第四十四話 皇帝の答え
謁見の間を出た後。
レイナとカイゼルは並んで廊下を歩いていた。
「ねえ。」
「何だ。」
「さっきの二人。」
「ああ。」
「本当に皇后になりたいんだね。」
「そうだな。」
レイナは少し考える。
「まあ、本人たちが望んでるならいいんじゃない?」
カイゼルが足を止めた。
「……お前は、本当にそれでいいのか。」
「何が?」
「二人のどちらかが皇后になることだ。」
「うん。」
レイナは首を傾げる。
「アタシが皇后になるわけじゃないし。」
カイゼルの眉がぴくりと動く。
「なぜだ。」
「え?」
「なぜ、お前が皇后にならないと思う。」
「いやいや。」
レイナは慌てて手を振る。
「アタシ、皇后なんて無理だって。」
「礼儀作法とか苦手だし。」
「そもそも、皇帝の隣に立つようなタイプじゃないでしょ。」
カイゼルは黙ってレイナを見る。
「何?」
「……お前は、自分を低く見積もりすぎだ。」
「そうかな。」
「ああ。」
「お前が皇后に向いていないと、誰が決めた。」
レイナは少し驚く。
「だって……。」
「公爵家の娘だから?」
「それもあるけど。」
レイナは苦笑する。
「もっと相応しい人がいるでしょ。」
カイゼルの表情が険しくなる。
「相応しい?」
「うん。」
「誰だ。」
「クラリスとか、エレノアとか。」
その名前を聞いた瞬間。
カイゼルの声が低くなる。
「余は、あの二人を選ぶつもりはない。」
「……え?」
レイナが目を丸くする。
「まだ決めてないんじゃないの?」
「決めた。」
「誰にするの?」
カイゼルは答えなかった。
ただ。
真っ直ぐレイナを見つめる。
「……何?」
「お前は本当に鈍いな。」
「何が?」
カイゼルは小さく息を吐く。
「まだ言うつもりはない。」
「えー。」
レイナが頬を膨らませる。
「そこまで言ったなら教えてよ。」
「そのうち分かる。」
「気になるじゃん。」
「なら、考えていろ。」
「ずるい。」
レイナは不満そうに歩き出す。
カイゼルはその隣を歩く。
そして。
誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。
「……お前以外を選ぶつもりはない。」
レイナには聞こえなかった。
だが。
カイゼル自身は、その言葉を口にしたことで。
自分の気持ちを、はっきりと認め始めていた。
◇ ◇ ◇
その頃。
アルフォード公爵家。
「……陛下は、何と?」
公爵がクラリスとエレノアへ問いかける。
クラリスは悔しそうに唇を噛んだ。
「何も約束してくださいませんでした。」
「ただ、皇后については……。」
「私たちの話を聞いただけです。」
公爵の顔が険しくなる。
「そうか。」
エレノアが不安そうに口を開く。
「お父様。」
「陛下は……レイナを皇后にするおつもりなのでしょうか。」
公爵は黙り込む。
そして。
「それだけは、絶対に阻止する。」
低い声だった。
「レイナが皇后になれば。」
「我々の計画は全て崩れる。」
「だったら……。」
クラリスが顔を上げる。
「もう一度、レイナを屋敷へ戻せばいい。」
「今度は、絶対に逃げられないように。」
エレノアも頷く。
「皇帝陛下に知られない方法で……。」
三人の間に、嫌な沈黙が流れる。
そして。
公爵は静かに命じた。
「方法を考えろ。」
「レイナを帝城から引き離す方法を。」
再び。
公爵家の思惑が動き始めた。




