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暴君陛下は人の心が読める~本音しか言わない元ヤン令嬢を溺愛中~  作者: S@Y@


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第三十五話 狙われた令嬢


 帝都の市場は、相変わらず大勢の人で賑わっていた。


 レイナは露店を眺めながら歩いている。


「これも美味しそう。」


「さっきも食べただろう。」


「別腹。」


「……そうか。」


 カイゼルは呆れたように言いながらも、レイナが立ち止まった店へ自然と足を向ける。


「これ一つ。」


「かしこまりました!」


 店主から焼き菓子を受け取ったレイナは、嬉しそうに笑った。


「ありがと。」


「どういたしまして!」


 その様子を、少し離れた場所から黒装束の男たちが見ていた。


(今だ。)


 一人の男が懐から小瓶を取り出す。


 もう一人が周囲を確認する。


(護衛は多い。)


(だが、全員が皇帝を中心に警戒している。)


(女を狙えば、一瞬だけ隙ができる。)


 男は小瓶を握りしめた。


 その時。


「レイナ。」


「ん?」


 カイゼルがレイナを呼ぶ。


「少しこちらへ来い。」


「どうしたの?」


「人が多い。」


「はぐれると面倒だ。」


 そう言って、カイゼルはレイナの手首を軽く掴んだ。


「分かった。」


 レイナも素直についていく。


 その瞬間。


 男の表情が歪んだ。


(くそ……。)


(皇帝が離れない。)


 予定していた場所から、二人が少しずつ離れていく。


「予定を変更する。」


 男が小さく呟く。


「別の場所へ誘導する。」


「どうやって?」


「簡単だ。」


 男は人混みの中へ視線を向ける。


 その先には、小さな子どもがいた。


 男は口元を歪める。


「子どもを使う。」


◇ ◇ ◇


「お姉ちゃん!」


 突然、レイナの服が引っ張られた。


「ん?」


 振り返る。


 そこには、小さな男の子が立っていた。


「どうしたの?」


「お母さんが……。」


 男の子は不安そうに指を差す。


「あっち。」


 レイナはしゃがみ込む。


「お母さんとはぐれたの?」


 男の子は頷いた。


「うん……。」


 レイナは周囲を見る。


「どこではぐれたの?」


「あっち……。」


 男の子が細い路地を指差す。


 レイナは立ち上がった。


「カイゼル。」


「ん?」


「この子、お母さんとはぐれたみたい。」


 カイゼルは男の子を見る。


「母親はどこだ。」


 男の子は黙っている。


 その瞬間。


 カイゼルの瞳が僅かに細くなった。


(怖い。)


(早く連れていかないと。)


(後ろの男が怒る。)


 カイゼルはすぐに理解した。


 この子は利用されている。


「レイナ。」


「その子から離れろ。」


「え?」


 レイナが振り返る。


「どうしたの?」


「罠だ。」


 カイゼルの声が低くなる。


 男の子が怯えたように後ずさる。


 その瞬間。


「今だ!」


 路地の奥から黒装束の男が飛び出した。


 同時に、別の方向からも二人の男が現れる。


「レイナ!」


 カイゼルが叫ぶ。


 近衛兵たちが一斉に動く。


「陛下をお守りしろ!」


「レイナ様を囲め!」


 だが。


 男たちは戦うために来たのではなかった。


 一人が小瓶を地面へ叩きつける。


 パリンッ!


 白い煙が一気に広がった。


「煙だ!」


「吸うな!」


 カイゼルはレイナの腕を掴む。


「口を覆え!」


「分かった!」


 レイナは袖で口元を覆う。


 しかし。


 煙の向こうから、別の男が飛び込んできた。


「もらった!」


 男の腕がレイナへ伸びる。


 レイナは咄嗟に身を引いた。


「触んな!」


 男の手を払い、肘を叩き込む。


「ぐっ!」


 男がよろめく。


「レイナ!」


 カイゼルが手を伸ばす。


 しかし。


 煙と人混みのせいで、一瞬だけ距離が開いた。


 その一瞬を。


 男たちは待っていた。


「今だ!」


 背後から別の男がレイナへ飛びかかる。


「っ!」


 レイナは振り返る。


 だが。


 男の手には、先ほどの小瓶とは違う薬が握られていた。


「これならどうだ!」


 男が瓶を割る。


 甘い香りが、一気に広がった。


(眠らせるつもりか!)


 レイナは息を止めようとする。


 しかし。


 ほんの一瞬。


 香りを吸い込んでしまった。


「……っ。」


 視界が揺れる。


「レイナ!」


 カイゼルの声が遠くなる。


「大丈夫……。」


 そう言おうとした。


 だが。


 足に力が入らない。


「……何これ。」


 膝が崩れる。


 カイゼルが駆け寄ろうとする。


「レイナ!」


 しかし、複数の男たちが間へ割り込んだ。


「邪魔だ!」


「皇帝を止めろ!」


 カイゼルの瞳が冷たく光る。


「……余の前で。」


 冷気が一気に広がる。


「レイナに触れるな。」


 次の瞬間。


 地面が一斉に凍りついた。


 男たちの足元から、巨大な氷がせり上がる。


「うわっ!」


「何だ、この魔法は!」


 カイゼルは一歩踏み出す。


 だが。


 その時には。


 意識が朦朧としたレイナの身体が、別の男に抱き上げられていた。


「レイナ!」


 男はレイナを抱えたまま、路地の奥へ走り出す。


 カイゼルの表情が変わった。


「待て!」


 近衛兵が追いかける。


 しかし、逃走経路にはすでに仲間が待ち構えていた。


「追わせるな!」


 男たちが次々と立ちはだかる。


 カイゼルは拳を握る。


 レイナの姿が、路地の奥へ消えていく。


「……レイナ。」


 その声には。


 これまでにないほどの怒りが込められていた。

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