ゼロノア防衛戦線『災害魔法』
メガトンヴォルケーノ。
それは《炎属性魔法》スキルの上位である《獄炎属性魔法》スキル、その更に上位に位置する《煉獄》スキルにて習得される災害魔法と呼ばれる魔法のひとつ。
マグマを吸い上げ、圧縮し、超広範囲へ無差別に放出するというまさしく噴火そのものと言える力だ。
災害魔法は総じて極めて凶悪な超広範囲攻撃であり、その総威力は単一の魔法としては真理魔法に次ぐ。
その分使用条件は極めて重く、膨大なMP消費に加えて発動環境を整えなければならない。例えばメガトンヴォルケーノであれば発動するにはその地域が火山地帯であること、それから地表上に発動に足るだけの大量のマグマが必要となる。
そんなのメタ・サラマンドラ専用みたいなものではないのか、という感想はほぼ正しい。
なぜならこの災害魔法もまた影魔法と同じく、魔神の存在により無理やり型に填められた力だからだ。
魔法という形態を取るようになったことによる、メリットらしいメリットは存在しない。むしろモンスターであるメタ・サラマンドラにとってはデメリットの方が目立つ。
元々はSPの消費によるアーツに近い行動だったのがより回復しにくいMPを消費するようになったことや、魔法属性を得たことで純質量攻撃ではなくなったため、魔法を軽減する類の防御の対象になってしまったことなどが挙げられる。
とはいえ、メタ・サラマンドラ本体にそれを嘆くような自意識は無い。今有効に使える技を使っているだけだ。
それに、防御手段の増減など微々たるもの。
そう簡単に対処できないからこその災害。
数メートルサイズのマグマ弾が、無数に、無差別に、およそ半径5キロの範囲に降り注ぐ。その攻撃範囲には当然のごとく、ゼロノアの街も含まれている。
いや、含まれているなんてものではない。それは火山側の下町が壊滅する程の莫大な範囲だった。
目測で30秒もしないうちに全てのマグマ弾が降り注ぐことだろう。
誰よりも早く動いたのは当然、歴戦の猛者であるハオだった。
「《全天祈誓》《星霊五重召喚・四獣天秤の水晶鏡》!」
本来であれば瞬時に唱えられる規格ではない、五重召喚の星霊召喚。
召喚されたのは直径にして1メートルはあろうかという、鏡色に揺らめく水晶玉。それは豪奢な装飾に彩られていたサージやストリアと比べればあまりにも無骨な見た目で、けれども異様な存在感を放っていた。
《全天で五重!? 正気ですか!?》
「レイレイ、サージ、構えろ!」
「ええ!」
《ええい、どうなっても知りませんよ本当に!》
前回の射撃からおよそ30秒。引き続き効果の持続したポーションと回復魔法のお陰で2割ほどのHPを取り戻したレイレイは上限の6割程度までは回復できており、再びサージを構えることができる。
チャージ時間の5秒すら惜しく感じる。だが、その隙に外壁の下の方からも迎撃の魔法が飛んでいくのが見える。
(流石に判断は早いわね)
全方位。それはすなわち前線の近接戦士たちから遠距離攻撃部隊、そしてゼロノアの街にまで被害が及ぶことを示している。
サラマンドラがメガトンヴォルケーノを放つ際、足場となるマグマを一時的に吸収したことで、戦士たちの周りにまとわりつくように襲いかかっていたサラマンドラ・ベビィは文字通り陸に上がった魚となっている。
それでもサラマンドラ・シャドウズによる魔法攻撃は飛来するが、この戦場で今も生きているほどの戦士ならマグマ弾を含めても自力で回避可能だろう。
逆に機動力の高くない遠距離攻撃部隊はある程度自力で迎撃する必要がある。
今飛び交う魔法や遠距離攻撃はそういう意図を持ったものだろう。
この外壁上には防御が得意な騎士職であるまくらとメルベルがいるためレイレイとハオがマグマ弾の犠牲になることはない。
しかし安全地帯にいるからこそ、何よりこの場で頭抜けた力を持つからこそ、彼らはこの災害魔法から街を護るため可能な限りの迎撃を行う必要がある。
(何をするつもりなのかはわからないし、何をできるのかもわからない。この戦闘そんなんばっかなのよ)
「ローニ、最大展開!」
《おーけいっ。獅子ちゃん牛ちゃん山羊ちゃん羊ちゃん、勝手に力を借りちゃうよーんっ!》
ローニと呼ばれた水晶玉はそう言うと、水晶の内側に天秤の模様を浮かび上がらせる。
《レイレイ、最大効果の照準補正をかけなさい! 私の雷には効果が乗ります!》
「やっと意味あること喋ったわね! 《偏差照準・歪》!」
チャージの完了。
そして同時に、サージから要求された照準補正のアーツを発動する。
《偏差照準・歪》はコモンスキルである《長弓》スキルの熟練度950で習得できる最高級の照準補正アーツで、矢の軌道から7メートルまでズレていても無理やり命中するほどに強引な軌道修正を行える。
サージが照準補正を進言したのは、今回の的が先程までとは大きく異なる状態にあるからだ。
ノロマに歩いていたサラマンドラへの照準に比べ、数えるのも億劫になるほど飛び散っている上に高速で飛来しているマグマ弾。
動く対象への狙撃には撃ってから着弾するまでに対象が進む距離、すなわち偏差撃ちの概念が不可欠だ。
射手の意思に従って雷速で飛来するサージの矢は限りなく偏差撃ちを必要としない武器ではあるが、今回は数が違う。
数百、あるいは数千。パッと見ではどちらか判断することさえできないほどのマグマの弾幕。
その全てに正確に意識を向けて雷を炸裂させるのは不可能に近い。
ソレはヒトの処理能力を超えた、人外の所業になってしまう。
更にそれに加えてサージはハオがローニを召喚した意図を汲み取り、可能な限りの状況を整えることに注力する。
《ローニ、いつものヤツです! レイレイ、矢は直接ローニに向けて! アレらに当てる意識はいりません、後はハオが繋ぎます!》
「わかった、わっ!」
ヤケクソに近い祈りを込めて、レイレイはチャージが完了した雷の矢を水晶鏡へと撃ち込む。
落雷は吸い込まれるように水晶鏡の中へと消え、内側で雷が爆ぜるように踊る。
《天秤よ、めっちゃ釣り合えーっ!》
ローニの掛け声とともに撃ち込んだ雷の矢の威力が増幅され、増幅され、ひたすらに増幅され続ける。
何が起こるのか。もうHPがほとんど残っていないレイレイとマグマ弾が実際に飛来するまではやることのないまくらは、激しくなり続ける水晶内の雷の様子を固唾を飲んで見守っていた。
経った時間はわずか数秒。マグマ弾の着弾まで目測で10秒もなくなった頃。
遂にローニが合図を出した。
《均衡かんりょーっ! ハオちゃん弓ちゃん、飛び出るよーっ!》
「ああ、全て任せろ」
いつの間にやら片眼鏡を装備していたハオは両手を広げ、全てのマグマ弾を視界に収める。
(アーティファクト……あるいは、別のアルカステラ?)
飛び出る、というローニの言葉の通り、どうやってその中に収まっていたのかと言いたくなるような巨大な雷のエネルギーが天空に向かって撃ち出され、留まる。
「落ちろ、万雷」
ハオが広げた両手をパンッと軽く合わせた瞬間。
滞空していた雷球がバチッと軽く爆ぜ。
その放電を呼び水として、千を超える雷の槍へと分かたれた。
「……すごい」
炸裂、一掃。
街に向けて飛来するマグマ弾の全てを消し飛ばし、その上余った数十の雷はメタ・サラマンドラの本体や地上で蠢くモンスターたちを焼き尽くす。
これが英雄の持つ力の一端。
雷撃の炸裂音で再び倒れかけたレイレイを支えながら、まくらはぽつりと呟いた。





