第三話 目覚めた元ヤン
妃選出パーティ当日。
帝城には、色とりどりのドレスを纏った令嬢たちが次々と集まっていた。
「陛下にお会いできるなんて……!」
「皇后になれるのは私よ。」
「暴君だなんて噂よ。きっと優しい方だわ。」
華やかな笑顔。
しかし、その裏では互いを蹴落とそうとする本音が渦巻いていた。
そんな中、レイナは一人、場違いなほど質素な淡いクリーム色のドレスを着て歩いていた。
新品ではない。
姉たちのお下がりを仕立て直したものだった。
「まあ、ご覧になって。」
「公爵家の三女ですって。」
「みすぼらしいこと。」
周囲から嘲笑が漏れる。
レイナは気にしない。
(終わったら帰ろ。)
そんなことを考えながら歩いていると――。
「痛っ!」
背中を強く押された。
体勢を崩したレイナは、大理石の階段を転げ落ちる。
ゴンッ!
鈍い音が響いた。
「きゃああ!」
令嬢たちの悲鳴が上がる。
階段の下で倒れたまま、レイナは動かない。
クラリスが口元を押さえる。
「まあ、大丈夫かしら!」
その声とは裏腹に、心の中では笑っていた。
(これで終わりね。)
(皇后候補は私だけ。)
意識が暗闇へ沈む。
その瞬間だった。
――暴走族総長だった女子高生。
――単車の音。
――仲間との笑い声。
――喧嘩。
――事故。
途切れていた記憶が、一気に押し寄せる。
「……は?」
レイナはゆっくり目を開いた。
「え?」
「……転生?」
頭を押さえる。
前世。
日本。
高校生。
元ヤン。
全部思い出した。
「マジかよ……。」
思わず口から漏れる。
周囲の令嬢たちはざわついた。
「頭でも打ったのかしら?」
「言葉遣いが……。」
レイナはゆっくり立ち上がる。
そして階段の上を見る。
クラリスとエレノア。
二人の顔を見た瞬間、すべてを理解した。
「あー、なるほど。」
「アンタらが押したのか。」
クラリスが青ざめる。
「な、何を言っているの?」
「自分で転んだのでしょう?」
レイナは首を鳴らした。
ゴキッ。
「そういう感じ?」
「じゃあ遠慮しなくていいよね。」
そう言って、一歩踏み出した。
その笑みは、今までの気弱な令嬢のものではない。
獲物を見つけた不良そのものだった。
「今まで好き放題やってくれた礼、まとめて返してもらうわ。」
クラリスとエレノアは思わず後ずさる。
目の前にいる妹が、別人のように見えた。
そしてこの騒ぎは、偶然近くを通りかかった一人の男の目にも留まっていた。
帝国皇帝――カイゼル・ヴォルグレイヴ。
「……何を騒いでいる。」
冷たい声が廊下に響く。
その一言で、その場の空気が凍りついた。




