿った。




