第五十一話 帝城の中の罠
その日の午後。
レイナとカイゼルは、予定通り帝都へ出ることになった。
今回は前回よりも護衛の数が多い。
レイナは馬車へ乗り込みながら、周囲を見回した。
「……護衛、多くない?」
「ああ。」
「前より倍くらいいる気がする。」
「必要だからな。」
カイゼルも馬車へ乗り込む。
「今度こそ、何も起こさせない。」
「そんなに心配しなくても大丈夫だって。」
「お前は少し危機感を持て。」
「持ってるよ。」
「本当に?」
「……たぶん。」
カイゼルは呆れたように息を吐いた。
馬車がゆっくりと動き出す。
レイナは窓の外を眺める。
「今日は何食べようかな。」
「また食べ物か。」
「帝都に来たら食べたくなるじゃん。」
「好きなものを選べ。」
「やった。」
レイナは嬉しそうに笑った。
その様子を見て、カイゼルもわずかに表情を和らげる。
◇ ◇ ◇
一方。
帝城。
誰もいない廊下を、一人の男が歩いていた。
男は近衛兵の制服を着ている。
しかし。
その胸元に付けられた徽章は、ほんの少しだけ形が違っていた。
男は周囲を確認する。
「……ここだ。」
目の前にあるのは、皇帝の執務室へ続く扉。
男は懐から小さな鍵を取り出した。
鍵を差し込む。
カチャリ。
扉が開く。
男は素早く中へ入った。
机。
本棚。
大量の書類。
男は迷うことなく、机の引き出しへ向かう。
「これだ。」
引き出しの奥から、一枚の書類を取り出す。
そこには、帝国の重要な情報が記されていた。
男はそれを懐へしまう。
そして。
部屋を出ようとした。
その時。
「どこへ行く。」
「……っ!」
背後から声がした。
男が振り返る。
そこには。
一人の近衛兵が立っていた。
「ここは陛下の執務室だ。」
「許可なく入ることはできない。」
男は剣へ手を伸ばす。
「……邪魔だ。」
しかし。
「動くな。」
近衛兵たちが次々と廊下へ現れる。
完全に囲まれていた。
「なぜ……。」
男の顔が青ざめる。
その時。
近衛兵の一人が冷静に告げる。
「陛下はすでに、この城の中に協力者がいることを把握している。」
「お前が何を探しているのかもな。」
男の表情が変わる。
「……まさか。」
近衛兵が男の手元を見る。
「その書類を渡せ。」
男は黙り込む。
そして。
懐の書類を強く握りしめた。
「……渡せるか。」
次の瞬間。
男が窓へ向かって走り出す。
「捕らえろ!」
近衛兵たちが一斉に動く。
しかし。
男は窓を開け、そのまま外へ飛び出した。
「なっ!」
近衛兵が窓から外を見る。
だが。
男の姿は、すでに城壁の向こうへ消えていた。
◇ ◇ ◇
その頃。
帝都を歩くレイナは、露店の前で足を止めていた。
「カイゼル。」
「ん?」
「あれ食べたい。」
指差した先には、焼きたての菓子が並んでいる。
「またか。」
「だって美味しそう。」
「分かった。」
カイゼルが店主へ声をかける。
レイナは嬉しそうに笑った。
しかし。
カイゼルの表情が、ふと変わる。
「……。」
「どうしたの?」
レイナが尋ねる。
カイゼルは周囲を見回した。
「今。」
「誰かが余の執務室へ侵入した。」
「え?」
「心を読んだの?」
「ああ。」
カイゼルの目が細くなる。
「何かを探していた。」
「そして、重要な書類を持ち出した。」
レイナは驚く。
「帝城の中で?」
「ああ。」
カイゼルの表情が険しくなる。
公爵家がレイナを連れ戻そうとしている。
そして今度は、帝城内部へまで手を伸ばしてきた。
「……思った以上に大胆だな。」
カイゼルが呟く。
レイナは少し不安そうに見る。
「大丈夫?」
カイゼルはレイナへ視線を向ける。
「ああ。」
「お前が心配することではない。」
「でも……。」
レイナが何か言いかけた、その時。
カイゼルは突然、レイナの手を取った。
「今日はもう戻る。」
「え?」
「帝城の中で何が起きているのか確認する。」
「それに。」
カイゼルはレイナの手を離さない。
「お前を一人にしたくない。」
レイナは少し驚いた顔をする。
「……分かった。」
二人は来た道を戻り始めた。
しかし。
帝城へ戻れば、そこには。
まだ二人が知らない新たな異変が待っていた。




