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36 兄妹カンパニー的な趣味

バーチャルアイドル誕生秘話

 最近、雪奈が何かを熱心にやっている。


 ヒマをみつけてはリビングの隅に置いてある、オフラインの『雪奈PC』を使って何かをやっているのだ。それも、父さんからもらった型落ちのマウスを使って何やらカチカチとやっている。普段、あのノートPCを使う時は何かしらの議事録を作ったり作文を作ったり、時には家計簿のようなものを記録していたりするけれど、大体は文章とか表の類だから、タッチパッドで事足りている。

 雪奈もタッチパッドの使い勝手に文句を言ってはいなかったし、わざわざマウスを使うような事は無かったと思うのだけれど……何か、特別な事をやっているのだろうか。あまり作業を覗き込むような事もしたくなかったし、今までは特に干渉するような事はしていなかったのだけれど……どうにも、気になってきたところだ。


「ねえ雪ちゃん、最近、何を熱心にやってるの??」


 僕が質問するよりも早く、春奈がアッサリと質問に踏み切っていた。


「これはですね、お父さんに許可をもらって落としてきた、フリーのモデリングソフトで、お人形さんCGを作っているんですよ。他にも何点か、画像編集ソフトなんかを落としています」

「お人形さん??」


 タカタカ、カチカチと雪奈が何やらキーボードとマウスを操作する。もう完全に覗き込んでも問題ない空気だったので、僕も春奈に並んで画面を覗いてみる。と、そこには3Dっぽいデザインの、金髪で青い目のアニメキャラクター的なキャラが表示されていた。手抜きなのか必要が無いのか、今のところは上半身だけのキャラクターだ。手にはめて操作する、パペットのようにも見えなくない。


「これ雪ちゃんが作ったの??モデルも雪ちゃん??」

「いちおうは。まだまだ作りが荒いですが、スタート基準はそろそろ満たせたかな、と思っております」


 雪奈がマウスを操作して、キャラクターを動作させる。目をパチパチと瞬かせたり、口をパクパク動かしたりしている。頭の角度も変化させたりしていて、何かを話しながら演技をしているような……子供向け番組のキャラクターのような、そんな雰囲気が伝わってきた。


「スタートって、何かやるの??」

「アルバイトを始めようかと思いまして」


 えっ、と。揃って声を上げる、僕と春奈。雪奈が、アルバイト??8歳なのに??


「あ、誤解しないでください。もちろん、労働基準法などに抵触するような、非合法な事ではありません。お父さんに許可をいただいて行う、合法の副業です。加えて言えば、名義上はお父さんが行うアルバイトですし、分業のアルバイト的なものです」

「「副業……」」


 雪奈はいったい、何をするつもりなんだろう。本業は小学生だよね。


「別に変な事じゃありませんよ。いわゆる最近の言葉で言うところの『 Vの者 』になってみようかと思いまして。バーチャルネットアイドル的な何かです。ユアチューバ―のバーチャルアイドルで稼げないかなー、と。そういうヤツですよ。いまどきの小学生なら、一度は妄想するヤツじゃないですか。普通ですよ、ふつう」

「あー、ユアチューバ―かぁ!!それなら分かる!!」

「バーチャル・ユアチューバ―かぁ……」


 国際的な動画投稿サイト、ユア・チューブでの動画配信者。それをユアチューバ―と言う。僕は詳しくないけれど、プロとしてお金を稼いで、その収入で生活している人も多いらしい。もっとも本当に詳しくないので、有名ユアチューバ―が、どのくらいの収入を得ているのかも知らないけれど。


「素人の小娘が、興味本位で顔出しするなんて安全性の視点から問題外だと思います。ですが虚像のアニメキャラに声を当てるくらいなら問題ないんじゃないかな、と。これだったら、お父さんの許可も、もらえると思うのですよ!!」

「確かに、あんまり危険は無さそうだよね」

「まぁ、オリジナルのアニメキャラだもんね」


 意外に説得力のある内容だった。まぁ、実際にやってもロクに再生数が伸びたりしないと思うけど、遊びでやるにしても安全だったら父さんも許可してくれるんじゃないかな。


「ちなみに、お姉ちゃんのキャラも並行で制作していますよ」

「ええっ!!そうなの?!」

「はい。いちばん簡単な、掛け合い漫才の形式でトークするタイプで投稿しようかと思っています。これならワタシでもやれる!!と思ったヤツですね。お姉ちゃんには相方をお願いしようと思います」

「お、おおお……あたしが、ユアチューバ―としてデビュー……」


 落ち着きなよ、春奈。バーチャルの方だから。顔出しする訳じゃないからね。あと、バーチャルなキャラで安全性に配慮して配信するって事は、友達とかに自慢したりとか、身バレするような事は一切禁止だと思うよ。本当に落ち着いてよね。


「登録主は、もちろんお父さんです。収益の振り込み先も同様です。それなりに収益が出たら、お小遣いにプラスしてもらえるように交渉しましょう。月間の再生数や登録数の変化も分かりますから、お父さんが中抜きしすぎるという心配もしなくて済みます。ホワイトでクリーンな契約になりますよ」

「さすが雪ちゃん!!すばらしぃ――!!」


 すでに収益でウハウハな未来しか見ていない春奈。……世の中そんなに甘くないと思うけど、今の僕は、それ以外に気になる事があった。


「ねぇ雪奈、僕は混ざってないの??」

「残念ながら、初期メンバーには入っておりません。まだキャラも作ってないですし、それに……」

「それに??」

「少女とか幼女とかのキャラの方が、大きなお兄さんの食い付きがいいと思うんですよ。もちろんこれはコンテンツの内容次第でターゲットが変わるので一概には言えないのですが、とりあえずは大人が好きそうな時事ネタに関する感想やら戦国歴史ものの解説なんかを、毒を交えてベラベラしゃべりまくるだけの動画を投稿しようかと思いまして。そういうの、すごく簡単そうなのです」


 そうだったんだ。少し残念だなぁ。


「そのうち収益が出て、市販の画像編集ソフトとかを購入する余裕が出来たりしたら、お兄ちゃんも追加メンバーとして雇うつもり、ではありますが」

「そうなんだ。期待して待ってるよ」

「あくまで収益が出たら、ですよ」

「……ユアチューバ―業界も、厳しいからなぁ……」


 雪奈がユアチューバ―の収益の歴史を適当に検索してみた結果、登録者数が爆発的に増加した結果、広告のつくハードルが上がったり、1回あたりの広告再生数での報酬なども、初期の頃から比べてだいぶ単価が下がったらしい。そこでまた、春奈が雪奈に質問をする。


「ユアチューバ―で生活しようと思ったら、どのくらい再生数を稼げばいいの??」


 雪奈が少しだけ、『うーん』と、うなってから答える。


「ワタシも詳しい事はよく分かりません。登録者数も関係するらしいのですが……ただ、再生数1回につき広告収入が0.05円の最低ラインで換算して、年間400万円を稼ぎ出すためには年間8000万再生、月間で約600万~700万くらいの再生数を稼がないといけません。これで家賃の安めな郊外生活で、一般的な生活を送れるレベルになります」

「「うわぁ――――」」


 ユアチューバ―はかなり大変そうだった。


「もちろん、これは『登録者1人あたりの総再生数』ですので、投稿コンテンツが多くなればなるほど有利にはなります。でも、同じチャンネル登録者が同じコンテンツを何度も見返してくれる事はあまり無いでしょうから、常に新しいコンテンツを提供して、ユーザーに飽きられないよう、定期的にチェックしてもらえる雰囲気を作る事が必要です」

「生活しようと思ったら、けっこう大変なんだね」

「人気商売だもんね……」


 でも、小学生にはけっこう人気のある職業なんだよなぁ。


「日本のトップランカーだと、年商数億円くらいは稼ぐみたいですからね。もちろん、税金でかなりの金額は持っていかれますが」

「そうなの?!」

「そうなんだ?!」


 数億円とかスゴイ、と思う反面、どのくらい税金で持っていかれるのか、というのも少しだけ気になった。


「税金関係は詳しくないので分かりませんが、プロスポーツ選手でも必要経費を除いた稼ぎの半分近くは税金になるとか聞いた事がありますし、専業ユアチューバ―ですと似たようなものでしょう。そしてユアチューバ―を副業でやっていた場合でも、収益が20万円を超えると確定申告……つまり、ユアチューバ―収入分の税金を納める手続きをしないといけないらしいです。早い話、稼いだ額をそのまま使うと税金を支払えなくなってしまいます。サラリーマンだと所得税と住民税は給料天引きで会社がやってくれますが、ユアチューバ―は個人事業主ですから、税金関係は自分でやらないといけません。要注意ですよ」

「そうなんだぁ……」

「大変そうだなぁ……」


 僕自身はユアチューバ―になるつもりは全然無いけれど(雪奈のチャンネルに便乗してみようかな、くらいの興味はあるけれど)いつの日か何かの気まぐれで動画投稿とかしようと思った時、役に立ちそうな豆知識な気がした。


「まぁ、この手の事は基本的に、自分でやろうとしない方が賢明です。信用のある、プロの税理士さんに書類を全部作ってもらった方がいいです。でないと、税務署に細かい所を突っ込まれて、追徴金なんかを取られたりします。まともな稼ぎを出したなら、迷わずにプロに書類を作ってもらう。これ基本です。必要経費なんかは特に素人だと怪しくなってきますからね」

「なるほどぉー」

「なるほどぉー」


 雪奈の説明に、ただ感心する僕たちだった。


「……というネタを、まずは投稿してやろうかと思っています。たぶんネタかぶりするはずですが、この手の雑学ネタはコンテンツ数の水増しに役立ちます。とりあえず30分くらいベラベラしゃべるコンテンツを作りましょう」

「「なるほどぉー!!」」


 ただただ感心する、僕と春奈だった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「幼女ボイスや少女ボイスが商品になる可能性もある、と思うのですよ」

「どういう事??」


 税金の話の後、ユアチューバ―で動画再生数を伸ばす方法とかを話している中で、雪奈が何やら怪しげな事を言い出した。


「個人的には、プロの声優さんっぽい合成音の方が一般受けするとは思うのですが……声質によっては、ホンモノの幼女声や少女声というのは、一部の客層にウケるかと。特定の年代の女子、というステータスに高い付加価値がつく例として……かつてバブル時代にはJDが、終了期には次いでJKが、ブランドとして猛威を振るったものです。知ってますか?ブルセラショップに商品を卸した伝説のJKの話。高校3年間で3000万円近くを脱税しつつ稼いだそうですよ。現金取り引きの闇商売ならでは、の荒業です」

「それすごいね!!あたしもできるかな?!高校生になったらやろうかな!!」


 春奈がテンションを上げるけど、何か危険なワードが混ざっているような気がする。特に『 脱税 』とか『 商品 』の部分。何を売っていたんだろうか。あと、『 ブルセラショップ 』っていうの、聞いた事ないけど何か危険な空気を感じる。


「今は『 ブルセラショップ 』がほぼ存在しないと思いますから、無理でしょうねぇ。加工販売するための『 原材料 』も、一部商品は仕入れが難しくなっていると思いますし。そもそも流行が廃れていますから、買う人もあんまりいないでしょう。当時は買う人がいっぱいいた、という事ですが」

「そうなんだ……少し残念だなぁー」


 僕は少し安心したよ、春奈。


「今となっては少し危ないバイトですから、やめといた方がいいです。当時のそのJKですが、『 商品 』に、自分のポラ写真をつけて付加価値を釣り上げてたそうですから。今それをやったらネット炎上、はては住所特定の危険すらあります。あくまで古き良き時代の、伝説ですよ」

「そっかー。時代に合わせないとダメだよね」


 何か微妙に話が食い違っているような……気がしなくもないのだけれど、なぜだろう。


「まぁともかくですね、自分で言うのも何ですが、ワタシは声質が悪くないと思うのです。顔出ししなければ合成音だと思ってもらえるかもしれませんし、音声ソフトをいじくる手間も省けます。どうせ副業として、年間20万円も入ってくればラッキー、くらいのつもりで遊びでやるのです。できるだけローコストで、手間を少なくやりましょう。何かの間違いで登録者数が伸びれば、貯金したコンテンツが突如として火を噴くかもしれません。プロでやるつもりが無ければ、宝クジ感覚の趣味で済みます」

「それいいね。お祭りの時にもらえる、不意のお小遣いみたいなヤツ!!あれ、妙にうれしいよね!!」


 確かに。あんまり期待して無かった時に臨時収入があると、大金でなくてもすごくうれしい気がする。僕もそのうち仲間に入れて欲しいなぁ……


「収益がいっぱい上がったら、撮影用ビデオカメラとか編集ソフトとか、編集用PCとかモニターとか、色々と必要経費で落とす機材を買いたいですよねぇ……夢がふくらみます」

「カメラが買えたら、お兄ちゃんをカメラマンに雇おう!!」


 画像編集スタッフとして雇うのもいいですね。労働力だね。

 などと話す、妹たちだった。僕はコンテンツの登場キャラクターとして少し出して欲しいだけなんだけど。このままだと裏方一直線になってしまう気がする……


 どのみち、今はまだ『宝クジが当たったら何を買う??』みたいな話に過ぎない。そもそもまだ、父さんの許可を得てはいないのだ。あと、雪奈の話だと収益化までに登録者数、月間最低再生数など、クリアすべき課題も多い。そして収益化したとしても、月間再生数が収益化ギリギリの4000時間、コンテンツ1回あたり30分だとしたら8000再生という事だから……1再生あたり0.05円なら……月間収益は400円か。税金はかからないな。


「夢があるのか、無いのか。どっちなんだろう」


 わきゃわきゃと楽しく話す妹たちの様子を見ながら、僕はそんなひとことを口にしてしまうのだった。


※※※※※※※※※※※※


「ねぇー、パパー」

「ユアチューバ―、いいでしょー」

「……う、うぅーん…………」


 その日の晩御飯の後。妹2人にまとわりつかれて、少しうれしそうな、それでいて困った様子の父さんの姿がリビングにあった。なお、普段は使わない『 パパ 』呼びは、もちろん雪奈の入れ知恵だ。なんでも『お父さんにおねだりする時の決まり文句』なんだそうだ。本来は『ねぇー、パパ―。カメラ買ってぇー』という感じで使うらしい。

 ちなみに母さんは、『顔出し無しで近所の風景なんかを映さないなら』という条件だけつけていた。とりあえずは子供のやる気、というものを重視してくれたみたいだ。……そんなワケで、妹2人は父さんを説得中。どうしようか迷っている父さんが折れるのも時間の問題だろうと思う。


 その後。

 コンテンツの投稿は父さんのチェックを通す事、もしも税金関係が発生した場合は父さんに経費と手数料を渡す事、何かの間違いで高額の収益が上がった場合も、月間のお小遣いへの上乗せには上限を設ける事、などの契約項目をまとめて『 契約書式1 』として書面に起こし、サインの上でお互いが控えを1通ずつ保管する、という事で話が通った。


 以後、兄妹で『企画会議』と称する会議が開かれつつ、雪奈がPCで作成、編集したショートムービー等を散発的に投稿する事になる。……が。


「……再生数が……いえ、チャンネル登録者数の伸びの方が問題でしょうか」

「お父さんとの契約で、友達に紹介するのはダメって事になってるしなぁー」

「やっぱりもっと、興味を引くネタじゃないとダメかなぁ」

「やはり、『5分に1回、エロ・グロ・ナンセンス』でしょうか」

「カゲキなのは、お父さん倫理委員会が通らないよ」

「やっぱり流行りのワードかな」

「となると、政治ネタですかね。国内国外の選挙ネタと敵対国家ネタは鉄板です」

「小さな子が政治の事を話すのは、ギャップがあって面白いかも」

「僕は詳しくないけど、なんか良さそうな気がする」


 ――と、会議のようなものをしつつ。収益化の道は、なかなか厳しいものだな、と。世間はそんなに甘くないという事を、少しだけ感じる事になるのだった。

 なお、僕らの投稿チャンネルは名称決定会議が迷走しまくったあげく、『ゆきチャンネル(仮)』という名前に決まった。


 もちろん『ゆきチャンネル(仮)』が収益化できるようになるかは、今のところ、まったく分からない。そんなワケで、僕ら兄妹の共通の趣味が、こうして生まれたのだった。

将来なにになりたい??

……などという質問に対する回答が世相を反映していたり、世代を映していたりしますよねぇ。

今回はごくごく普通の、現代日常話でした。今後はこういった方向で前世系転生者ネタ的なものが減っていく可能性もありますが、まぁ人間は日常に順応するものですし。ゆるく適当な感じでやっていこうかな、と思っております。そんな訳で今後とも、ゆるくお付き合いくださいませ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 金髪幼女は転生者(かもしれない)だから、ちょっと疎いだろうけど……案外男の娘vチューバーのほうが人気出たり…… どうせ世の中のほとんどのVチューバーなんて中身がおっさうわなにするやめ
[良い点] がんばれお父さん倫理委員会!! [気になる点] さすがになんちゅうか、小学生に出しちゃヤバい情報をボロボロしすぎじゃありませんかね、ゆきちゃんどのっ!? 反応が純すぎて、こちらがツライ………
[良い点] 今日も更新お疲れ様です〜 自分もチューバーな皆さまがどれだけ儲かってるか調べたことがありますが、登録者数5kくらいの中堅でも全然らしいですね。ほぼお小遣いだとか。 でも小学生なら十分な金額…
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