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異世界カフェの裏メニュー  作者: 地野千塩


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25/29

第25話 天使のシフォンケーキと騎士の告白

 異世界の生活はすぐに慣れた。でも慣れないものもある。特に告白なんて。


「事件、事件! ルイスがアリサに告白したわ!」


 その上、ジェマおばさんは大騒ぎすんんだもの。町内でも噂が広がり、ちょっと配達しに行くにもいたたまれない。


「アリサ、珍しくモテ期に入ってかい?」

「騎士団長、珍しいモテ期とか言わないでくれません?」


 騎士団長に配達しに行ったがからかわれた。それだけじゃない。


「ルイスは真面目で面白みのない男だが、根っこは優しい。それで素直でいい男だ。こんな良い物件はない。さっさと婚約するのがいいね」


 ルイスを推されてしまい、参った。帰り道も町内会長、歯医者さん、マリーにもからかわれた。もう、いたたまれない。恥ずかしい。


「え? ルイスとアリサっていつのまにか婚約していたの?」


 アグネスにまでそんな誤解をされた。


「婚約なんてしていないから!」


 否定するだけでも疲れた。どうやら町ではわたしとルイスが公認カップルとされているらしい。花屋さんからはお祝いの花までもらってしまい、喜んで良いのかわからない。とにかくカフェにかえって来るまでにどっと疲れたのは確かだ。


「何、その花は。もしかしてルイスにもらった花?」

「ジェマおばさん、違うわよ。なんかもう誤解されているみたい」


 カフェにかえってもジェマおばさんがニヤニヤしているし、本当にどうしたことか。


「メリサ、いらっしゃい」


 そんな時だ。最近、観光客としてやってきた新しいお客さんと話すのは楽しい。この町についてあんまり知らない見ただし、余計な詮索もされない。


「ええ、カフェ店員のアリサさん。コーヒーありがとう」

「いいえ。どういたしまして。メリサはいつまで町に滞在されるの?」


 年齢は四十五歳ぐらいだ。クールな美女で、もしかしたら白衣姿も似合うかも。この町のはいないタイプ。元いた世界ではキャリアウーマンっていうタイプかもしれない。


「まあ、この町は気に入ったし、あと数週間はいるわ」

「そうなの?」

「ええ。あと、十五年前もこの町にいたのよ、わたしは」

「え、本当?」

「ええ。当時は何もなかった。森や雑木林ばかりで、人も少なかった。学園もなかったのよ」


 思いもせずこの町の過去を聞いてしまった。ということは、ジェマおばさんはいつからこの町に来たのだろう。


 閉店後、作戦会議中にちょっと聞いてみた。実は最近シフォンケーキの売り上げが落ち、テコ入れもしようっていう作戦。ネーミングを変えてみようかという話になったが、良いアイデアは出てこない。そのタイミングでこの町のこととか聞いてみた。


「そうよ。十五年ぐらい前は何にもない土地だった……。それをライラ様のご家族や町内会長の旦那様が開拓して、今のような土地になったと言うわけ」

「へぇ。じゃ、ジェマおばさんはなんでそんな新天地でカフェを?」


 珍しい。ジェマおばさんは遠い目をしていた。


「天使に導かれたのよ。この土地にカフェを作りなさいって。シフォンケーキの作り方も教えてくれた」

「う、うそ」


 信じられない話だ。いくら異世界だからってこんなことがある?


「カフェは軌道にのって天使は見えなくなったけれどね」

「信じられないなぁ」

「そういう事もあるって思っていた方がよくない? あぁ、懐かしいわ。天使、天使ねぇ……」


 こんなジェマおばさんの顔、初めてだ。いつもより目が柔らかい。もしかしたら大切ない思い出なのかも。


「だったらさ、天使のシフォンケーキっていうネーミングで良くない? 十五周年の記念で売るっていうのも良いんじゃないかな?」

「天使のシフォンケーキ。なるほど、確かにバッチリなネーミングかも。うん、うん。いいわ」


 いつになくしみじみと頷いているジェマおばさん。真実かどうかは別として、良い話じゃないか。人間は物語に弱い。そんな背景があるシフォンケーキはもっとお客さんの心を掴むかもしれない。


「ところでどんな天使だったの?」

「それは秘密よ。わたしと天使との約束でね」

「わたしも天使に会えないかしら」

「どうだろうねぇ。でもこんな話をしていたら、わたしにもアリサにも良い事が起きそうな気がするわ」

「えー? 良い事って?」

「わからない。良い予感よ」


 ジェマおばさん、何にもないのに目がキラキラしている。そうだ、この人は根っからの前向きで明るい人なのだろう。そんなジェマおばさんと一緒にいたら、まあ、ルイスとの件はどうでもよくなった。


 そう、どうでもよいと思っていたのに!


 翌日、なんと本人が来店してきた。一見、いつも通りだったが、ジェマおばさんが冷やかすと、ルイスの顔は真っ赤。耳までピンク色っぽくなってる。


「いや、今日はその件で来たわけじゃなく」


 珍しくしどろもどろになっているルイス。わたしだって目を合わせられない。本当にどうしたら。告白なんてもう全然慣れないものだ。


「ところで、ルイスはどんな用で来たの?」


 もう無理やり話題を変えるしかない。わたしは咳払いをすると、いつも通りを装った。


「そうだ。ジェマおばさんも聞いてくれ。最近、この町の森で白骨遺体が見つかったんだ」


 白骨遺体のキーワードの強さ。わたしたちの妙な空気は吹き飛ぶが、ジェマおばさんはどういうことかと騒ぐ。確かに物騒なニュースだ。


「まあ、被害者も犯人もわかってる。二十年前、この周辺の町を荒らしていた窃盗団だな。内輪揉めし、リーダーの男が殺された。お宝のわけ分で揉めたらしい。犯人はリーダーの妻だった女だが、行方不明のまま」

「えー、もうすぐ時効とかでは。目騎士団は一体何してたのよ」


 ジェマおばさんはブーブー文句を言う。ルイスは困っていたが、犯人の女は王都に逃げている情報が他数寄せられているらしい。王都の騎士団に任せれば良いだろうと言うが。


「当時の窃盗団のお宝もこの町のどっかに埋められているらしい。まあ、噂だな。ジェマおばさんも俺の噂ばっかりやっていないで、お宝でも探して欲しいぞ」


 ルイスは白骨遺体が見つかったのも、お宝を探している町民が偶然掘り起こしたものだという。


 思わずジェマおばさんとわたし、顔を見合わせた。ジェマおばさんは露骨に口元がニヤニヤとしてる。


「お宝? それは探すしかない!」


 ジェマおばさんの大きな声が響く。かくして町内では本格的にお宝探しが始まってしまった。今までは一部の噂話だけだったらしいが、ジェマおばさんが噂をいい広め、町内会長もやる気になり、全体に火がついてしまった模様。


 おかげでわたしとルイスの噂は鎮火したがジェマおばさんはカフェの仕事そっちのけ。今すぐにでもお宝を探しに行きたいという。


「ちょっと、ジェマおばさん。カフェの仕事はいいのー?」

「いいのよ。どうせシフォンケーキの売り上げ落ちてるし」

「笑い事じゃなくない?」


 とはいえ、今の時間はお客さんも少ない。ドアに準備中とのプレートをつけ、町の森に行ってみることにした。


「本当にこのあたりにお宝なんてあるのー?」


 わたしは半信半疑。


「あるわ。ザクザクとお宝をゲットしたいわ」

「そんな簡単にある?」


 森に入っても白骨遺体が見つかった場所はテープが貼られて入れない。それに似たようなことを考えている町の人も多い。あちこち掘り起こされ、森の中も歩きにくい。


「森にはないんじゃないの? だって遺体とお宝を一緒に埋める犯人なんていると思う?」

「そうね。アリアの言う通りかも!」

「もー、ジェマおばさんったら」

「だったらどこにお宝があると思う?」

「そうねぇ」


 考えてもわからない。窃盗団が考えそうなことなど、検討もつかない。


 そんなこんなで連日、ジェマおばさんに連れ回され、疲れて寝てしまった。


「ねむー。それにしてもジェマおばさん、そんなお宝欲しいもんなの?」


 気づいた時には夢の中だ。しかも元いた世界での夢だった。ブラック企業に勤めながら、乙女ゲームしか楽しみがなかった私。


 夢の中のわたし、あの異世界の乙女ゲームを楽しんでいた。ヒロインはアグネス。しかも攻略対象には全く興味はなく、裏キャラクターの騎士・ルイスにハマっていた。


「乙女ゲーム世界のルイス、妙にイケメン……」


 そう思ったのも束の間だった。急に画面が暗転し、なぜかこれ以上ゲームはできない。しかも、頭上にふわふわ何か光ってる?


「え? 天使?」


 初めてみた。羽は白く、キラキラ輝いてる。顔は光ってよく見えない。


「アリサ、目を覚まして。ゲームのヒロインじゃなく、自分の人生を生きてね」

「は?」

「そのためにシナリオは色々変えてあげたからね。幸せは案外近くにあるよ!」


 天使は霧のように消えてしまう。目覚めると、元いた世界の乙女ゲームの記憶もあんまりに残っていない。何かが書き換えられた感じ?


「幸せは案外近くにある……?


 はっとした。ずっと森にお宝を探しに行っていたけれど、カフェは元々更地だったらしいし、もしかしたら……?


「ジェマおばさん、起きて! カフェに行こう! カフェの裏庭にお宝があるかも!」

「えー、アリサ。こんな夜にどうしたの?」


 いてもたってもいられなくなった。夜だというのに、わたしはカフェの裏庭に走り、無心に土を掘り起こしていた。たぶん、このあたり。夢の中の天使が言うのなら……。


「ジェマおばさん、見て! 宝箱が……!」


 気づいたら夜が明けていたが、宝箱は見つかってしまった。中見は金銀だけでなく、宝石も山ほど。


「まあ、アリサ! お宝発見じゃない?」


 ジェマおばさんはただ静かに笑っているだけだ。朝日が眩しい。


 結局、お宝は騎士団に任せた。当時、この町で窃盗団被害にあったメリサのものだと判明した。メリサももう盗まれたものは諦めていたらしいが、どうしても一部のお宝に未練があり、観光客として町にやって来たらしい。


「アリサさん、ジェマおばさんありがとう。ようやく親の形見に指輪が取り戻せたわ」


 メリサはこれ以上、お宝はいらないと言う。全てを町に寄付された。町の公園整備や教会の設立に使われるという。ちなみに窃盗団の殺人犯の女も王都で逮捕されたというニュースも聞いた。


 そんなストーリーのおかげか、天使のシフォンケーキというネーミングが良かったのかはわからない。連日、このシフォンケーキ売り上げが伸び、甘くて綿飴以上にふわふわだって評判だ。


「ルイス!」


 ルイスも天使のスシフォンケーキを食べにカフェにやってきた。パトロール中だったらしい。おでこには汗が浮いてる。


「夢に天使が出て来たって本当か?」

「ええ、本当よ。幸せは案外近くにあるって言ったんだから」

「うーん、いまいち納得はできないが」


 ルイスはそうは言っても天使のシフォンケーキを食べ、目尻が下がってる。それにこの町に新しくできた教会のパンフレットもさりげなく見せてくる。結婚式もあげられる教会らしい。


「今度二人で教会にでも行ってみるかい? 本当に天使に会えるかもしれない」


 これは誘いか。告白か。よくわからないけれど、断る理由もない。わたしは笑顔で頷く。ジェマおばさんもそんなわたしたちを見て微笑んでいた。




 

ご覧いただきありがとうございます。完結です。


今作はずっと書きたかった話です。元々は短編だったのですが、ジェマおばさんをどうしても書きたいと思い長編にしました。作者的にはジェマおばさんは裏ヒロインです。


番外編短編もアップ予定ですので、そちらもよろしくお願いします。

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