番外編短編・初めてのシフォンケーキ
異世界転移なんて、ファンタジー小説の中だけの話だと思っていた。
「は? ここはどこよ?」
気づいたら、なんか近世っぽいヨーロッパの街並み。庶民の街だろうが、日本人らしき人はいない。
「ここ、本当にどこだ?」
確かわたし・鹿島有紗は、ブラック企業で社畜をやっていたけれど、終電で帰り、そのまま気絶したように寝たんだが、そっからの記憶がない。気づいたら、ここにいた。
そうは言っても、つったってるわけにはいかない。とりあえず、周辺を歩き回ってみた。
「あれ? この学園はどっかで見たことあるぞ……?」
学園の豪華な城門は記憶にある。やたらとピカピカしていた。なんだっけ、これは。
「あ!」
思い出した。あれだ、乙女ゲームの世界だ。数年前にハマっていたやつ。攻略対象より裏メニューの騎士キャラの方にハマっていたが、それもよく思い出せない。社畜のおかげか、全然頭が回っていないみたいだ。
「ということは異世界転移か。しかし、どうすっかね」
貧乏一家出身で、社畜もこなしてきたわたし。周囲からは昭和ど根性女と揶揄われてきたが、これにはまいった。
「すみません。このあたりに警察はありますか?」
とりあえず、道行く人に声をかけた。なぜか言葉は通じるっぽいが、この世界には警察はないらしい。
「まいった。さすが異世界。警察なんてないのか」
チラチラと道を見ると、騎士風の男性はいた。いかにも乙女ゲームな世界って感じで全員イケメンだが、果たしてここで頼っていいかも謎。
「いっそ学園に行く?」
しかしこっちの生徒もイケメンだらけ。眼福。いや、そてどころじゃないし。
「あの乙女ゲーム、なんだっかなぁ。ヒロインも攻略対象も思い出せん。もちろん、シナリオなんて全然わからんわー」
しばらく頭を捻っていたが、全く思い出せない。うーん、うーんと唸っていたらどうでも良いことは思い出した。確かヒロインはお菓子が大好きで、学園の側のカフェに常連だった。
「そう言えばカフェが出て来たわね。なんだっけ。やたらと騒がしいおばさんが店長だったような気がするが……。うーん、でもまあ、ちょっと行くか」
石畳の道を歩き、あっけなくカフェに到着。しかもあの店長がカフェの前で掃除していた。
「あら! あんた、何? 別世界から来たの?」
店長は明らかに浮いてるわたしの容姿は気にしていなかった。むしろ好奇心満々の目だ。名前はジェマという。
「わ、わたしは鹿島有紗です」
「アリサね! さあ、別世界の美味しいスイーツの話でも聞かせてもらおうじゃないですか!」
「えー?」
戸惑っているわたしを無理矢理カフェに連れていく店長。いや、ジェマおばさん。
しかもタダでカフェの看板メニューのシフォンケーキもご馳走してくれた。これが綿飴と同じぐらいふわふわで甘い。
「甘い! 美味しい!」
思わず叫んでしまうぐらいだ。これを食べていたら、異世界転移してしまった戸惑いも飛んだ。
「でしょう? このシフォンケーキはわたしのご自慢なのよ」
ジェマおばさんの明るい声を聞いていたら、不安も消えてしまった。
そうして、ジェマおばさんに拾われ、カフェ店員も始める事になった。というか、自由人のジェマおばさん、店をほったらかして一人で旅行まで行っているんですが……。
「あー、忙しい!」
結局、この異世界でもカフェ店員として社畜をやっていた。昭和ど根性でシフォンケーキの焼き方もマスターし、ワンオペでカフェも回している。
気づくと、異世界にもすっかり順応してしまった。




