第4話 茶室の喧嘩
2580年の茶室再現区域。
そこは、旧日本文化を完全再現した四畳半の空間だった。
土壁。
静かな湯の音。
そして一輪の花。
ナツ、レイ、ミオの三人は、
調査任務の合間にそこへ集められていた。
理由は単純だった。
「感情応答テスト」
統合管理局は、
AinoHanaの影響で揺れ始めた心理状態を測定していた。
だが、その空間はすでに“試験”ではなくなっていた。
ミオが茶碗を持ち上げる。
「ねえ、レイってさ」
「何だ」
「ほんとに全部、効率で決めるの?」
レイは即答する。
「その方が人は死なない」
「でもさ、それって“生きてる”って言える?」
空気が少しだけ揺れた。
ナツは黙っている。
ミオは続ける。
「怒ったり、泣いたり、面倒くさいこと全部あるじゃん。
でもそれがあるから、人って誰かと一緒にいるんじゃないの?」
「感情は不安定要因だ」
「またそれ」
ミオは茶碗を机に置いた。
その瞬間――
カラン。
茶碗が傾き、床に落ちた。
ひびが入る。
静寂。
レイが言う。
「ほらな」
ミオは青ざめる。
「ごめん……」
だがその時、
ナツは割れた茶碗を見ていた。
不完全な線。
修復不能ではない亀裂。
なのに、
なぜか“美しい”と感じた。
AIガイドが静かに言う。
「かつて日本文化では、
破損した器を“金継ぎ”により修復しました」
壊れたことを隠さず、
傷を残したまま生かす技術。
ナツは呟く。
「壊れたから、覚えていられるんだ……」
レイが顔を上げる。
「何を」
「痛みを」
その言葉に、
ミオが小さく頷いた。
「ねえレイ。
全部消した世界って、本当に安全なの?」
レイは答えない。
だがその沈黙は、
以前より少し長かった。




