第19話 フルーツゼリーと病み上がりの騎士
魔法がある異世界とはいえ、天候は自由に操れない。長雨のより原材料も入手できず、大打撃中のわたしたち。
「ジェマおばさん、窓の外みて。今日は珍しく雨があがって虹も出てるじゃない?」
カフェの客足も鈍く、暇していた時だった。急に晴れて虹まで出てる! 太陽のキラキラした光が眩しいぐらい。
「あら! アリサ! 素晴らしい天気じゃない?」
「だったら、もう原材料の問題も解消するかすら」
「いえ。しばらくは油断ならないわ。そうそう一度あがった原材料の値段は落ちないでしょう」
見た目と違い、ジェマおばさんは案外現実的だったりする。
「でも、この天気は嬉しいわね。そうだ、何かスカッと明るいスイーツでも開発しましょうよ」
ジェマおばさん、さっそくノートを取り出す。アイスやシャーベットのイラストも描いていたが、こう長雨だと冷たいスイーツはあんま売れなかった。
「アイスやシャーベットはまだ何となく違う気がするわ。確かに原材料費の影響は受けないけれど」
「まあ、アリサの王通りね。だったら他に何か案はないの?」
わたしは考え込む。今は小麦粉、コーヒー豆がとにかく不足している。米粉やタピオカ粉も値上がり。プリンは比較的影響は受けていなかったが。
「プリンみたいなスイーツないかな。あ、そうだ。ゼリーは?」
わたしは自分で提案しながら微妙だった。このカフェにもゼリーはある。ただ着色料が多めで、あんまり評判は良くない。赤や緑の色がきついという。特に子持ちも主婦の客からは評判が悪い。しばらくメニューから外していた。子供には見た目の派手さで悪くない評判だったが。
「そうか。ゼリーか。フルーツ多めに入れて、見た目も涼しげなゼリーってどうよ?」
ジェマおばさんは窓の外を眺めながら言う。太陽の光はカフェに差し込み、雰囲気も明るくなってきた。
「そうか。寒天ベースで色んなフルーツいっぱいザクザク入れたら、見た目も悪くないかも?」
「そうよ! ってことでさっそく試作作るわ、アリサ!」
「えー、まだ営業中だよ」
「どうせもう今日はお客さんも来ないでしょ。思い立ったら吉日よ。シンプルでフルーツいっぱいのゼリーを作りましょう!」
ジェマおばさん、さっそく火がついてしまったらしい。こうなったら誰にも止められない。
こうして連日、ゼリーの試作機を作り、新しいメニューを開発した。一つは見た目も涼しげなフルーツたっぷりのゼリー。現在料で着色料は一切使わず、フルーツの見た目の美しさで勝負した一品。中見のさくらんぼ、みかん、キウィ、グレープフルーツの色鮮やかさが目立つ。
もう一つは牛乳のゼリーベースで具材はみかんだけのゼリーも作った。いわゆる牛乳かんだ。異世界にはないものだったので、わたしがジェマおばさんに提案したらあっさりと採用。かくして二つものゼリーの新メニューが完成したってわけ。
「アグネス、どう? ゼリーはやっぱり地味かしら?」
常連客でもあり学園の生徒のアグネスがカフェにやってきた。さっそっくゼリーを注文していたので感想を聞いてみることに。
「いいね!」
アグネスは満面の笑みで頷く。思わずジェマおばさんもわたしもほっと息をついた。
「わたしはチョコミントパフェみたいな派手で珍しいやつも好きだけどさぁ。こういう地味だけど素材だけで勝負するゼリーも悪くないじゃん」
アグネスはゼリーをスプーンですくい、プルプルとした見た目も楽しんでいた。
「それにこういうスイーツって、いつでも食べられるから良くない? 例えば病み上がりの時とかでもするっと食べられるのがいいじゃん」
「アグネスは病むことなんてないでしょー」
「ジェマおばさん、ひど! わたしを何だと思ってるのよ」
アグネスとジェマおばさんの騒がしい会話を聞きながら、ゼリーのポテンシャルは無視できない。その後もわたしとジェマおばさんは、フルーツの組み合わせを変えたり、ゼリー型も工夫したり、いろいろと親メニュー開発も説教的だった。
アグネスはもちろん、子持ち主婦の常連客にも好評だったし。子供の人気はなかったが、それは工夫次第で変えられるかもしれない。
「ジェマおばさん、案外ゼリーの売り上げ伸びてるわよ」
「よし! アリサ、原材料の問題があるし、ここらでゼリーのヒット作もだしておきたいわね」
閉店間際、ジェマおばさんと今後の戦略を立てていると楽しいものだが。
ふと、ルイスの顔が頭に浮か武。
いつもならこの時間はルイスが来る。今は結婚詐欺師の一件で自宅療養中だった。なんとなく、ルイスがいない違和感を覚えてしまう。何なの、これは。まるでルイスの顔が見たいみたい。
その時だった。カフェに誰か来た? まさかルイス?
心臓がドキっと跳ねてしまったが、ルイスじゃなかった。カフェの常連客でもあり、雑貨屋店主のマリーだった。見た目は華奢な美人だが、スイーツ大好きなマリー。今日もてっきり米粉のシフォンケーキでも食べに来たのかと思ったら、どうやら違うらしい。
「最近、ルイスがパトロールに出てないじゃん? だからうちの店に万引き犯は多発しているのよ」
マリーはメレンゲクッキーをぽりぽり食べながら、ため息をついていた。限りなく苦いため息だった。
「万引き犯? そんなのマリーが捕まえらればいいじゃない?」
一方、ジェマおばさんはあくまでも呑気だった。
「それが犯人が魔法使いみたいなのよ。目眩しの魔術を使っているみたいでさー。正直、犯人の顔もわからん。気づいたらウチの商品盗まれてたっていう」
マリーが深刻な理由がわかったが、これはなんとかならない?
「一緒にパトロールする?」
ルイスがいない今は、それが一番いいだろう。マリーもジェマおばさんもこの提案にのり、夕暮れの町のパトロールを開始した。
町は夕陽のオレンジ色に染まっていた。太陽は巨大なみかんゼリーみたく見える。もはや職業病かもしれない。
「ジェマおばさん、マリー。別にいつもの町って感じね。怪しい人はいないわ」
せっかくパトロールに出ても、怪しい人影はいない。拍子抜け。マリーも肩を落としてる。
「あ、でもアリサ、あそこルイスのアパートだわ」
一方、ジェマおばさんはハイテンションだった。ルイスのアパートを見つけると、指を差しケラケラと笑っていた。
アパートは地味だ。二階建てで何の変哲もない。真面目なルイスがいかにも住みそうな場所って感じ。
「あら、こんな地味なアパート住んでるの。ルイスて貧乏?」
ジェマおばさんにつられ、マリーまでテンション高くなり、わたしを指さしてきた。「アリサがルイスのお見舞いに行けばいいじゃない?」と。
信じられない。目が丸くなってしまう。何でわたしはルイスのお見舞い?
「そうよ。ルイスは病んでる時よ。アリサ、何か差し入れしなさいよ!」
ジェマおばさんも悪ノリしてきた。しかもカフェまで走って戻り、サンドイッチとフルーツゼリーまでカゴに入れて持ってくるじゃないの。どっちもあまりものだけど、見舞い?
「アリサ、行きなよー!」
「そうよ、アリサ!」
マリーとジェマおばさんに押され、断れない状況。困った。
「わ、わかったわよ!」
もうやけくそ。二階のルイスの部屋まで向かい、トントンとノックした。
「あぁ、何でアリサが?」
ドアから出てきたルイス。いつもとちがい、パジャマ姿だ。パジャマだと、首元や鎖骨がよく見えるのだが。それに髪もおろしていて、この上なく無防備。困った。今のルイス、何か妙な色気がある。
「ちょ、ちょっとお見舞いに来ただけ!」
「ありがとう。このサンドイッチとゼリー、嬉しいもんだな」
笑顔で言われて、もう限界。いつもと違うルイスを見るとか心臓に悪い。ドキドキ波打つ。わたしは逃げるようにルイスのアパートを後したが。
「あれ?」
ジェマおばさんもマリーもいない。確かアパートの玄関あたりで待ってると言っていたのに?
「あ、ジェマおばさん! マリー!」
二人はすぐに見つかった。二人とも道で誰かを追いかけ走ってる?
すぐにわたしの二人に合流。
「あいつが万引き犯! さっきジェイクの店で犯行しているの見ちゃった!」
ジェマおばさんは興奮気味だ。
「捕まえらるわよ! アリサも前に走っているヤツを追って!」
マリーはもはや叫んでいた。確かに前方には黒っぽい服の男が走ってる!
わたしたち三人は全力疾走し、男の背中を追う。途中で町内会長やレオナルドも合流したが、なかなか追いつけない。相手は魔法使いだ。箒にのって逃げられたら、もう捕まえられない!
そんな焦りの中、わたしたちを追い抜いた人物がいた。颯爽と駆けていくと、あっという間に魔法使いを捕まえていた。
ルイスだった。病み上がりで辛そうなのに、魔法使いを捕まえる目は鋭い。鷹のような目だ。
「ルイス!」
わたしはルイスを呼んだが、もうすでに騎士団も面々も来ていたので、届かず。とはいえ、こうしてマリーを悩ませていた万引き犯は捕まり、ルイスの株は急上昇中らしい。
元々、結婚詐欺師の一件でも株は上がっていたが、病み上がりの時でも手柄をあげた。今までは地味な騎士とされていたのに、女性ファンもポツポツ生まれているらしい。
「なんか、複雑」
いつものようにカフェの営業日。厨房で完成したゼリーを切り分けながら、ルイスの株が上がっているのを素直に喜べない。それにこんなわたしを見てジェマおばさんもニヤニヤ揶揄うのも謎だ。
「アリサ、ジェマおばさん。フルーツゼリーをひとつ」
そんな中、すっかり元気になったルイスが来店。フルーツゼリーを注文し、実に美味しそうに食べていた。町で株が上昇していることなんて、全く興味が無さそう。わたしもモヤモヤしているのが急に馬鹿馬鹿しくなってきた。
「ルイス、元気になってよかったわ」
笑顔で声をかけていた。




