第十九話 初めての街
帝城での暮らしが始まって数日。
レイナは少しずつ新しい生活に慣れ始めていた。
最初は広すぎる部屋にも、何十人もの侍女や近衛兵にも戸惑っていた。
しかし。
無理に気を遣う必要はないと言われ、好きなように過ごしていいと言われたことで、少しずつ肩の力が抜けていた。
そんなある日の朝。
朝食を終えたレイナへ、カイゼルが声をかける。
「レイナ。」
「ん?」
「今日は予定があるか。」
レイナは首を横に振った。
「特にないよ。」
カイゼルは少し考える。
「なら、帝都へ行くぞ。」
レイナは目を丸くした。
(街!?)
「街!?」
「いいの?」
「ああ。」
「帝都の様子を見ておくといい。」
レイナは首を傾げる。
「皇帝がそんな簡単に街を歩いていいの?」
「簡単ではない。」
「護衛も必要だ。」
「だが、必要なことだ。」
レイナは少し笑う。
(相変わらず真面目だな、この人。)
「相変わらず真面目だな、この人。」
「国のことを知るには、自分の目で見る方がいい。」
カイゼルはそう続けた。
レイナは少し驚く。
悪名高い暴君。
そう呼ばれている皇帝が、民の暮らしを見ようとしている。
その姿は、噂で聞いていたものとは少し違っていた。
「じゃあ、行ってみようかな。」
「ああ。」
カイゼルは頷いた。
その時、アルベルトが近づいてくる。
「陛下。」
「護衛の配置は完了しております。」
「帝都周辺の警戒も強化しております。」
カイゼルの表情が少しだけ険しくなる。
「ああ。」
「頼む。」
レイナは二人を見る。
(やっぱり何かあるのかな。)
「やっぱり何かあるのかな。」
「そんなに警戒しなくても大丈夫じゃない?」
カイゼルはレイナを見る。
「お前は自分の身を軽く考えすぎだ。」
「そう?」
「ああ。」
「公爵家であれだけの扱いを受けても、平然としていた。」
レイナは少し黙る。
「……慣れてただけ。」
その言葉に、カイゼルの眉がわずかに動く。
「慣れる必要などなかった。」
レイナは少し驚いた顔をした。
カイゼルはそれ以上何も言わず、視線を逸らす。
「準備をしてこい。」
「分かった。」
レイナが部屋へ戻っていく。
その背中を見ながら、カイゼルは静かに考えていた。
今まで、人の心の中を聞くたびに嫌悪してきた。
欲望。
嫉妬。
嘘。
そんなものばかりだった。
だが。
レイナの心の声には、裏がない。
口では強がっていても、心の奥には傷がある。
それが、なぜか気になった。
◇ ◇ ◇
しばらくして。
レイナが戻ってくる。
新しく仕立ててもらった服ではなく、動きやすいシンプルな服を選んでいた。
「これなら歩きやすいでしょ。」
カイゼルは頷く。
「似合っている。」
レイナは少し照れくさそうに笑う。
「ありがと。」
その反応に、カイゼルは少し戸惑った。
今までなら、相手の言葉の裏を探っていた。
だが、この娘にはそれが必要ない。
ただ、言葉を受け取るだけでいい。
「行くぞ。」
「ああ。」
二人は帝都へ向かう馬車へ乗り込んだ。
その頃。
帝都の裏路地では。
一人の男が静かに報告を受けていた。
「対象は皇帝と共に外出する予定です。」
男は口元を歪める。
「ならば好都合だ。」
「皇帝の隣にいる女を消せ。」
静かに、計画は動き始めていた。




