第二十六話 暴かれる真実
翌日。
アルベルトは数人の部下を連れ、アルフォード公爵家の調査を進めていた。
屋敷で働いていた使用人。
元庭師。
料理人。
御者。
すでに屋敷を去った者たちからも話を聞く。
最初は誰も口を開かなかった。
しかし。
「皇帝陛下の命令だ。」
その一言で、証言は次々と集まり始めた。
「レイナ様だけ食事が別でした。」
「旦那様は一度もレイナ様を抱き上げたことがありません。」
「長男様も次男様も、妹が殴られていても止めませんでした。」
「むしろ『当然だ』と笑っておられました。」
「長女様と次女様は、毎日のようにレイナ様へ暴力を振るっていました。」
「冬でも暖炉のない部屋を使わされていました。」
「使用人以下の扱いでした。」
証言は、どれも一致していた。
◇ ◇ ◇
帝城。
執務室。
アルベルトは分厚い報告書を机へ置いた。
「陛下。」
「調査が終わりました。」
カイゼルは無言で報告書を開く。
一枚。
また一枚。
読み進めるたび、執務室の温度が下がっていく。
アルベルトは静かに報告を続けた。
「父アルフォード公爵。」
「長男。」
「次男。」
「長女。」
「次女。」
「全員がレイナ様への虐待に関与しております。」
「使用人の証言も一致しております。」
カイゼルは最後のページを閉じた。
パキッ。
机の端が凍りつく。
アルベルトは思わず息を呑んだ。
「実の娘。」
「実の妹。」
「それを五人で虐げていたのか。」
誰に向けた言葉でもなかった。
カイゼルは静かに立ち上がる。
人の心は何度も読んできた。
欲望。
嫉妬。
裏切り。
それらは珍しくない。
だが。
血の繋がった家族へ向ける感情ではなかった。
報告書に書かれていたのは。
憎悪。
責任転嫁。
利用価値しか見ていない冷たい視線。
それだけだった。
「……愚か者どもめ。」
低い声だった。
しかし、怒りは隠せない。
アルベルトが口を開く。
「陛下。」
「公爵家を召喚なさいますか。」
カイゼルは首を横へ振る。
「まだ早い。」
「証拠をさらに集めろ。」
「誰一人、言い逃れできぬほどにな。」
「承知しました。」
アルベルトは一礼して部屋を後にした。
一人残った執務室。
カイゼルは窓の外を見つめる。
ふと、レイナの言葉を思い出す。
『……慣れてただけ。』
あの時は何気なく聞き流した。
だが今なら分かる。
あれは強がりではない。
諦めだった。
その事実が、胸の奥を重く締めつける。
「レイナ……。」
無意識に名前が漏れる。
その時。
コンコン。
扉が叩かれた。
「陛下。」
「レイナ様がお見えです。」
カイゼルは静かに息を整えた。
「通せ。」
怒りを胸の奥へ押し込み、レイナを迎えるために視線を扉へ向けた。




