番外編短編・元いた世界
わたしは鹿島有紗。貧乏家庭出身だけど、奨学金でなんとか大学へ通い、バイト三昧の生活。
「はぁ、疲れた。なんでバイト先に居酒屋の客って馴れ馴れしいのー?」
愚痴をこぼしながら帰宅。弟や妹や寝静まっているが、明日の弁当の仕込みだけはさっさと終わらせ、自室へ直行した。
決して大学の課題や就活活動をするためじゃない。乙女ゲームをするためだ。最近ハマってる。
「てかジェフリーとか攻略対象はあんまり刺さないんだよな。どいつもこいつも強引でチャラくてさー」
今やってる乙女ゲームはさほど刺さらない。わたしはもうちょっと真面目で紳士なのがタイプなんだけど。
「お、でもなんか裏キャラがいるの? あ、こっちのルイス・アーモンドっていうキャラはツボ。真面目な堅物騎士とか美味しいわー」
ようやくこの乙女ゲームも楽しくなった時だった。なぜか彼氏から着信がきてた。
マッチングアプリで知り合った男だ。名前は戸川優という。理系大学生で全く女慣れしていない。浮気の心配は無さそうだし、金遣いも良かったから不満はなかったのだが。
「は? ちょっとまって、浮気したってどういう事? は? 別れたい!?」
しかし優からの電話は最悪な内容だった。わざわざ浮気していたことを告白し、罪の意識に耐えられなくなり、別れたいという。
「へー。あ、そう」
冷めた。浮気し無さそうが唯一に長所だったのに、裏切られたとは。いわゆる蛙化現象ってやつだろう。
「わかった。別れよう」
そう言うしかないだろう。それに今は乙女ゲームも楽しくなって来たし、まぁ、いいか。
こいして乙女ゲーム内の騎士ルイスにハマっていたおかげで失恋も乗り越え、バイトも就活も頑張った。親の借金も返しながら、奨学金も返し、簿記や宅建の資格も取得した。うっかり新卒で入った会社はブラックだったけれど、昭和ど根性で乗り越え、営業成績もトップだったりした。
「あれ? なーんか元カレの優からメールが来てる。何これ。まあ、どうせろくでもない話題だろうし、見ないで捨てておこ」
それからは全く男に縁がなく、乙女ゲームもほとんどプレイしなくなっていた。
「は?」
そんなある日、異世界転移してしまった。しかもどこかの乙女ゲームの異世界。
失恋の痛みを癒した乙女ゲームの世界に来たことは、この時はまだ夢にも思っていなかった。




