37 存在抹消系幼女
当作品はフィクションです。現実世界で実行すると犯罪に該当する行為を時々描写している事もあります。そこら辺が15禁かと思います。お気をつけください。
とある日の夕暮れに近い時間帯。もうすぐ薄暗くなり始めそうな時間帯。
家の電話がコール音を鳴らし始めた。ただ今、父さんと母さんは外出中。そして雪奈も自転車で外出中。もうじき帰ってくる予定だと思うけど……そんなワケで。
「お兄ちゃーん。電話ー」
「はいはい」
自分では電話に出るつもりのない春奈に言われつつ、僕は受話器を手に取る。電話に表示されていた電話番号は、登録されていないものだった。
「もしもし」
『オレオレ。オレだよ』
受話器を取った時、相手が自分の名前か、こちらの名前を言うまで情報を与えるような事を言ってはいけない、と教えられている。サギの電話に引っかからないようにするためと、間違い電話に対する対応との両方で、個人情報を守るために役立つ方法だから、と言って教えられているのだ。もちろん教師役は雪奈だった。
そして今まさに、ウワサに聞いたサギの電話のような言葉を聞いている。本当に詐欺グループの電話がウチにもかかってきたのだろうか。
「どちら様ですか??」
『――その声は、お兄ちゃんですね。ワタシです。山村さんちの雪奈ちゃんです。騒ぎ立てず、おしずかに願います』
雪奈だった。若干だが、何かの犯罪電話のような雰囲気を感じる。
「ええ?!なんで電話?!何かあったの??」
『お静かに!!お父さんやお母さんに聞かれたらどうするんですか!!』
「父さんも母さんも出かけてるよ……どうしたの??事故とかじゃないよね」
『事故なんて起こしてませんよ!!ちょっと出先で自転車を置いて移動しなくてはならなくなったのですが、そろそろ暗くなりそうなので、歩きだと時間がかかります。お兄ちゃん、自転車で迎えに来て下さい。二人乗りでワタシの自転車を取りに行きましょう』
「父さんに頼んだ方がよくない??」
『それは困ります!!事情を詳しく説明できません!!』
「いったい何があったの……とにかく、今どこ??」
『お兄ちゃんが一人で迎えに来てくれると約束しなければ、言う事はできません。今日の一件は、他言無用に願います』
言ってる事が完全に怪しい。しかしここは雪奈の要求をのむ他は無いだろう。
「わかったよ。父さんにも母さんにも言わない。で、どこに行けばいいの??」
『市民病院です。正面ロビーで待ってますから、すぐ来てくださいね』
そこまで言うと、電話は切れた。
「春奈ー。ちょっと出かけてくるよ」
「はーい」
「ところでさ、雪奈って、【お守りケータイ】持って出たっけ??」
「え?!……うわー!!ここにある!!雪ちゃん忘れてるよ!!これバレたら、お母さんに叱られるよー!!」
ないしょにしといてあげて、と言いつつ。僕はヘルメットを手に取って、家の外に出るのだった。雪奈はしっかりしているけれど、時々こういう『うっかりミス』みたいな事をやらかす事がある。
――数十分後。僕と雪奈は、いっしょに家に戻ってきた。辺りが暗くなってきたところだったので、家に帰って来た時には父さんも母さんも戻ってきていて、「もう少し早く帰って来なさい」と注意された。なお、雪奈が【お守りケータイ】を忘れて出かけた事はすでにバレていたので、夕食前に母さんの説教を受けてから、雪奈は夕食を食べた。
夕食を食べながら、僕は少し思い出す。雪奈を迎えに行った時の事だ。
市民病院の前の駐車場で、パトカーが2台停まっていて、ミニバスの前で何やら聞き取り調査??みたいな事をしていたけど。あれは何があったのだろう。まさかと思うけど……雪奈が一枚噛んでいる事は無い、よね……??
まさかそんな事は無いか。いくら雪奈であっても。
そう自分に言い聞かせるような、そんな事を考えながら。僕は夕食を食べたのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
――山村家の、ごくありふれた夕食の時間から、約3時間ほど前の事。
一台のミニバスが騒がしくクラクションを鳴らしつつ、市民病院の正面玄関前に乗り付けた。地域の自治体によって運行されている、一定年齢以上の高齢者が無料で利用できるミニバスだった。光の加減で中はよく見えなかったが、車体をよく見れば左側のライトや車体側面などが破損していて、激しくこすったような、真新しい傷もついている。何が起きたのか、まるで映画に出てくるような暴走バスのような……そんな怪しげなバスが停車した後、少し間を置いて昇降口が開き――
――幼女が飛び出した。
自転車用と思われるヘルメットの下から見える金髪を激しく揺らしつつ、その幼女はそのまま市民病院の中へと駆けこむと、次に出てきた時には担架を持った病院関係者数人を連れてきていた。
『このバスの中です!!通路に寝かせてある人です!!』
病院の前にいた通行人数人が見守る中、バスの中から、バス会社の制服と思われる制服を着た男性……意識がないのか、ぐったりとしていた……が抱え出され、担架に乗せられ、病院の中へと運び込まれていった。
『……これで一安心、ですね』
ふーやれやれ、と。額の汗をぬぐう仕草をする金髪幼女。それが合図という訳でもないのだろうが、バスの中から乗客が一人、また一人と降りてきた。昇降口近くで集団を作って何かを話している。
――と、先ほどから聞こえていた、パトカーのサイレンが次第に大きくなり……サイレンを停止して、バスの前後に停車した。状況から察するに、このバスを追って来ていた可能性が高い。もしや、本当に暴走バスだったのか?!と、徐々に野次馬が増えつつある中、パトカーから降りてきた警察官がバスの中を確認した上で、昇降口近くの乗客達に話を聞いている。
『……運転手は??』
『運転手さんは、意識不明で病院に運び込まれました』
警察官の質問に、金髪幼女が答えている。幼女は警察官としばらく会話を交わした後『おうちに連絡しないといけないので』と言って、ぺこりと頭を下げて去って行った。
※※※※※※※※※※※※
「……すみませんが、もう一度、お願いできますか??」
「嘘は言ってないんですよ、お巡りさん……だからとりあえず、私が『運転していた事』にしておいてくれませんか。あと、また私はボケてませんからね」
病院の駐車場の隅に停めたパトカーの中でバスの乗客の話を聞きつつ、調書を作る警察官は「うーん」と唸りつつ、どうやって調書を書き上げようか、などと考える。
乗客から聞いた話は、大体の辻褄が合っている。だが、聞いた話をそのまま書けば、上司に怒られそうな気もする。乗客は誰も彼もが高齢者だが、全員の記憶が怪しい、という事も無いような気がする。
しかし、聞いた話はとてもそのまま信じられる事ができないような話だった。
――地域バスの乗客全員から話を聞いたところ、状況は以下のようなものだ。
まず、バスの運転手の様子がおかしくなり、バスの挙動がおかしくなった。
次いで、バスが路肩の縁石や標識などにぶつかりながら停まった。運転手の足がアクセルから離れた事によって惰性で走り、障害物との摩擦でバスがほぼ停止し、エンストを起こして完全に停車したようだった。
そして安全に動けるようになった乗客が運転手を運転席から引きずり出してバスの通路に寝かせた。かろうじて呼吸はしているようだったが不安定で、意識も無く、すぐに病院に運ぶ必要があると思われた。
だが、その時に乗っていた乗客数名は携帯電話に類するものを所持しておらず、見渡せる範囲には電話ボックスも民家も無かった。ちょうど川と山沿いの周辺道路で、辺りにあるのは人気のない河川敷公園や、水害対策倉庫くらいなものだ。バスに無線はついていたようだったが、もちろん使用方法は全く分からないため、取れる手段が無い。加えて言えば足腰の弱っている高齢者ばかりだったため、走って助けを呼びに行くのは難しく思われ、途方に暮れた。
――と、ここまでは良かった。事件というか事故というか、良い話ではないが、どこにもおかしな部分の無い、普通に説明のつく話だ。が、ここからがおかしい。
車が通りかかるのを待つか、それとも歩いてでも助けを呼びにいくべきか……と、苦労して開閉ボタンを見つけて開放する事に成功したバスの昇降口付近で数名の乗客たちが相談していると、そこへ子供用自転車に乗った、金髪の幼女が通りかかったのだという。
『何かありましたか??』
金髪で青い目の幼女は日本語で話しかけてきたので、普通に状況を説明する乗客たち。そして幼女に近くの家まで助けを呼びに行ってくれないか、と頼んだところ。
『そんな悠長な事をしている場合じゃないでしょう!!近くの病院なんて車で行けば10分ぐらいのものです!!カギがあるなら、このミニバス運転して行けばいいじゃないですか?!』
と叫ぶ金髪幼女。それに対して、乗客は。
『いや、もう運転免許は返却したよ、何年も前に』
『ワシもだよ。というか、バスなんて運転した事ないよ』
『車の免許は取った事が無いんだ』
『私も無いわねぇ』『昔からバスばっかり使ってたから』
という返事だった。幼女はバスの中に飛び込むと、中に残っている乗客に向かって叫ぶ。
『ちょっと――!!誰か乗客の中に、普通運転免許、できれば中型免許を持っている方はいらっしゃいませんか――?!』
『返却した』『持ってないよ』『原付しか乗った事ない』『ないなぁ』
なんじゃそりゃー!!と叫ぶ幼女の声に、外に出ていた乗客もバスの中に戻って来て、通路に寝かせた運転手の様子を確認する。やはりここは、あの子に助けを呼びに行ってもらうか、自転車を借りて近くの民家まで自分達の誰かが行くしかない、と、そう思った時。
プシューッ、と高圧空気の抜ける音がして、昇降口が閉まった。
そして、エンジンのかかる音がして。バスがゆっくりと進み出した。
揺れる体を、慌てて椅子に掴まって支える乗客。
運転手は意識不明で床に寝ている。誰がバスを動かしたのか。
『ちょっとお嬢ちゃん、何してるの?!』
――運転席には、自転車メットをかぶったままの、あの金髪幼女が座っていた。
『非常事態です!!止むを得ません!!』
そう叫びつつ、アクセルを踏み込む幼女。バスは加速する。
『ちょ、ちょっとお嬢ちゃん、運転』
『問題ありません!!運転ならできます!!ミニバスなんぞ、普通乗用車とさほど変わりませんよ!!』
乗客の中から『えええええええ』と、驚きの声が上がる。その叫びを聞きながらも幼女はシフトレバーを操作してギアを上げ、バスは順調に加速していく。
『……本当に、運転できるのか……』
『ものすごく浅く腰掛けないと、ペダル操作ができないのでシートベルトが装着できませんが、運転そのものは何とかなります。……問題は、座高が低すぎて周囲がよく見えない事です。交差点ではクラクション鳴らしまくって進みますが、歩行者や自転車が近づいて来ていないか、乗客全員で周囲を確認してください。誰か!!近くの席でナビをしてください!!サイドミラーが全然役に立たないのです!!』
幼女の指示に従って、乗客が周囲の様子を見るために窓に貼りつき――低速ながらもクラクションを鳴らしまくって走る奇妙な迷惑走行のミニバスは、病院を目指して走りだしていった――
※※※※※※※※※※※※
「……そして、そのまま、あの女の子が病院まで運転してきた、と」
「はい。ギアを噛んだりもせずに、うまく運転してましたよ。クラッチワークがちゃんとできてるんで、『うまいねぇ』って言うと、『1トンくらいのトラックなら運転した事がある』って言ってましたよ。運転席の高さは似たようなもんだって言ってましたね」
「あの子……小学校低学年ぐらいに見えましたが」
「歳を聞いたら、『4月生まれの、8歳です!!』って言ってましたね。小学2年生……かな??まあ、それにしては体は大きめでしたけどね。いやあ、最近の子は成長が早いですよねぇ。ワシらが子供の頃は、もっと体が小さかったしバカだったし、車の運転なんて出来なかったもんですが。最近の子は凄いですなぁ。トラックを運転とか言ってましたから、どこかの農家か、植木屋か土建屋の子ですかね??」
土建屋の子供でも、普通はトラックの運転なんかしねぇよ!!
――などと言いそうになる警察官だったが、ぐっと言葉を飲み込む。というか、8歳の小学生がミニバス運転してたとか、たとえ事実でもそんな事を調書に書いたら最初に書いた自分の頭が疑われるし、本当だとしたら色々と問題が出てくる。あとそれから乗客が高齢者ばかりだから言いたくは無いが記憶が怪しいかもしれないし、だからと言って乗客全員が似たような事を言うのもおかしい。最悪の場合、乗客全員が子供に無免許運転の罪を着せようとしている可能性も出てくるわけだが、それにしては数名の乗客が『私が無免許で運転していた事にしてください』と言っているのもおかしい。
すべておかしい事だらけだ。もちろん、今回の件に関しては『人命救助のため』『緊急避難』という理由がついてくる上、事故も起こしていないので、無免許運転以外の点は問題にならないから、警察側としても運転していた人間に法的処分が科される事が無いようにするつもりだが…………
「調書、どう書くかなぁ……」
「……あの子は居なかった、という事で、いいんじゃないですかな??」
そうするか。
罪に問うべき人間が居ないのなら、物事は丸く収めるべきだろう。と、そう思う警察官だった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
夕食の後。お茶を飲みつつ、雪奈が話し始めた。
「……お兄ちゃん、将来クルマの免許を取るなら、必ずマニュアル車の免許を取ってくださいね。なんでも最近はオートマチック限定免許が主流で、しかも車校の講習プログラムでも、オートマチック限定の講習にはマニュアル車の運転体験講習が無いモノもあるそうじゃないですか。少しくらい高くついても、マニュアル車講習を受けておいてくださいね」
何やら雪奈が『マニュアルの免許を取れ』と猛プッシュしてきている。何かあったのだろうか。それとも、また何か前世の記憶に関係する何かだろうか。
「マニュアル車免許だと、何かいい事あるの??」
なんで猛プッシュしてくるのか、雪奈に聞いてみる。
「マニュアル免許の方が偉いですよ!!」
「そんな理由?!」
「あと、オートマ限定なんて女の取るモノです。……と、昔は言われていたそうです」
「今はそんな事は言われないと思うなぁ」
やはり、いつものコダワリ的なもののようだった。
「……他にもですね、トラックやバスなんか、マニュアル車な事が多い気がするというか……出先で他人のクルマを運転する時なんか、そのクルマがマニュアル車かオートマチック車か、分かったもんじゃ無いでしょう??緊急事態の対応力は高くなりますよ」
「そんな事、あるかなぁ……」
「あとほら、ゴッコ遊びもできますよ!!『ビーグルモード・チェインジ!!』とか言って、シフトレバーを、ゴッゴッ!!と入れるヤツ!!」
どうやら前世の記憶関係のネタらしかった。そのネタ何なの、と聞けば。
「昔のアニメなんですけど。『新世界GP・ロボテックフォーミュラ』って知りませんか」
「知らないなぁ」「なにそれ」
「レーシングもののアニメですよ。レバーひとつでクルマがサーキット仕様の形態と、悪路走行仕様の形態とに変形するクルマが出てくるのです」
「見た事ないなぁ」「雪ちゃん古いアニメ好きだよね」
昔のアニメのゴッコ遊びのためだけに、高い免許の講習を受けるのかー。
「レーシングもののアニメだと、もっと昔にF1レーシングのアニメで『GPの高田』というのもありましたよね。まだF1マシンにタイヤがいっぱいあった時代のレーシングものです。昔のアニメにはよくあるパターンの歌ですが、主題歌で主人公の名前の『高田』を、やたら連呼してたのが印象的でした。歌えますよ!!覚えやすい歌なのです!!」
そのまま雪奈は小さな声で歌を歌い出し、『俺は高田』『GPの高田』と、機嫌よく歌っていた。どこかで聞いた歌だな、これ。どこかで見たっけ??
「どこかで聞いた事あるような気が……」「あたしもそんな気が」
「こないだ週末のテレビ映画枠でやってた、例の紫色のロボが大暴れするアニメのリメイク版の映画の第三作の冒頭部分で、ピンクのスナイパーが歌ってましたよ。それじゃないですかね」
「「それだ!!」」
そんな話の流れで、将来に僕が取る普通車の運転免許は『 マニュアル車免許 』という事になってしまっていた。正式には普通自動車第一種免許と言うらしく、オートマチック限定の場合は( AT限定 )と一緒に書くもののようだった。雪奈が言うには「昔のスポーツカーとか乗りたい時には絶対に必要になりますよ!!」とか言ってたのだけれど。はたして僕が、クラシックなスポーツカーとか買って乗る日が来る事があるのだろうか……と、疑問に思う。
まあ、どうせいつもの『雪奈のコダワリ』的なものだし。何年もしたら忘れているか、どうでも良くなっているかも知れないし。そもそも僕らが大人になる頃には、電気自動車が普及してガソリン車なんて公道で走る事が困難になっている可能性すらある。あまり気にしない事にしよう。
そして不意に『市民病院のパトカー、何だったんだろう』と思い出して。まあ、ウチには関係ない事だよね、と。すぐに忘れる事にした。今日も今日とて、我が家はおおむね平和だったな、と。ほっと一息つく僕なのだった。
今回は更新が遅れましたが、次回は時事ネタで少し早めに投稿致します。
年末は交通事故が雰囲気的に多くなるような気がするので、皆様お気をつけください。
野球の方どんどん進めないといけないのですが、年末のためか余計な負荷がかかっている気が致します。皆様も健康と交通安全にお気を付け下さいませ。飲酒運転、無免許運転ダメ絶対。
当作品は今後も、ゆるーくやっていこうと思っております。気長かつ寛容にお付き合いくださいませ。




