↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
65/75

開戦_03

「リェンのやつ、本当無茶を言うよな。回路の形成だなんて……こうして適当に振るうほうがどれだけ楽なことやら」

「それに応じられてこそ勇者の称号ですね、ジオ様」

 ジオがぼやくと、フラメアが穏やかに笑って応じた。独り言のつもりだったのか、気恥しそうに口元を抑えてしまう。

 今しがた切り捨てた数名のエルフの遺体を見て、少しだけ目を細める。やがて炎に巻かれて灰になる亜人の死体に感慨はわかない。

 燃え盛る森の奥に視線をやる。殺意や憎悪の瞳が突き刺さってくるのが解る。逡巡の一つも見せずに剣の柄を握り直し、再び剣を振るった。更に炎が上がる。火の点いた大樹を切り倒せば更に延焼は広がっていく。

「ジオ。本隊で第三部隊の指揮につけ。リェンをつけてある。部隊の運用は任せるが、報告は逐一上げろ」

 ソイルがジオへと声をかける。ジオは即座に剣をしまいこみ、胸元に手を当てて敬礼を行い、応じる。

 既に混乱は頂点だ。火は未だに燃え盛り続け得ている。矢も散発的に放たれるばかりで最早脅威ではなかった。森の中の長耳の亜人は脅威であるが、そうであるのならば森で無くしてしまえばいいというのはジオのアイディアであった。

「はい。剣は如何いたしましょうか」

「お前が持て。私が持つより良い使い方を思いつくからな、お前たちは。……全く、空間をつなげられるからと言って回路の形成などと、私には想像もできなかったぞ」

「想像力でいうのなら俺もリェンに勝てませんよ。使えないからこういう使い方ができれば面白いのではないか、と無茶を言われます。砲で司令部を叩くっていう発想にはちょっとばかり恐怖を覚えました」

「……もしや、そこからか。砲を砲で叩く発想」

「ああ、はい。司令がいなくなっても軍は動きますから。直接的に戦闘能力を奪った方がいい」

 ソイルは少しだけ天を仰いだ。

 彼がこれほど素直に感情の波を示すのは家族か、余程親しいものが相手の時だけだった。それがどれだけの贅沢かはジオはまだ知らない。

「うむ、末恐ろしいな」

 ソイルはジオの顔を見ながら顎髭に触れ、一瞬だけ少年のような笑顔を浮かべた。

 自らの子供でありながら中々末恐ろしい。このまま経験を積み、やがて年を取ったときが楽しみだった。自分が無力な老人となるころに、この才気溢れる我が子は果たして何を得ているだろうか。

「では、指揮官、部隊へ参ります。魔皇の腕以外の攻撃目標は御座いますか」

 特になし、とソイルが応じると、ジオは与えられた部隊へと歩き出す。部隊長が走るわけにはいかなかった。

「フラメア殿も遊撃として動くように。部隊に関してはボルト殿と話し合ってくれ。ソムニア部隊はそちらの方が勝手が解っている。何か質問はあるか」

「承知しました。はい。一つ意見が」

「意義ある意見か」

「はい、いいえ、予見される問題についてであります。竜がいる可能性を考え、ボルトか自分を傍置いて行動を願います」

「それについては、任せる」

 ソイルは静かに応じて自らは構築された陣地へと戻っていった。天幕などはないが四方を簡易的な柵で覆い、中央には机が置かれており、白紙の図面が敷かれている。柵の防護にはソムニア部隊が2名、ついていた。陣地の空気には、焦げた木の匂いと、焼けた脂の甘い臭いが混ざっていた。

 既に数多の情報が飛び込んできている。小規模の戦闘ではあるが、こうなってしまっては指揮官は兵士と共に前線で戦うなどという贅沢は許されない。

 魔皇の腕を探さねばならないが、情報は全くないに等しい。辺りの図面さえないのだ。参謀と幕僚は既に陣地で頭を悩ませている。指揮官が戻ると彼らは即座に敬礼を行う。彼らの苦い表情を見て、ソイルはにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。

「火の海にはなると伝えておいたはずだが」

 ソイルの言葉に、参謀と幕僚はそれぞれ苦い表情を浮かべる。顔は煤で汚れていたが、誰一人としてそれを拭おうとはしなかった。いまは、紙の上の一本の線のほうが命より重い。

「ここまで急速に、とは聞いておりませんでしたな。こちらに火がこないのは、ええ、流石というべきですが……」

「そう怒るな、参謀。魔皇の遺骸を保持した者は逃げたと思うか?」

「可能性は高いでしょう。現実的に考えるのならば、逃げない選択がありません。ただ、もしもこちらが来るの察知できていなければ周辺にいる可能性もあるでしょう」

「逃げたことを前提として作戦を進める。避難所を探して亜人を確保。数名は拷問にかけるつもりで――ん?」

「悲鳴が静かになりましたな」

「反撃が来るか?」

「第三部隊、ジオ様より伝令!」

 ソイルが顎髭に手をやり思案していると、陣地外に兵士が2人、やって来た。

 ソムニアに誰何され陣地内に通され、敬礼を一つ行う。2人とも武装は同じだった。軽装の鎧と剣と石弩、当然矢筒もある。

 ここにいるのは精鋭兵だ。当然の教養として弓術も修めている。だがエルフと同じ距離で戦う愚を考えることはしなかった。石弩は簡易的な弓ではあるが、殺傷能力を保てる距離は弓のそれよりも短い。あくまで補助武装だった。

「亜人部隊が隊列を整え始めております。どうやら有力者が少し残っていた模様。ジオ様より『必要ならば薙ぎ払います』とご提案があります」

「ああ、構わん。ただし有力者を含め5名程度は生き残らせること。必要な物資はあるか」

「矢を少し使いました。多少頂ければありがたくあります」

「よろしい。矢は、幕僚、一筆書いてやれ」

 幕僚は頷き、即座に手に持った帳面に何事かを描きつけ破り取り、丁重に兵士に渡す。兵士たちはそれを受け取り、即座に陣地を出た。

 続けて第一部隊より伝令が入ってくる。伝令たちは入れ替わりやってきた。俄かに陣地は忙しくなった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

これは彼らにとっても大事な戦なのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。