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暴君陛下は人の心が読める~本音しか言わない元ヤン令嬢を溺愛中~  作者: S@Y@


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第四話 初めての人間


「……何を騒いでいる。」


低く響く声に、その場にいた令嬢たちは一斉に跪いた。


「へ、陛下……!」


帝国皇帝、カイゼル・ヴォルグレイヴ。


その姿を目にしただけで、廊下は静まり返る。


誰もが恐れる暴君。


その前で無礼を働けば、命はない。


……はずだった。


「アンタが皇帝?」


一人を除いて。


場の空気が凍りつく。


「レ、レイナ!」


「何てことを!」


「頭を下げなさい!」


クラリスが青ざめて叫ぶ。


レイナはカイゼルをじっと見つめた。


「悪い。」


「初対面だから、つい見ちゃった。」


そう言って軽く頭を下げる。


その態度に、誰もが息を呑んだ。


(終わった……。)


(あの子、処刑される。)


(馬鹿ね。)


令嬢たちの心が、カイゼルにははっきり聞こえる。


……くだらない。


まただ。


誰もが他人の不幸を願い、自分だけが助かろうとする。


その時だった。


「レイナ!」


クラリスが一歩前へ出る。


「陛下に向かって何という口の利き方なの!」


「謝りなさい!」


レイナはため息をついた。


「アンタが先にアタシを階段から突き落としたんでしょ。」


「何を言っているの!」


クラリスは涙を流し始める。


「妹が転んだだけです!」


「私は何も……!」


周囲の令嬢たちも口々に言う。


「私も見ていました。」


「事故でしたわ。」


もちろん全員嘘だ。


カイゼルには心が読める。


(バレてない、バレてない。)


(押したなんて証拠ない。)


(この子さえ消えればいい。)


聞くだけで吐き気がする。


そんな中、一人だけ違う声が聞こえた。


レイナだった。


(ぶん殴りたい。でも皇帝の前だし、一発だけにしとく。)


カイゼルは何気なく視線を向ける。


次の瞬間。


レイナが口を開いた。


「ぶん殴りたい。でも皇帝の前だし、一発だけにしとく。」


「……!」


カイゼルの目が僅かに見開かれる。


偶然か。


そう思い、もう一度心を読む。


レイナはクラリスへ歩み寄る。


(先に手を出したのはアンタ。売られた喧嘩は買う主義なんだよ、アタシは。)


そして、そのまま言葉にした。


「先に手を出したのはアンタ。売られた喧嘩は買う主義なんだよ、アタシは。」


一字一句。


まったく同じ。


心と口にした言葉が、一文字も違わない。


そんな人間は、生まれて初めてだった。


カイゼルは息を呑む。


(そんな……。)


人は必ず本音を隠す。


だからこそ、人は信用できない。


そう思い続けてきた。


だが、この娘は違う。


思ったことを、そのまま口にする。


飾らない。


偽らない。


嘘をつかない。


「……初めてだ。」


思わず小さく呟いた、その時。


「レイナ!」


クラリスがレイナへ手を振り上げる。


しかし。


バシィッ!!


振り下ろされた腕を、レイナはあっさり掴んだ。


「え……?」


「やられっぱなしだと思ってた?」


そのまま腕を払いのける。


クラリスが尻もちをついた。


「きゃっ!」


レイナは見下ろしながら言う。


(今までの分もまとめて返したいけど、今日はこれくらいで勘弁してやる。)


そして口を開く。


「今までの分もまとめて返したいけど、今日はこれくらいで勘弁してやる。」


まただ。


また、一字一句違わない。


カイゼルはレイナから目を離せなかった。


二十七年間。


誰一人として信用できなかった。


だが、この少女だけは違う。


心を読まなくても、本音を話す。


そんな人間が、本当に存在したのか。


カイゼルは知らず知らずのうちに、口元をわずかに緩めていた。

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