第4話 どうぶつクッキーと危険な町内パトロール
異世界といっても、チートも魔力もないわたし。やっぱり昭和ど根性女らしく働かないといけないらしい。
「マリー、コーヒーゼリーお待たせいたしました」
閉店間際にやってきたお客さん、マリーにコーヒーゼリーを運ぶ。例の事件からコーヒーゼリーがずっと人気だった。最近ではジェマおばさんのアイデアにより、クリームとどうぶつクッキーをトッピングするサービスが特に人気だ。
どうぶつクッキーはネコ、クマ、リス、ウマ、シカなどの形のもの。主に子どもに人気の焼き菓子だったが、異世界でも少子化が深刻らしい。売れない。ということでジェマおばさんがコーヒーゼリーのトッピングを思いついたってわけ。
「まあ、今日はリスのどうぶつクッキー? 可愛いわね!」
マリーは雑貨屋をオーナーだ。見た目は華奢な美人って感じだが、こうしてはしゃぐ姿は嫌味がなく、親しみやすい。
「アリサ、ジェマおばさん。どうぶつクッキーがトッピングされているのいいわね! ハマったわ!」
「まったくマリーは可愛いものに目がないね」
ジェマおばさんは呆れていたけれど、マリーは雑貨屋オーナーとしてオシャレ女子だと注目されていたし、このコーヒーゼリーも安定した売り上げだった。その上、どうぶつクッキーにまで人気が飛び火し、結局また売ることに。レジ横の焼き菓子コーナー、袋詰めのどうぶつクッキーだけ売り切れる日も珍しくなかった。
そんなある日のことだ。ルイスがやってきた。最近は騎士団の仕事が忙しいらしく、あまり来なかった。珍しい。相変わらず顔はお疲れだ。おそらく上司と部下の間で板挟みになっているのだろう。
「いやだ、ルイス。お疲れ?」
ジェマおばさんはからかっていたが、ルイスは言いにくそうに今日来た目的を話す。
「レジ横のどうぶつクッキーを販売するのを、当分中止して欲しい」
ルイスはホットコーヒーを啜ると、言いにくそうに事情を説明していた。
最近町に不審者の情報が寄せられたという。不審者はどうぶつクッキーを使い、子どもたちに一緒に遊ぼうと話しかけているという。
「え、だとしたらうちのお客さんの中に不審者がいるってこと?」
信じられない。最近、どうぶつクッキーを買ったお客さんの顔を思い出す。雑貨屋のマリー、町内会長、学園の用務員さん、それに王都からこの町に遊びに来ている観光客数人。用務員さんを除き全員女性だった。こうして思い出すと案外こどもには受けてないと気づくが、用務員さんは犯人じゃない。ずっと学園で住み込みで働いているし、アリバイもすぐ確認できるはずだ。
「そんなうちのお客さんに不審者なんていないわ」
ジェマおばさんもぷりぷり怒ってる。
「それにルイス、うちで販売するお菓子を制限する権利なんてあるの?」
「ジェマおばさん勘弁してくれよ。上からの命令でこっちも逆らえないんだ」
ルイス、まさに板挟み。とはいえ、不審者は気になる。
「誰が不審者がいるって通報したの?」
「あぁ、アリサ。この町の少年のチャドだ。嘘をついているようには見えなかった」
「チャドは不審者の姿、なんて言ってた?」
ルイスは作成した似顔絵を見せてくれた。黒ずくめ、サングラス、マスク姿の中年男性だったが、何か引っ掛かる。
「ジェマおばさん、不審者ってあからさまにこんな格好するかな?」
日本でも見た目がいい人、爽やかで優しい雰囲気の人も不審者である可能性があると言われていた。なんせ貧乏一家出身のわたしだ。治安の悪い地域も慣れているが、典型的な不審者ってあんまり見なかった気がする。
「そうよ、アリサの言う通り。何か匂うわ。そもそも不審者の噂、わたしのところに入って来ないのも謎ね」
思わずジェマおばさんと顔を見合わせる。その通りだ。あの噂好きのジェマおばさんのところに情報がないってどういうことだ。謎が深まる。
「なんだったらわたしたちが町内パトロールしましょ! こっちが先にどうぶつクッキーを配り歩いたら、いいんじゃない?」
「ジェマおばさん、グッドアイデア クッキー配りながら防犯しようって伝えるのね!」
「さっそく行きましょう! もう夕方だし、今日はもう閉店でオッケー!」
「ちょ、ジェマおばさんもアリサも何を言ってるんだい?」
ルイスは胃が痛そうだったが、こうしちゃいられないし、わたしとジェマおばさんを止めるなんて難しいだろう。
結局、わたしとジェマおばさん、ルイスも一緒に町内パトロールに出かけることに。
「いいですか、二人とも。決して自分勝手に行動せず、わたしの言う通りに動いてくださいね」
そう言って前を歩くルイス。確かに騎士団員の一員らしく、わたしたちを守るように歩いていた。
「あら、そんな命令はわたしには効かないわよ!」
もっともジェマおばさんは自由人だ。ルイスが学園の方にいこうとしても、強引に公園の方に行き、サクサクとどうぶつクッキーを子どもたちに配る。
「ジェマおばさん!」
「おばさん大好き!」
「クッキーちょうだい!」
あっという間にジェマおばさん大人気。わらわらと子どもたちが群がり、ジェマおばさんも満更でもない。
「君たち、不審者はみた?」
わたしはその隙に子どもたちに話しかける。ルイスも同様だ。ルイス、背をかがめちゃんと子どもの目線に合わせていた。
「知らないよ。そんな変なおじさん見たことない」
子どもは全員知らないという。
「どういうこと?」
思わず三人で顔を見合わせる。
「ねえ、チャドってどんな子?」
だとしたら目撃者が怪しくなってくるものだ。わたしもルイスと同じように目線を子どもに合わせ、聞いてみた。
「知らない。チャドってなんか浮いてるし、他に友達いないぽい」
「チャドって大人っぽいのよね。確かに頭はいいけど嫌味っぽいっていうか」
「僕もチャドは苦手」
子どもたちに聞くと、チャドは好かれてなさそう。
「もしかしたらチャドの自作自演じゃない?」
そんな気がしてきた。わたしにも弟や妹がいる。大人の気を引くため、嘘をつくことは珍しくない。特に妹なんてよく仮病を使い、母を困らせていたのを思い出す。
「まさか。そんな気を引いてどうするのよ?」
独身で子どもと接する機会が少ないジェマおばさん。わたしの推理に半信半疑だ。
「そうか。なあ、君たち、チャドの家はどのあたりか知ってるかい?」
一方、ルイスはわたしの推理も認めてくれたらしい。これからチャドの元へ行こうという。子どもたちからチャドの家の住所も聞き、向かうことに。
もう夕方だ。熟れたオレンジみたいな太陽が沈んだいる。そんな夕陽に照らされながら、公園からチャドの家がある住宅街へ歩く。
「でもチャドって大人っぽい子どもなんでしょ? そんな子が大人の気を引くために嘘の目撃情報を言う可能性ってある?」
ジェマおばさんが口を尖らせていう。やっぱりまだわたしの推理に納得がいっていない模様だった。
「本当に不審者がいるんじゃなーい? だとしたら普段のパトロールを怠った騎士団の責任!」
「ちょ、ジェマおばさん。これ以上胃が痛くなることを言わないでくれ……」
ルイスはぼやくと、余ったどうぶつクッキーを一枚かじる。リスの形をしたどうぶつクッキーだった。
「うん? このクッキー、本当に子ども向けか? バターたっぷりでサクサクな上、ちょっと塩気がきいているのもうまい。いや、コレはうまいぞ」
ルイス、何やらどうぶつクッキーの味に感動。いつもは真面目そうなのに、目尻が下がり、表情に隙ができてる。
「あったりまえよ。子ども向けだからってお菓子に手抜きなんてするものですか。ちゃんと大人が食べても美味しいわよ」
「ジェマおばさんの言う通り! 実際、どうぶつクッキーは大人にも人気!」
そんな事をワイワイ話しつつ、チャドの家に到着。ちょうど庭で遊んでいたチャド。わたしたちの姿を察知すると、逃げた!
さすが子どもだ。すばしっこく逃げ足が異様に速い!
もちろんわたしたちも追う!
それにこうして逃げているんだ。もうこの不審者騒ぎはチャドが噛んでいると判断して間違いない。
「チャド、待て!」
結局、この中で一番脚が速いルイスがチャドを捕まえた。チャドは大泣きだ。親にも学校にも言うなと顔が真っ赤。
この異世界でも子どもを裁く法律はない。騎士団の詰め所にも連行できず、結局、カフェに連れて行くしかなかった。
ジェマおばさんはホットミルクを作りチャドを落ち着かせた。
「チャド、知っていることは全部いうのよ」
もっとも釘はさす。ジェマおばさん、案外、子どもを子ども扱いしない人らしい。
「まあまあチャド。どうぶつクッキーでも食べて、話して?」
わたしは逆に優しいお姉さんキャラでいくことに。ここで昭和ど根性女で説教はできなかったが、チャドはどうぶつクッキーを睨みつけていた。
まるでこのクッキーに恨みでもあるみたいじゃないの。もはや、このクッキーが騒動を起こした原因?
「そうだよ! マリーお姉ちゃんがこのクッキーにみ夢中になって、雑貨屋も早く締めてカフェに通うようになった! このクッキーが全部悪い!」
なるほど。憧れのお姉ちゃん、マリーをクッキーに取られたと思ったんだ。それでこんな騒動を起こしたわけだ。
「うぅ……。このクッキーが全部悪い……」
泣いているチャド。ちょっと可哀想だが、仕方ない。親に連絡し、この事件は無事解決となり、どうぶつクッキーも店に並んでる。
「まあ、チャド。どうぶつクッキーよりいい男になってマリーを振り向かせな。まあ、今は単なる子供だけどね!」
ジェマおばさんはチャドを励ます。あれ依頼、なぜかチャドもカフェに通うようになり、コーヒーゼリーやチョコミントパフェを食べてる。
「わぁーん、ジェマおばさんの意地悪!」
チャドは泣きじゃくり、カフェは騒がしいものだが、無事にどうぶつクッキーの再販も決まり、カフェに並んでる。
「うん、やっぱりこのクッキーは美味しい。罪深い……」
ルイスもどうぶつクッキーを購入し、町のパトロールに出ている。ルイスはどうぶつクッキーを町の子どもたちに配り歩き、すっかり人気者になったそうだ。もう不審者の影もない。




