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暴君陛下は人の心が読める~本音しか言わない元ヤン令嬢を溺愛中~  作者: S@Y@


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第三十四話 見えない殺意


 帝都では、市が開かれる日を迎えていた。


 帝城の正門前。


 皇帝専用の馬車が静かに待機している。


 レイナは新しく仕立ててもらった動きやすい服に身を包み、嬉しそうに空を見上げた。


「今日はいい天気だね。」


「ああ。」


 カイゼルも隣へ並ぶ。


「人出も多そうだ。」


 アルベルトが一礼する。


「陛下。」


「護衛の配置は完了しております。」


「市場周辺にも近衛兵を配置いたしました。」


 カイゼルは頷く。


「ご苦労。」


「少しでも不審な動きがあれば、すぐ報告しろ。」


「はっ!」


 レイナは首を傾げた。


「まだ警戒してるんだ。」


「ああ。」


「念には念を入れる。」


 レイナは苦笑する。


「心配性だね。」


 カイゼルは真剣な表情で答えた。


「お前を狙った者がいる以上、当然だ。」


 レイナは肩をすくめる。


「分かったよ。」


「ちゃんと近くにいる。」


「約束だ。」


「うん。」


 二人は馬車へ乗り込んだ。


◇ ◇ ◇


 その頃。


 帝都の外れにある古びた建物。


 数人の黒装束の男たちが集まっていた。


「皇帝は予定どおり、市へ向かう。」


 一人の男が地図を広げる。


「護衛の数は多い。」


「正面からでは無理だ。」


 別の男が尋ねる。


「では、どうする。」


 男は帝都の地図上にある一点を指した。


「人が集まる市場で混乱を起こす。」


「その隙に、標的を皇帝から引き離す。」


 男たちは静かに頷いた。


「目的を忘れるな。」


「レイナ・アルフォードを生きたまま連れて来る。」


「傷はつけるな。」


「公爵様は、あの娘を必要としている。」


 別の男が眉をひそめる。


「皇帝が邪魔をした場合は?」


 男は少し考えた。


「殺す必要はない。」


「ただ、追ってこられないようにすればいい。」


「我々の目的は皇帝ではない。」


「娘一人だ。」


◇ ◇ ◇


 馬車は帝都へ到着した。


 街は祭りのような賑わいを見せている。


 露店には色とりどりの商品が並び、子どもたちの笑い声が響いていた。


「すごい人だね。」


 レイナは目を輝かせる。


「前よりもっと多い。」


「ああ。」


「今日は市の日だからな。」


 近衛兵が周囲を警戒しながら道を確保する。


 カイゼルはレイナへ視線を向けた。


「余の側を離れるな。」


「分かってるって。」


 レイナは笑う。


「今日はちゃんと約束守るよ。」


 二人はゆっくりと市場を歩き始めた。


 焼き菓子の甘い香り。


 焼きたてのパン。


 色鮮やかな果物。


 珍しい装飾品。


 レイナは楽しそうに辺りを見回していた。


「あっ。」


 小さな屋台の前で足を止める。


「これ可愛い。」


 木彫りの小鳥を手に取る。


 店主が笑顔で説明する。


「一つ一つ職人が手作りしております。」


「へぇ……。」


 レイナは嬉しそうに眺める。


 その少し離れた場所。


 黒装束の男が二人を見つめていた。


(あれが標的。)


(皇帝の隣にいる限り、近づく隙がない。)


 男は周囲を確認する。


(予定通り、人が多い場所で混乱を起こす。)


(護衛を分断する。)


(その一瞬で連れ去る。)


 静かに準備を進める。


 しかし。


 その様子を、カイゼルは見逃さなかった。


 何気なく周囲へ視線を向ける。


 表情は変わらない。


 だが。


(誰かが狙っている。)


 確信に近い感覚があった。


「どうしたの?」


 レイナが不思議そうに尋ねる。


 カイゼルはすぐに表情を戻した。


「……少し警戒しただけだ。」


「アルベルト。」


「はっ。」


「周囲の確認を強化しろ。」


「不審な者がいれば、すぐ報告だ。」


「承知しました。」


 アルベルトが近衛兵へ指示を出す。


 警備がさらに厳しくなる。


 それを見た黒装束の男は、小さく息を吐いた。


(やはり簡単にはいかないか。)


 だが。


 男は懐から小瓶を取り出す。


 中には、眠りを誘う薬が入っていた。


 殺すためではない。


 奪うため。


 そして。


 レイナを帝城から連れ出すため。


 静かな罠は、少しずつ二人へ近づいていた。

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