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暴君陛下は人の心が読める~本音しか言わない元ヤン令嬢を溺愛中~  作者: S@Y@


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第三十六話 連れ去られたレイナ


「レイナ!」


 カイゼルの声が路地裏に響く。


 しかし。


 返事はない。


 レイナを抱えた男の姿は、すでに建物の陰へ消えていた。


「追え!」


 カイゼルが低く命じる。


「絶対に逃がすな!」


「はっ!」


 近衛兵たちが一斉に走り出す。


 だが。


 目の前には、まだ数人の黒装束が立ちはだかっていた。


「陛下のお相手は、俺たちだ。」


 男が剣を抜く。


 カイゼルは男を見る。


 その目に、感情はなかった。


「邪魔だ。」


「なに……?」


 次の瞬間。


 男の足元から氷が一気に広がった。


「うわっ!」


 石畳が凍りつき、男たちの足を固定する。


「ぐっ……!」


「動けない!」


 カイゼルはその横を通り過ぎる。


「アルベルト。」


「はっ!」


「こいつらを捕らえろ。」


「レイナを追う。」


「承知しました!」


 カイゼルは一人で路地の奥へ走り出した。


◇ ◇ ◇


 一方。


 レイナは男に抱えられたまま、意識を失いかけていた。


「……ん。」


 頭が重い。


 身体にも力が入らない。


(何……これ。)


 目を開けようとする。


 しかし。


 視界はぼんやりとしていた。


「もうすぐだ。」


 男の声が聞こえる。


「このまま馬車まで運ぶ。」


「公爵様も喜ぶだろう。」


 その言葉を聞いた瞬間。


 レイナの意識が少しだけはっきりする。


(公爵……?)


(やっぱり、父上が……。)


 そう思った直後。


 また視界が暗くなる。


「……最悪。」


 小さく呟いた。


「起きているのか?」


 男がレイナを見る。


 レイナは薄く目を開けた。


「……誰が……こんなこと……。」


「黙っていろ。」


「お前は公爵家へ戻るんだ。」


 レイナの眉が寄る。


(戻る?)


(冗談じゃない。)


 身体は動かない。


 それでも。


 頭だけは必死に働かせる。


(どうやって逃げる。)


(このまま連れて行かれるのは嫌だ。)


 男はそれに気づかず走り続ける。


◇ ◇ ◇


 その頃。


 カイゼルは路地を駆け抜けていた。


「陛下!」


 後ろから近衛兵が追いつく。


「こちらです!」


「先ほど、男たちが馬車へ向かうのを確認しました!」


「場所は。」


「西門方面です!」


「急げ。」


 カイゼルは走る。


 その脳裏には、レイナの姿だけが浮かんでいた。


(眠らされている。)


(意識が戻る前に連れ去るつもりか。)


 そして。


 聞こえてくる思考。


 追手を撒く。


 西門を抜ける。


 その先に待機させた馬車へ乗せる。


 カイゼルは足を速めた。


「西門を封鎖しろ。」


「一人も通すな。」


「はっ!」


 近衛兵たちが散開する。


◇ ◇ ◇


 西門。


 黒い馬車が一台、門へ向かっていた。


「急げ!」


 御者が馬に鞭を入れる。


 その荷台。


 レイナは横たえられていた。


 手首を縛られている。


「……。」


 意識が少しずつ戻ってくる。


 レイナはゆっくり目を開けた。


(ここ……馬車?)


 身体を起こそうとする。


 だが。


「……っ。」


 力が入らない。


「目が覚めたか。」


 隣に座っていた男がレイナを見る。


「大人しくしていろ。」


「すぐに公爵家へ着く。」


 レイナは男を睨む。


「……絶対、嫌。」


 男が眉をひそめる。


「何だと?」


 レイナは小さく笑った。


「一回捨てた家に……。」


「今さら戻る気なんてないから。」


 男が舌打ちする。


「黙れ。」


 その時。


 馬車の外から。


「止まれ!」


 鋭い声が響いた。


 御者が慌てて手綱を引く。


「なっ……!」


 馬車が急停止する。


 レイナの身体が大きく揺れる。


 男が窓の外を見る。


「近衛兵……?」


 そして。


 その奥。


 ゆっくりと歩いてくる男の姿が見えた。


 黒い外套。


 冷たい眼差し。


 帝国の皇帝。


 カイゼルだった。


「レイナを返せ。」


 静かな声。


 しかし。


 その声を聞いた瞬間。


 男たちの顔から血の気が引いた。


 カイゼルの周囲には、凍てつくような冷気が漂っていた。


「余の大切なものに。」


「これ以上、触れるな。」

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