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暴君陛下は人の心が読める~本音しか言わない元ヤン令嬢を溺愛中~  作者: S@Y@


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第十三話 荷物を取りに行くだけだ


「レイナ。」


パーティ会場を出ようとしたレイナを、カイゼルが呼び止めた。


「ん?」


「公爵家へ向かう。」


レイナは首を傾げる。


(帰す気ないって言ってなかった?)


「帰す気ないって言ってなかった?」


「帰すつもりはない。」


カイゼルは迷いなく答えた。


「荷物を取りに行くだけだ。」


「必要な物を持ったら、そのまま帝城へ戻る。」


レイナは納得したように頷く。


「そっか。」


「じゃあ着替えくらい持ってくる。」


「それで十分だ。」


カイゼルは近衛騎士へ命じる。


「護衛を十名。」


「余も同行する。」


「はっ!」


アルフォード公爵の顔色が変わる。


「へ、陛下自ら……?」


「問題でもあるか。」


「い、いえ……。」


問題しかない。


(あの部屋だけは見られるわけには……!)


(何とか誤魔化さねば……!)


その心の声を聞いたカイゼルの目が細くなる。


やはり隠している。


馬車は夜の街を進み、やがてアルフォード公爵家へ到着した。


皇帝の馬車が門をくぐると、屋敷中が大騒ぎになる。


使用人たちは慌てて跪き、執事が青ざめた顔で出迎えた。


「陛下、このような夜分に……!」


カイゼルは答えず、レイナへ視線を向ける。


「案内しろ。」


「うん。」


レイナは迷うことなく屋敷の中を歩き出した。


豪華な廊下を抜ける。


大きな階段の前も通り過ぎる。


さらに奥へ。


使用人たちが暮らす棟へ向かって歩き始めた。


カイゼルが足を止める。


「……待て。」


「そちらは使用人の居住区だ。」


レイナは不思議そうに振り返った。


「うん。」


「アタシの部屋、そこだけど。」


「…………。」


その場の空気が止まった。


公爵は慌てて前へ出る。


「ち、違うのです陛下!」


「それは一時的な処置で——」


「黙れ。」


短い一言で、公爵は口を閉ざした。


カイゼルは何も言わず、レイナの後を歩く。


レイナは一番奥にある古びた扉の前で立ち止まった。


ギィ……


軋む音を立てて扉が開く。


そこにあったのは、公爵令嬢の部屋とは思えないほど質素な部屋だった。


古びたベッド。


小さな机。


擦り切れた椅子。


衣類が少し入った木箱。


それだけ。


レイナは慣れた様子で木箱を開ける。


「着替えはこれだけ。」


「あと、この本。」


そう言って数冊の本を抱える。


(荷物少ないと楽でいいね。)


「荷物少ないと楽でいいね。」


カイゼルは部屋を見回したまま動かなかった。


拳を握る。


怒りで震えるほど強く。


公爵令嬢が暮らす部屋ではない。


これは——使用人ですら不満を漏らすような部屋だ。


「……レイナ。」


「なに?」


「この部屋を使い始めたのは、いつからだ。」


レイナは少し考える。


(十歳くらいだったかな。)


「十歳くらいだったかな。」


「姉たちが部屋を広く使いたいって言い出してさ。」


「『お前にはここで十分』って。」


「だから引っ越した。」


まるで昨日の出来事を話すような口調だった。


カイゼルは静かに目を閉じる。


怒りを抑えるために。


この屋敷に来て正解だった。


自分の目で見なければ、ここまで酷いとは信じられなかった。


そして、その怒りは——アルフォード公爵家へ向けられることになる。

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