第十五話 帝城へ
皇帝専用の馬車は、静かに帝城へ向かっていた。
車内にはカイゼルとレイナの二人だけ。
先ほどまでの騒がしさが嘘のような静けさだった。
レイナは窓の外を眺めながら口を開く。
「ねぇ。」
「なんだ。」
「アンタって、こんなに強引なの?」
「必要だと思えばな。」
レイナは肩をすくめる。
(ほんと即決タイプなんだな。)
「ほんと即決タイプなんだな。」
「普通、今日会ったばかりの女を家から連れ出す?」
カイゼルはレイナを真っ直ぐ見つめた。
「普通かどうかなど興味はない。余は皇帝だ。必要だと思ったから連れてきた。それだけだ。」
レイナは思わず吹き出した。
「それ、反論できないわ。」
車内に小さな笑い声が響く。
カイゼルはその笑顔を見つめながら口を開く。
「笑っている方がいい。お前には、その顔が似合う。」
レイナは目を丸くした。
(うわ……サラッと照れること言うじゃん、アンタ。)
「うわ……サラッと照れること言うじゃん、アンタ。」
カイゼルは表情を変えない。
「余は嘘を言わん。思ったことを口にしただけだ。」
レイナは照れ隠しに頬を掻く。
「そういうとこ、ズルい。」
その何気ないやり取りに、カイゼルは心地よさを覚えていた。
誰かと過ごす時間が、こんなにも穏やかだと思ったことはない。
◇ ◇ ◇
その頃、アルフォード公爵家。
執務室では、公爵が怒りのまま机を叩きつけた。
「ふざけるな……!」
「なぜレイナなんだ!」
クラリスは悔しそうに唇を噛む。
「お父様、このままでは皇后の座が……。」
エレノアも焦ったように尋ねた。
「何か方法はないのですか?」
公爵はゆっくりと二人を見回す。
「ある。」
その一言に、姉妹は息を呑んだ。
「レイナがいなくなればいい。」
部屋が静まり返る。
「盗賊でも雇え。」
「城の外へ出たところを襲わせろ。」
「始末できれば、それでいい。」
クラリスは一瞬だけ目を見開いた。
だが、すぐに口元を歪める。
(そうよ……。)
(レイナさえいなくなれば……。)
(皇后になれるのは私。)
エレノアも小さく頷く。
(全部、あの子が悪いのよ。)
三人の思惑は、一つになった。
◇ ◇ ◇
やがて馬車は帝城へ到着する。
巨大な城門がゆっくりと開き、近衛兵たちが一斉に敬礼した。
「陛下、お帰りなさいませ!」
レイナは目の前に広がる帝城を見上げる。
(でっか……!)
「でっか……!」
思わず漏れた本音に、カイゼルの口元がわずかに緩んだ。
「驚いたか。」
「うん。」
「こんなお城、初めて見た。」
「今日からここがお前の家だ。」
レイナは少しだけ照れくさそうに笑う。
(家、か……。)
「家、か……。」
「なんか不思議な感じ。」
その言葉を聞いたカイゼルは静かに頷いた。
「すぐに慣れる。」
「そして二度と、お前をあの家へ帰しはしない。」
レイナはカイゼルを見上げ、小さく笑った。
「うん。」
その返事だけで十分だった。
カイゼルは改めて心に誓う。
――この娘は、余が守る。
誰が相手であろうと、決して傷つけさせはしない。




