第四十二話 皇后候補たちの動き
数日後。
帝城では、いつもと変わらない朝が始まっていた。
レイナは庭園のベンチに座り、焼き菓子を食べていた。
「平和だなぁ……。」
隣には侍女が一人。
少し離れた場所には近衛兵。
以前なら落ち着かなかったはずの警備も、今ではすっかり見慣れていた。
「レイナ。」
聞き慣れた声がする。
「ん?」
振り返ると、カイゼルが歩いてきた。
「また仕事サボってる?」
「休憩だ。」
「最近それ多くない?」
「お前に会う時間を作っているだけだ。」
「……。」
レイナは一瞬黙った。
(こういうこと平気で言うんだよな、この人。)
「……そっか。」
何となく照れくさくなり、焼き菓子へ視線を戻す。
カイゼルはそんなレイナを見て、わずかに笑った。
「今日は街へ行く。」
「え?」
「帝都を見て回る。」
「また?」
「ああ。」
レイナの顔がぱっと明るくなる。
「行く!」
「今回は誘拐されないようにな。」
「それ、何回言うの?」
「何度でも言う。」
「過保護。」
「否定はしない。」
「また認めた。」
レイナが笑う。
カイゼルも小さく笑った。
しかし。
その頃。
帝城の正門には、一台の馬車が到着していた。
馬車に刻まれているのは、アルフォード公爵家の紋章。
扉が開く。
降りてきたのは、二人の令嬢だった。
クラリス。
そしてエレノア。
侍女を連れ、帝城の中へ入っていく。
「本当に来るのね。」
クラリスが小さく呟く。
「ええ。」
エレノアが答える。
「お父様から言われたでしょう。」
「陛下に直接お会いして、皇后候補として自分たちを印象づけろって。」
「そうね。」
クラリスは扇を閉じる。
「レイナより、私たちの方が皇后に相応しいと分かっていただかないと。」
エレノアは小さく笑う。
「でも、陛下はレイナをかなり気に入っているみたい。」
「だからこそ。」
クラリスの表情が険しくなる。
「私たちが皇后になればいいのよ。」
「レイナには屋敷へ戻ってもらう。」
「そうすれば、全部元通り。」
二人は知らない。
すでにカイゼルの中で。
皇后を誰にするかという問いの答えが、ほとんど決まっていることを。
◇ ◇ ◇
「陛下。」
近衛兵が庭園へ駆けてくる。
「アルフォード公爵家のご令嬢、クラリス様とエレノア様がお見えです。」
カイゼルの表情が変わった。
「……二人が?」
「はい。」
レイナも驚く。
「姉さんたちが?」
カイゼルは少し考える。
「目的は分かっている。」
「会うの?」
「ああ。」
レイナが首を傾げる。
「大丈夫?」
「何がだ。」
「皇后になりたいんでしょ、二人とも。」
「そうだな。」
「アタシが邪魔なんじゃない?」
カイゼルはレイナを見る。
「だから何だ。」
「え?」
「お前が邪魔なのではない。」
「二人が勝手にそう思っているだけだ。」
レイナは思わず笑った。
「アンタ、そういうところ好きだわ。」
カイゼルが一瞬固まる。
「……。」
「ん?」
「いや。」
「何でもない。」
カイゼルは顔を逸らした。
しかし。
その耳が、ほんの少し赤くなっていることに。
レイナは気づかなかった。
「では、行くぞ。」
「うん。」
二人は並んで歩き始める。
その先には。
カイゼルの前で皇后候補として自分たちを売り込もうとする、クラリスとエレノアが待っていた。




