第十七話 新しい居場所
コンコン。
翌朝。
部屋の扉が静かに叩かれた。
「レイナ様。」
「失礼いたします。」
侍女たちが部屋へ入ってくる。
レイナはまだ布団にくるまったまま片目を開けた。
(もう朝!?)
「もう朝!?」
侍女が優しく微笑む。
「おはようございます。」
「陛下より、本日は仕立て屋がお見えになりますので、お支度をとのご命令です。」
レイナはゆっくり起き上がる。
「了解。」
「よろしく。」
侍女たちは少し驚いた顔を見合わせた。
命令口調でもなく、高圧的でもない。
貴族らしくないが、不思議と嫌な気はしなかった。
◇ ◇ ◇
一方その頃。
カイゼルは執務室にいた。
山積みの書類へ目を通しながらも、心ここにあらずだった。
アルベルトが小さく咳払いをする。
「陛下。」
「先ほどから同じ書類をご覧になっています。」
カイゼルは眉をひそめた。
「そうか。」
「珍しいですね。」
「陛下が仕事に集中なさらないとは。」
カイゼルは小さく息を吐く。
「……気になる。」
アルベルトは目を瞬かせる。
「何がでしょう。」
「レイナだ。」
「ちゃんと眠れたのか。」
「食事は口に合うのか。」
「部屋は寒くなかったか。」
「困っていることはないか。」
アルベルトは固まった。
(重症だ……。)
もちろん口には出さない。
「ご心配でしたら、お会いになってはいかがですか。」
「そうする。」
即答だった。
カイゼルは立ち上がる。
アルベルトは思わず額を押さえた。
「仕事は……。」
「後だ。」
そう言い残し、執務室を出て行く。
◇ ◇ ◇
その頃。
レイナは侍女たちに囲まれていた。
「レイナ様、こちらはいかがでしょう。」
「こちらのお色もお似合いになるかと。」
目の前には色とりどりの布地が並んでいる。
赤。
青。
白。
黒。
レイナは困ったように頭を掻いた。
(服なんて着れれば何でもいいんだけど……。)
「服なんて着れれば何でもいいんだけど……。」
仕立て屋たちは苦笑する。
「そういうわけにはまいりません。」
「陛下から『最高のものを』と仰せつかっております。」
レイナは天井を見上げた。
「またアンタかぁ……。」
その瞬間。
コンコン。
部屋の扉が叩かれる。
「余だ。」
聞き慣れた声に、レイナは思わず笑った。
「噂をすれば。」
扉が開く。
カイゼルが部屋へ入ってきた。
「眠れたか。」
「うん。」
「ベッドが柔らかすぎて逆にびっくりした。」
カイゼルは安心したように頷く。
「そうか。」
その様子を見た侍女たちは顔を見合わせる。
(本当に陛下なの……?)
帝国中が恐れる暴君とは、とても思えない姿だった。
しかし、その頃。
帝都の路地裏では黒装束の男たちが集まっていた。
「標的は皇帝のお気に入り。」
「城から出た瞬間を狙う。」
静かに、凶刃が研がれ始めていた。




