第五十話 偽りの命令
翌朝。
レイナは朝食を終えると、自室で外出の準備をしていた。
「今日は街に行くんだよね。」
侍女が頷く。
「はい。」
「陛下がお昼頃にお迎えに来られる予定です。」
「楽しみだな。」
レイナは嬉しそうに笑った。
その時。
コンコン。
扉が叩かれる。
「失礼いたします。」
一人の近衛兵が入ってきた。
「レイナ様。」
「陛下からお伝えするよう命じられました。」
「今日の外出ですが、予定が変更になったそうです。」
「え?」
レイナが首を傾げる。
「変更?」
「はい。」
「陛下は先に帝都へ向かわれるとのことです。」
「レイナ様は後から合流するように、と。」
レイナは少し考える。
「カイゼルが先に行くの?」
「はい。」
「そっか。」
特に疑うことなく頷く。
「じゃあ、準備できたし行こうかな。」
レイナは侍女と一緒に部屋を出る。
廊下を歩き始めた、その直後。
「レイナ様!」
後ろから慌ただしい足音が聞こえた。
振り返る。
「アルベルト?」
アルベルトが急いで駆け寄ってくる。
「お待ちください!」
「どうしたの?」
アルベルトはレイナの前で足を止める。
「レイナ様。」
「陛下は、本日の予定を変更しておりません。」
「……え?」
レイナが目を丸くする。
「では、先ほどの近衛兵は?」
「陛下の命令だと言って、レイナ様を部屋から連れ出したのですか?」
「うん。」
アルベルトの表情が険しくなる。
「その者は、陛下から命令を受けておりません。」
「つまり……。」
「嘘だったということです。」
レイナは固まった。
「……また?」
「はい。」
アルベルトは周囲を警戒する。
「現在、他の近衛兵がその者を捜しています。」
「レイナ様は、ここから動かないでください。」
「分かった。」
その時。
「レイナ。」
廊下の奥から声がした。
振り返る。
カイゼルがこちらへ歩いてくる。
「カイゼル。」
レイナが駆け寄る。
「今日、街に行くんじゃなかったの?」
「ああ。」
カイゼルは頷く。
「その予定に変更はない。」
「……じゃあ、やっぱり偽物だったんだ。」
「そういうことだ。」
カイゼルはレイナを見る。
「怪我はないか。」
「ないよ。」
「そうか。」
カイゼルは小さく息を吐く。
しかし。
その表情からは、怒りが滲んでいた。
「余の名を使って、お前を連れ出そうとした。」
「公爵家の仕業だろう。」
レイナはため息をつく。
「本当にしつこいなぁ。」
「ああ。」
カイゼルの声が低くなる。
「だから、こちらも手加減はしない。」
アルベルトが一礼する。
「陛下。」
「先ほどの男について、すぐに調べます。」
「ああ。」
カイゼルは頷く。
「誰の指示で動いたのか、必ず突き止めろ。」
「承知しました。」
アルベルトがその場を離れる。
レイナはカイゼルを見る。
「……街は?」
「行く。」
「今から?」
「ああ。」
「でも、また狙われるんじゃない?」
「だから余が一緒に行く。」
レイナは少し笑った。
「最初からそのつもりだったんじゃん。」
「ああ。」
「なら安心だね。」
レイナが笑う。
カイゼルも、ほんの少しだけ口元を緩めた。
しかし。
二人はまだ知らなかった。
公爵家が仕掛けた罠は、これだけではない。
そして次に狙われるのは――。
帝城の中で最も警戒されている場所だった。




