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竜との対話_04

 槍。ああ、槍は確かに突き刺した相手を固定できるな。だがあれは飽く迄刺した場所に固定する神器だ。生物の動きを止めるものではない。少し違って伝わっているのか。ほぉ。

 俺は左腕を刺されてな。自分で切った。槍の勇者が驚愕しててその瞬間食い殺したな。その後、俺は弓の一撃と剣の一撃で翼を斬られて腹を抉られ、逃げて海を漂った。死を覚悟したよ。ああ、つくづくなんで生きてんだ俺……?

 うむ、剣と弓は派手な武器だな。伝承にも残しやすかろう。弓は引けば正に竜の咆哮にも似た一撃を放つ。俺もな、左の肺から内臓までごっそりと抉られたよ。残った左腕も大半が吹っ飛んだ。ただ矢を番え、それを引いて放つ。それだけの動作が弓の勇者には必殺だ。

 剣は正に伝承の通り、主要武器だな。振るうだけであらゆるものを裂く無情の武器。あらゆるものには恐らく、物質的なものは含まれない。何せ俺の翼は、剣の勇者と遥かに距離があったのに一振りで切り取られたからな。百度満月を見上げようと、全く痛みが治まる気配が無い。まだ痛む。血が流れないのが幸いだが。目に見える総て、それが剣の『切除できる』範囲だろう。

 俺が知る神器は後は鏡、盃、琴、鎧、槌、鏡だな。女神の神器は確か十二本。剣、槍、斧、杖、弓、槌、鎧、琴、書、盃、鏡、冠。

 斧、杖、書、冠……三分の一は知らんことになるな。まあ知っているものを教えてやる。神器についての知識はあって損はないだろう。

 この前言った通り魔皇が危険視していたのは斧、琴、盃だ。まずはここからだが、斧は知らんな。アイツ勝手に戦いに行って勝手に破棄したからな。ただその後周辺大地が燃え盛りながら凍り付いていたり、世の理だなんだは何もかも無視されていたな。それは大抵の神器がそうだが。

 盃は厄介極まりない神器だぞ。後方支援としては最悪の部類だ。

 産まれ付き持つ病以外はあらゆる病を治し、どんな深い傷も、それこそ即死の傷でさえすぐなら癒す水を造れる。何せこっちがどれだけ必死に傷をつけてもなぁ、当たり前のように戦線に復帰してくるんだぞ……。腕一本切り落としてもすぐならくっつけられるみたいでな。どれだけ必死に戦おうと人間の軍の士気は落ちず、数も減らない。最も、傷の激痛は当然受ける。発狂しても治るというのなら、それが幸福かどうかは解らんな。

 琴の勇者は最悪だ。伝わってないか? 音を聞かせたあらゆる相手を操る魔性の琴。

 耐えようと思えば抵抗もできるんだが、最悪なのは小動物や虫も操れるって点だ……疫病を自在に広げることもできる。音が届く範囲であらゆる種を操り、同士討ちから何からもうなんでもあり、問答無用だ。魔皇が最後に放棄した神器でもある。徹底的に狙っていたんだが、他の勇者たちも重要性を分かっていたみたいでな。きちんと守りを固めていた。

 何が厄介って琴の音が聞こえたら俺たちはもう警戒するほかなかった。昼夜問わずただ琴の音が聞こえるだけでだ。擦り減らされたよ、随分とな。心理戦では常に先手を打たれていた。ま、そればかりじゃなかったが……全部説明すると長くなるから想像してくれ。『小動物から虫から自在に操れる』そして『音が聞こえたらもう終わり』。この厄介さを想像できる限りな。

 魔王が重要視していたのが剣と鏡だ。剣はまあ象徴でもあり最強の武器だからな。

 鏡は別段なんでもなさそうな道具に見えたが、勇者たちの手には常に小さな鏡があった。何ができるのかと思っていたが、鏡同士でお互いの声を届けることができるようでな。利点が解らんか? うーむ、確かにあれは相手にしないと厄介さが解らんかもしれん。とにかく互いにすぐに情報を共有できるんだ。ああ、軍勢を率いるにあたってこれほど便利な道具があるかと思ったもんだ……。

 後は鎧と槌か。危険視もしていなかったし、然程重要視もしていなかったが、どちらも神器だ。戦うにあたって本気で厄介だったぞ。

 鎧は伝わっているな? あらゆる攻撃から身を守る鎧。最終的に勇者はその鎧を脱いでいる時に首を落とされた。

 全身甲冑のフルアーマーというよりも、煌びやかなドレスのようなものだったな。鎧と呼べるものは正面の甲冑くらいなものだ。後は腕に籠手、脛当て、兜――それだけだ。だが不思議なことに全部を装備していると肌に傷一つつかなくなる。鎧を着ているとこっちの爪まで折られたからな。俺が衝突して砕けなかったものなんぞ北方のグライア火山くらいなものだったんだが。そういう神器なんだろうな。兜を脱いでいても普通に鎧がある部分は機能しているし。だが兜を脱がされたところを蹴り飛ばされて死亡した。渾身の一撃で平行にすっ飛んで行ったのは見えたよ。

 ん、全身甲冑として伝わってるのか? ほぉ。……そっちのほうが絵面はいいな、おう。実際の神器、今は共和国にあるらしいが、果たして機能してるのかね。勇者の血筋でなけりゃ使えないんだろう、あれ。女神がどうにかしてんのか……?

 最後は槌だな。正直、地味な神器だ。

 振れば大地を震撼させるほど衝撃を発生し、地形さえ変える。相手を殴ればまず間違いなく全身の骨という骨を砕く武具だが――最も活躍したのは、実のところ後方支援だった。

 あれで鍛えた武具はな、生半可なものでは砕けなくなった。ああ! 無論俺は違うぞ!? 俺の爪の一振りで砕けなかったものなど神器くらいなものだ!

 だが人間たちの武具はどれも頑強で、しかもそれが日を追うごとに量産されていく。頑丈な鎧、槍、矢じり。奪っても他の神器所有者たちが確実に現れる。あれはなんだろうな、冠とか書とかの力なのかな。ともかくとして、俺達はぶつかりあった場合勝てなくなった。敵の方がよほどいい武装が多いから、当然だな。

 まあ最後は石だなんだ投げまくってぶち殺したが。神器程厄介ではない。普通に顔面に攻撃は通るし、衝撃も殺せない。武器が足りなければそこいらに幾らでも石なんていい武器があった訳だしな。

 おい、いいか、ゼルク。戦争で重要なのは遠距離だ。近距離での合戦など最後の最後でしかない。遠距離で互いの兵力を削りあうところから始まる。その点から俺たちは既に負けていた。

 ……結果、俺は最後まで魔皇と共に戦うことはできなかった。

 伝承にも残る黒竜――刻裂竜の戦いだったか? あれを機に俺はここで恥知らずにも生き延びている。魔皇と共に戦ったが多勢に無勢。それでも槍の勇者を食い殺したのは中々の勲章だと思っている。槍も破棄できたわけだしな。

 それから伝聞に聞いたよ、黒霧の軍。琴の勇者に対抗する為の策だろうな、あれは。

 具体的には解らんが、魔皇は音を殺す霧というものを思案していたのを聞いている。それをうまく使ったんだろう。

 ここまでが俺の知る神器と、魔皇の戦いだ。

 さ、今日のところはこれまでだ。ふむ――少し騒がしいな。里の方に行商も戻ったか? ああ、いやいや、どうなるか楽しみにさせてもらうよ。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

長く生きた方は賢者に見えますが何もかもを知っているわけではありません。

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