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暴君陛下は人の心が読める~本音しか言わない元ヤン令嬢を溺愛中~  作者: S@Y@


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第四十話 忍び寄る罠


 数日後。


 帝城での生活は、いつも通りだった。


 レイナは庭園を歩きながら、大きく伸びをする。


「平和だなぁ。」


 誘拐事件があったとは思えないほど、穏やかな日だった。


 近衛兵の数は以前より増えている。


 侍女たちもレイナの身の回りを以前より気にかけていた。


 しかし。


 レイナ本人は、あまり気にしていない。


「さすがに、もう襲ってこないでしょ。」


 そう呟いた時。


「何がだ。」


 後ろから声がした。


「うわっ!」


 レイナが振り返る。


「カイゼル!?」


「驚きすぎだ。」


「急に後ろから来るからでしょ。」


「そうか。」


「そうだよ。」


 カイゼルはレイナの隣に並ぶ。


「今日は何をしている。」


「散歩。」


「一人で?」


「うん。」


「……そうか。」


 カイゼルの表情が少し険しくなる。


「何?」


「護衛は。」


「いるよ。」


 レイナが後ろを指差す。


 少し離れた場所に、近衛兵が数人立っている。


「ほら。」


「ならいい。」


「アンタ、本当に心配性だよね。」


「お前が無防備すぎる。」


「昨日もそれ言ってた。」


「何度でも言う。」


 レイナは笑った。


「はいはい。」


◇ ◇ ◇


 その頃。


 帝城の別の場所では。


 侍女長が一人の女性と話をしていた。


「本当にこちらでよろしいのですか?」


「ええ。」


 女性は帝城の侍女だった。


 しかし。


 彼女はアルフォード公爵家から密かに送り込まれた人間だった。


「レイナ様に近づいて。」


「少しずつ、レイナ様への不満を煽りなさい。」


「はい。」


「そして。」


「陛下がレイナ様を特別扱いしていることを、周囲へ広めるのです。」


 侍女は眉をひそめる。


「それに何の意味が?」


「皇帝陛下の側にいる女として、レイナ様へ嫉妬する者を増やす。」


「人の噂ほど厄介なものはありません。」


「レイナ様が帝城に居づらくなれば。」


「自分から公爵家へ戻りたいと言うかもしれません。」


「なるほど……。」


 女性は小さく笑った。


「直接手を出す必要はない。」


「周囲から追い込めばいい。」


◇ ◇ ◇


 翌日。


 レイナが廊下を歩いていると。


「レイナ様。」


 昨日まで見たことのない侍女が声をかけてきた。


「ん?」


「少し、お話してもよろしいでしょうか。」


「いいけど。」


 侍女は周囲を確認する。


「実は……。」


「何?」


「帝城では、レイナ様のことをよく思っていない者もいるのです。」


「え?」


 レイナは目を瞬く。


「どういうこと?」


「陛下がレイナ様を特別に扱っていることを、快く思わない方もいらっしゃいます。」


「それで?」


「レイナ様が突然帝城へ来られたことで。」


「以前から仕えている者たちの中には、不満を抱いている者も……。」


 レイナは少し考える。


「まあ、そういう人もいるんじゃない?」


 意外にも、あっさりした返事だった。


「気にしないよ。」


「え?」


「アタシのこと嫌いなら、それはそれでいいし。」


「全員に好かれるなんて無理でしょ。」


 侍女は言葉を失う。


「……そう、ですか。」


「うん。」


 レイナは笑う。


「わざわざ教えてくれてありがと。」


「でも、気にしなくて大丈夫。」


 そう言って歩き去っていく。


 侍女はその背中を見つめる。


「……思ったより、簡単にはいかない。」


◇ ◇ ◇


 一方。


 執務室。


 アルベルトが報告をしていた。


「陛下。」


「アルフォード公爵家からの動きについてです。」


「何だ。」


「最近、公爵家と繋がりのある者が帝城へ入り込んでいる可能性があります。」


 カイゼルの目が細くなる。


「目的は。」


「まだ分かりません。」


「だが。」


「レイナ様の周囲を探っているようです。」


「……。」


 カイゼルは静かに立ち上がった。


「調べろ。」


「はい。」


「ただし。」


「レイナにはまだ知らせるな。」


「承知しました。」


 カイゼルは窓の外を見る。


 庭園では、レイナが花を眺めていた。


 その姿を見ながら。


「……また何か企んでいるな。」


 低く呟く。


 そして。


 今度は。


 誰にもレイナを近づけさせない。


 そう心に決めた。


◇ ◇ ◇


 その夜。


 レイナの部屋。


「今日は平和だったなぁ。」


 レイナはベッドに寝転ぶ。


 しかし。


 机の上に置かれた一枚の紙に気づいた。


「ん?」


 見覚えのない紙だった。


 レイナが手に取る。


 そこには。


『あなたが帝城にいる限り、周囲の人間が不幸になる。』


 たった一文だけ。


「……何これ。」


 レイナの表情が変わる。


 その瞬間。


 窓の外で。


 何かが動いた。


 レイナは反射的に振り返る。


「誰?」


 返事はない。


 窓を開ける。


 しかし。


 そこには誰もいなかった。


 レイナは紙を握りしめる。


「……公爵家?」


 初めて。


 レイナ自身へ直接向けられた脅しだった。


 そして。


 これまでの事件とは違う。


 公爵家は今度。


 レイナの心そのものを狙い始めていた。

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