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暴君陛下は人の心が読める~本音しか言わない元ヤン令嬢を溺愛中~  作者: S@Y@


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第十四話 全部、持って行け


部屋の中は静まり返っていた。


カイゼルはゆっくりと室内を見渡す。


古びたベッド。


軋む木の床。


小さな机と椅子。


衣装箱の中には数着の普段着と、擦り切れたドレスが数枚あるだけ。


公爵令嬢の部屋とは、とても思えない。


アルフォード公爵は冷や汗を流しながら口を開いた。


「陛下、お見苦しいところをお見せし、申し訳ございません。」


「この部屋は本人の希望でございまして……。」


レイナは思わず吹き出した。


(また始まった。)


「また始まった。」


「アタシ、一回もそんなこと言ったことないけど。」


公爵の顔が引きつる。


「レイナ!」


「余計なことを言うな!」


レイナは肩をすくめる。


(本当のことしか言ってないじゃん。)


「本当のことしか言ってないじゃん。」


「父上が『お前にはこの部屋で十分だ』って言ったんでしょ。」


公爵は黙り込んだ。


言い返せない。


その沈黙が何よりの答えだった。


カイゼルは静かに公爵を見据える。


「アルフォード公爵。」


「……は、はい。」


「お前は以前、この娘を『出来損ない』と言ったな。」


「それなら聞こう。」


「この娘は何をした。」


「…………。」


誰も答えられない。


レイナは何も悪くない。


ただ、生まれた日に母を亡くした。


それだけだ。


「答えられぬか。」


カイゼルの声から温度が消える。


「幼子に母の死の責任を負わせる。」


「それがお前たちアルフォード公爵家のやり方か。」


公爵は震えながら首を振る。


「ち、違います!」


「違わない。」


その一言で、公爵は再び口を閉ざした。


レイナは苦笑する。


(まあ、今さら否定されてもね。)


「まあ、今さら否定されてもね。」


その諦めきった笑顔に、カイゼルの胸が締めつけられる。


この娘は、傷つくことに慣れてしまっている。


それが何より許せなかった。


「アルベルト。」


「はっ。」


「レイナの荷物をまとめろ。」


「一つ残らず帝城へ運べ。」


「かしこまりました。」


アルベルトと近衛騎士たちが荷物を運び始める。


その瞬間、公爵が慌てて前へ出た。


「お、お待ちください!」


「レイナはアルフォード公爵家の娘です!」


「勝手に連れ出されては困ります!」


カイゼルはゆっくりと振り返る。


「困る? 何が困る。答えてみろ。」


「そ、それは……。」


公爵は口を開いたまま固まった。


本当の理由など言えるはずがない。


雑用を押し付ける相手がいなくなる。


それだけなのだから。


「言えぬなら、余が言おう。」


カイゼルの鋭い視線が公爵を射抜く。


「お前たちはレイナを娘として扱っていない。」


「都合のいい働き手として使っていただけだ。」


「違うか。」


公爵は俯いたまま答えられない。


否定できなかった。


カイゼルはレイナの前へ歩み寄り、自然と手を差し出す。


「帰るぞ。」


レイナはその手を見つめる。


(この手、今日だけで二回目か。)


「この手、今日だけで二回目か。」


少し照れくさそうに笑い、その手を握った。


「うん。」


二人が部屋を出ようとした、その時。


「お待ちください、陛下!」


クラリスが涙を流しながら叫ぶ。


「私たちにも、まだ皇后になる資格はございます!」


「どうか、もう一度お考え直しください!」


エレノアも必死に頭を下げる。


「お願いいたします!」


二人の心の中は嫉妬で渦巻いていた。


(レイナだけは嫌。)


(皇后になるのは私よ。)


(あんな出来損ないに負けるなんて……!)


カイゼルは静かに振り返る。


「安心しろ。」


その一言に、クラリスとエレノアの表情がわずかに明るくなる。


しかし——。


「余はまだ皇后を決めてはいない。」


「だが、お前たち二人を選ぶことはない。」


その宣告に、二人の顔から血の気が引いた。


「そ、そんな……。」


「どうして……。」


「理由が知りたいか。」


カイゼルは冷たく言い放つ。


「余は、嘘をつく女が嫌いだ。」


それだけ告げると、レイナの手を引き、部屋を後にした。


(これで、もうこの家に帰らなくていいんだ。)


「これで、もうこの家に帰らなくていいんだ。」


その小さな呟きを聞いたカイゼルは、握る手にほんの少しだけ力を込めた。


――もう二度と、お前を独りにはしない。


その決意は、誰にも揺るがされることはなかった。

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