村での日々_04
「ゼルクにーちゃんおはよー!」
「おー、シジー。元気だな。広間のほう先にやってくれていいぞ。雪合戦するなら石は入れるなよ」
「ゼルク、朝早くからお疲れ様。アリガさんは大丈夫? 広間の除雪が終わったら火を炊くから、火種が欲しかったら言ってちょうだいね」
「おはよー! ゼルクにーちゃん!」
「おはようございます、リーナさん。それ、母さん知らないです。伝えてくれると助かります。火を炊くって言ってましたので。ネガト、おはよう」
「あらあら、それは大変。伝えておくわ。……火を炊いたらネガト、一緒に一度家に戻りましょうね」
「おう、ゼルク、雪かきか? 後で小遣いやるよ」
「ありがとうございます! 頑張ります!」
すれ違う人たちに挨拶をしながら、道中の除雪を続ける。村には総勢でも三十人程度しか住んでいない為、全員の顔と名前を知っている。こんな寒村においては全員で助け合わねばそもそも生きていけない。
広場に辿り着くころには陽は大分高くなっていた。余りに寒い時期だが、全身凍傷になるのではないかと思うほど汗にまみれている。その甲斐あってか、住宅街の道の雪は人が歩いて問題ない程度には除雪されていた。
「あ、ゼルク、おはよう? 遅いね」
「ここまで全部除雪してきたからなぁ、おはようアエリア」
冬季の寒空の下、外套で乱暴に汗をぬぐいながら、木のスコップを地面に突き刺した。雪かきは重労働だった。どこかで高い犬の声が響く。フワユラ羊が柵周りに近づいたらしい。
広場の除雪は進んでいた。特に井戸周りはしっかりと除雪されており、地面に氷も張っていない。幼い子供たちも燥ぎ回り、広場には不格好な雪だるまが幾つか作られていた。当然、危険なことは行わないように大人もいる。
明日の祭りに向けてすでに低い舞台と、その奥に祭壇が造られている。その上に積もっていたであろう雪は丁寧に除かれ、祭具も飾られていた。
祭具は魔皇を打ち倒した勇者たちの神具の模造品が基本となる。魔皇と相対した8人の武具が一般的であった。
この村であってもそれは同じであり、祭壇には剣を中心に弓、槌、鎧、盃、琴、鏡、冠が飾られていた。どれも小さな模造品だが、剣だけは短剣を打ち直して作られており、本当に切れる為、鍵がついた鞘に納められている。また、琴は実際に音が慣らすことができ、涼やかな音を響かせた。
両隣には冬の花を飾るための花瓶が置かれている。花を飾るのは明日の朝だ。この村では天に向かって咲く白水仙を捧げることとなっている。然程珍しい花でもないが、天に向かって咲き誇るこの花は催事に用いられることが多い。
「うわ、本当だ。こっち来るとき少しやったけど、結構綺麗にやったねぇ」
アエリアは快活に笑った。
十人が十人美少女だという印象ではなかった。だが笑顔は溌剌としており、健康で元気な印象を受ける。肌は焼けており、ところどころ小さなシミがあるが、それも決して魅力を損なうものではない。むしろ外で働く者にとっては当然の勲章とも言えた。
後ろで一纏めにされた黒の髪の毛も伸び放題であり、ろくに手入れは為されておらず痛んでいる。時折乱暴に切ることもあるが、大体は長さを計って切り取り、編み物に使っていた。田舎では髪の毛一つとっても重要な資源に他ならない。
年齢はゼルクよりも一つ年上の十五歳。姉ぶることもあったが、少なくとも論理的に話はできる。ゼルクとは共に成長しており、互いに男女として意識は全くしていなかった。村の大人たちが頭を悩ませているものの、時間が解決することを祈るしかない。
彼女に姓は無いが、田舎の村においてはそれほど珍しい話ではない(同名の人間がも珍しくないが、住んでいる場所や身体的特徴で区別されるのが主である)。
「ロッテおじさんもやってくれてたでしょう?」
「途中で会った。もう休んでる」
「あーそっか。ん、ゼルクは動けるの?」
「まだまだ動けるさ。腹は減ってるけどな」
「それいつもでしょ」
アエリアはころころと笑う。それもそうか、とゼルクも笑った。
周りでは子供たちが燥ぎ回り、雪かきをしながら共に雪だるまを作ったり、雪玉を投げて遊んだりしている。井戸の周りには現在簡素な柵が建てられており、子供たちも近寄らないように注意していた。その簡素な柵にも飾り付けが施されている。
歓談しながら雪かきを続けていると、やがて静かな足音と共に影が二つ現れた。
「あ、ゼルクとアエリア。おはよう。今日も仲いいね」
「おはよう。牧場のほうは粗方終わったぞ」
「ミール、マイト、おはよ!」
「おぉ、おはよう二人とも。お、アルマンも、おはよう」
やってきた二人と挨拶を交わし、隣にいた犬にも声をかける。アルマンと呼ばれた犬は一つ高く吠え、そっとその場を離れて行った。持ち場に戻るらしかった。
ミールと呼ばれた人物は物静かな印象を受ける女性だった。湛えられた微笑みもその印象を助長する。身長はゼルクやアエリアよりも頭一つ低い。
肌も殆ど焼けておらず、短い髪の毛の色も雪かと見紛うほどの白色。明らかに体は弱そうだった。病的というほどでもないが白い肌には、赤い唇が映えている。
マイトはミールよりも頭二つ分は大きい。ゼルクやアエリアよりも大きかった。無愛想な表情をしているものの、愛想が無いわけではない。少なくともこの村に住まう誰も、彼のことを誤解はしなかった。
しっかりと焼けた肌に、ミールと同じ白い髪の毛。体は鍛えられているが、妙な細さがある。単純に食事量が足りていない。髪の毛は酷く短くされていた。動き回る以上は邪魔だと切り捨てている。
ミールとマイトは姉弟であった。年齢はミールが十六歳、マイトが十五歳。マイトのほうが若いのだが、身長や体格差から全くそうは見られない。十代の少年少女はこの村には彼らしかおらず、彼らより若い子供たちも片手で数えられる程度の人数しかいなかった。
「んぁ? 二人で牧場にいたのか?」
「姉さんは動物に好かれるからな。できることはやってもらわないと」
ゼルクの問いかけに、マイトは低い声で応じた。
見た目通りにミールは体がそれほど強くなく、マイトは大抵の無茶が利く体をしている。ミールが動物に好かれるのもまさにその通りで、二頭いる牧羊犬の内、一頭は人目が多い場所以外で彼女の傍に侍っていることが多い。
最も、だからといってミールに無茶ができないという訳ではない。必要とあれば一晩程度、眠らずに活動もできる。嵐の夜や大雨の日などは、炊き出しなどで活躍していた。
「ミール、今日は大丈夫?」
「勿論、大丈夫。マイトも頑張ってくれたし。それに、いつも通り牧草を皆に配ったくらいだよ」
「それも重労働だよぉ」
「午後からはお役御免だから」
あ、そうか。アエリアが手を叩く。共に育った身として当然の知識として、アエリアはミールに求められている役割を知っている。
歓談が弾むが、とりあえずは作業が重要だ。ゼルクとマイトは舞台周りの除雪と共に、かがり火の燭台や舞台周りの点検も同時に進めていく。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




