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異世界カフェの裏メニュー  作者: 地野千塩


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18/30

第18話 白い鯛焼きと騎士の災難

 相変わらず異世界の雨は降り続き、原材料の問題も継続中。


「あら、レオナルド! このライ麦と雑穀のパンはすごい美味しい。珍しいわ!」


 ジェマおばさんのはしゃぎ声が響く。カフェと同様、パン工房のレオナルドも大打撃を受けていたが、新しいパンができたとカフェに来店してくれた。


 それはライ麦と雑穀でできたパンだ。見た目は真っ黒で、固そう。ふわふわで甘いパンと正反対だ。味もきっとまずいのだろと思ったら、全然違う。噛めば噛むほど雑穀の甘みが増す。最高じゃないか。それにチーズやブルーベリーのジャムとの相性も抜群。ジェマおばさんも絶賛していた。


「これだったら健康に意識高い女性にも受けるだろうし、レオナルドグッジョブ!」

「アリサの言う通りよ! レオナルド、素晴らしい発明じゃないの」


 女二人によってたかって褒められたレオナルド。顔を真っ赤にして俯いていた。よっぽど恥ずかしいのだろうが、カフェでもこのパンをおろして貰うことにした。もちろん、今までのふわふわで甘いパンの人気に追いつくとは思えないが、宣伝や試食をしたら、十分戦力になりそうだ。


「ありがとう、二人とも。これでひとまず安心だな」


 レオナルドはほっと息を吐き、安心していたのか、近所の噂話も教えてくれた。


「最近、このあたりで結婚詐欺師がいるらしいんだよ」

「うそ?」


 この話題に食いついたのはジェマおばさん。さすが噂大好き人間だ。


「でも魔法も使える厄介な犯人みたいで、姿を消したりして、騎士団も手を焼いているらしい。ルイスも連日出勤で休みないってさ。大変だな、あの騎士さん」

「まあ、ルイスはそういう男よ」

「俺にはわからんな」


 ジェマおばさんとレオナルドの会話を聞きながら、そういえば最近、ルイスに会っていないことに気づいた。今までだったらパトロール中でもよくカフェに寄ってくれていたのに。


 どうも違和感があった。胸にちくっと針を刺されているような感じ。


 カフェが閉店し、家に帰って寝る前になってもその違和感が消えない。


「なんで?」


 まさかルイスに会えない状況に、違和感を持っているとか?


「そんなまさかー」


 しかし会えないとか失っている状況に立つと、急にそれが欲しくなることはあるなと思い出す。頭の中は、なぜか日本食がぐるぐる回っていた。ごはん、味噌汁、寿司、天ぷら、焼き鳥、餡子……。


「そう、餡子が食べたい」


 和菓子が急に恋しくなってきた。おはぎや草団子はもとろん、餡バタートーストや鯛焼きまで頭の中をぐるぐる。


「うぅ、鯛焼きが食べたい……」


 あの鯛の形をしたスイーツは異世界では決して手に入らないものだ。餡子もなければ型もない。その上、皮の材料の小麦粉も原材料の問題で入手できない。絶対食べられないと思うと余計に食べたから不思議だ。


 その思いは翌朝になっても引きずり、カフェの開店準備中でも頭をぐるぐる。


 そんな時だった。久々にルイスが来店した。パトロールの途中でちょっと寄っただけらしいが、目に見えて顔が疲れていた。目の下の血行は悪そうだし、頬も少しこけていた。久々に会えたことよりも心配になってしまう。


「どうしたのよ、ルイス」


 ジェマおばさんも心配そう。


「このあたりの出没している結婚詐欺師に手を焼いていてな。ターゲットは金持ちらしいが、二人とも気をつけてくれよ。じゃ!」


 ルイスはそれだけ言うと、さっさと出て行ってしまった。なんなの……。わたしはまた違和感を持ってしまう。


「アリサ、何そんな微妙な顔しているのよ? そんなにルイスと会話したかった?」


 ジェマおばさん、からかいの目で見てきた。なんか誤解してる?


「違うわよ。実は元いた世界のスイーツが妙に恋しくなってしまってね」


 わたしは慌てて否定した。正直、今は鯛焼き欲については落ち着いてきたのに。


「何そのスイーツは?」

「鯛焼きっていうのよ。鯛の形をしたスイーツ」

「な、何それ!?」


 ジェマおばさん、レオナルドの噂以上に食いついてきた。わたしはちょっと引きながらも鯛焼きについて説明する。


「その鯛焼き、わたしも食べたいわ!」

「ジェマおばさん、それは無理よ。この世界には原材料が一つもないもの。その上、型もない」

「ちょっと待ってよ。そんな美味しそうなスイーツ、絶対食べたいわ!」

「えー?」


 ジェマおばさん、何かに火がついたらしい。絶対食べたいと譲らない。原材料はタピオカ粉やカスタードクリームで代用すればいいとも言ってきた。


「あ、そうか。タピオカ粉で作る白い鯛焼きっていうのもあったっけ」


 それにジェマおばさんが言う通り、中身は餡子じゃなくてもカスタードやチョコ、ホイップクリームでも問題ない。さすがに業務用の鉄板の入手は難しいだろうが、ホットサンドメーカーのような小型のものだったら、全く実現不可能でもない?


「ジェマおばさん、鯛焼きつくれるかも!?」

「本当!?」


 ということで、カフェの開店まで時間があるし、二人で金物屋へ行ってみた。町内にある金物屋で、ご主人はジェイクという。人嫌いであんまり町内の集まりにも来ない老人だったが。


「ジェイク、こういう型って作れないかしら?」


 わたしはメモ帳に描いた鯛焼きのイラストを見せながらジェイクに相談。


「小さいのでいいのよ」


 ジェマおばさんはもはや懇願していた。最初は渋っていたジェイクだったが、北の方の職人に聞けば何かわかるらしい。


「まあ、あんまり期待しないでくれよ」


 なんてジェイクは言ってたが、ジェマおばさんは飛び上がるほど大喜び。わたしもこの世界で鯛焼きが食べられるなら嬉しい。まあ、あんまり期待しないで気長に待とう。たぶん、そっちの方が実現した時に嬉しいから。


 こうして鯛焼きという新しい目標ができたわたしたち。原料の問題を抱えながらも、メレンゲクッキーを焼き、米粉のシフォンケーキを売り込み、プリンも常連客にデリバリーしていた。時にはライラ様のお屋敷でケータリング業もこなし、昭和ど根性女らしくバリバリと働いていた。


「あ、ルイス。どうしたの?」


 そんな時、ルイスが久々に来店。実はルイスのことはすっかり忘れていたが、彼の今の顔は疲労困憊という感じだった。前に会った時以上に放置はこけ、目の下は黒く、髪の艶も減っていた。イケメン度もダウン。


「実はこの町内会あたりにも結婚詐欺師が彷徨いている目撃情報がある。相手は魔法使いでもある。本当に気をつけてくれ」


 声も弱々しいが、そう言い終えるとまだまだ仕事があると帰っていってしまった。


「ルイス、どうしたんだろ。本当におつかれって感じだけど」

「ふふふ、そんなに手を焼かせる結婚詐欺師て何? うちらで捕まえてみるのも良くない?」

「えー?ジェマおばさん一体何を言ってるの!?」

「そんな犯人を捕まえたら、神様がご褒美に鯛焼きの型を下さるような気がする!」


 ジェマおばさん、また何か火がついていた。もうこうなったらわたしでも止められない。それに今日は珍しく雨が降っていない。カフェは準備中のプレーをドアに掲げ、二人で町内パトロールへ。


「でもいつもの町内よ。そんな結婚詐欺師なんているかしら?」


 ルイスは町内にも出没したと言っていたが、そんな怪しい存在は陰も形もない。


「結婚詐欺師は金持ちを狙っていたと聞いたわ。金持ちといったらライラ様よ。ライラ様をターゲットにしてもおかしくない?」

「ジェマおばさん、ちょっと待って。ライラ様は未亡人だし、金持ちだけど、年齢は五十過ぎよ。そんな結婚詐欺師のターゲットだなんて」

「先入観は外すのよ、アリサ」


 ジェマおばさん、なんか決め台詞っぽく言ってる。


「わたしが犯人だったらライラ様を狙う」

「騎士団はとっくに調べているんじゃない?」

「いいから、とにかくライラ様のお屋敷に行くわ! 目指すのは鯛焼き!」

「目指すところそこ!?」


 そんな会話をしていたら、あっという間にライラ様のお屋敷に到着。門の前でメイドのスノウを待った。メレンゲクッキーの一件でスノウとも仲良くなっていた。


「スノウ、こんにちは。ライラ様にお会いできる?」


 そう言い終えた後、どうも違和感を持った。スノウの目がいつもと違う。いつもは紺色の瞳だったのに、今は赤い?


「違う、あなた、スノウじゃないわね!」


 そう叫んだが、後の祭りだ。魔法を使われ、わたしとジェマおばさん、どこかの小屋に隔離されてしまった。そこには縄で縛られたスノウ。他にも同様の姿の使用人がいた。


 わたしもジェマおばさんも縄で縛られ、全く身動きできない。袋のネズミってこういうこと!?


「魔法でわたしに化けてライラ様を騙そうとしている結婚詐欺師よ」


 まあ、会話は出来なことはない。スノウが事情を説明してくれた。他の使用人たちもライラ様を心配し泣いてるじゃない。


「どうしよう……」


 昭和ど根性女のわたしも魔法使い相手にはお手上げだ。


「わたしの鯛焼き! どうしてくれるの!?」


 一方、ジェマおばさんはこんな時も鯛焼き。さすがにため息が溢れるが、急に息苦しくなってきた。他のみんなも咳き込んでる。それに焦げ臭い。まさか部屋に火をつけられた!?


 絶対絶命。このままだと確実に天国行きだと目を固く瞑った時だった。


 急に視界が開け、縄も解かれた。魔法がなぜかとけたみたいだ。急いでみんなとともに部屋から出ると、騎士団たちが犯人を捕まえていた!


「アリサたち、こっちまでくるな!」


 しかもルイスは例の結婚詐欺師に殴られながらも、必死に戦っていた。応援の騎士団の人たちも到着し、すぐに結婚詐欺師は捕まっていたが、ルイスは血だらけでぼろぼろだった。


 こうして騎士団の尽力により事件は解決した。ルイスはこの件で怪我をおい、しばらく休むことになったが、奇跡的に鯛焼きの型が完成し、さっそく作っているところ。


 鯛焼き型といっても小さめなホットサンドメーカーという感じで、鯛の身体や顔は簡易的で、元いた世界のものとは微妙に違うが、それはそれでゆるくて可愛い。タピオカ粉で焼いたら、未知の白い魚みたいになったが、けっこう可愛いじゃない。ゆるキャラみたい。


「これが鯛焼きね! 本当、食べられて嬉しいわ!」


 ジェマおばさんは感動して涙を流すほどだ。ルイスは療養でしばらくお休みだけれども、この鯛焼きをお見舞いで持っていくか。災難の対価としては安すぎるが、これを食べて休んで欲しいと思う。

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