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竜との対話_02

 まずはどこから行くか。帝国を中心とした三国。すなわち帝国、公国、共和国。

 偉大なる帝国、白亜の帝都――人間を中心とした、絶対の女神の都市。ふん。気に食わん。いやこれは俺個人の感想だ。

 恐らく三国全てが人間には優しい都市だ。人間にはな。

 だが、亜人には全く優しくない。

 ゼルク。女神が支配するこの三都市は人間至上主義なのだ。そこでは亜人と呼ばれる者たちは……エルフも含めて、全てが奴隷のような扱いだ。

 そうだ。まさに奴隷だ。エルフを含め無数の種族がいるが、人に逆らうことは許されていない。首輪や足環、焼き印などを点けられることが多いな。各国でどれが使われるかまでは知らん。

 だが奴隷にとっても優しい主人であればそれを幸せと思う奴も出てくる。いや、きっと長く生きるのならばそれこそを求めてしまう。鞭を打たれるより、飢えや寒さ、病に苦しむよりは飼われる方がマシだと。

 とはいえ、帝国では主人以外が奴隷を傷つけるのは重罪だ。なんぞ宝石がちりばめられたような首輪を誇らしげにしている奴もいるらしい。奴隷扱いでない奴隷ということだ。それが救いかどうかは知らんが。

 共和国では奴隷以外もひでぇもんらしいからな。ふん、銅の腐敗戦線……あれも一体どうなっているのか。銅の腐敗についてはまた今度詳しく話すが、まああらゆる生命体が危機に瀕するものではあるよ。直接目にしたことはないが、鳥どもも滅多なことでは近寄らない。

 無論のこと奴隷だからな、最前線で盾にされることもある。だが『使い潰す』ような勿体ないことはほとんどしない。有体に言ってそんな余裕がある国ではない。いつか行って、自分の目で確かめることだな。

 扱いとして最もひどいのは公国だ。ここが一番奴隷らしく扱っているのかもしらん。

 売買、見世物、個人の趣味……面白半分に傷をつけられ、目を抉られ、喉を潰され、春を奪われ、無理やり売ら……んぁ、春……が解らん……ああまあそのうちクラウ殿とかハーラ殿が教えてくれる。あいつら教育どうなってんだ。

 ええい話を戻すぞ。ここに住まうエルフたちはそんな場所からやってきた連中が多い。奴隷によっては名前で呼ばれることさえない。

 名前とは本人を指し示す為だけのものではない。それは誇りなのだ。人間たちはまず、その誇りを奪い取った。管理番号で呼ばれ、自らの名前さえ与えられない奴等は、自分という存在さえ確立できない。

 特にエルフは、自らが生きた場所に根付いた名前――部族名を名乗ることがある。これは他の種にもあるが、とりあえずはエルフで説明するぞ。お前が一番かかわった種族だろうからな。

 フィリナ=リュエルは夕暮れの陽光が美しく葉を彩る森の部族だった。ヴァレル=カナスの一族が住む森は、風が素晴らしい音を奏でるよう、色とりどりの染め物が木々に掛けられていた。ラシュ=ヴェインは定期的に火山の火が森を焼く、その灰と炭の森に住まう部族だった。

 最早この部族名を名乗る者たちは殆どいない。ラシュ=ヴェイン族に至っては既に滅んでいる。本来ならば与えられた名前を部族名と共に力強く名乗り、自らを誇る名前とするのだ。血筋として残っていても、その名前は既に風化し、亡くなった。

 誇りが無いものは他のものに縋るしかない。その他のものさえ自らを責め立て、あるいはお前の価値は無いのだと甘く溶かされ貶められる。やがて自らでさえ自らを愛せなくなる。そうして思考停止したものたちは、夢さえ見ることができず、自らを呪う事しかできず、ただ日々を怠惰に過ごすだけになる。

 そんな連中から産まれた子供は当然、同じようにならざるを得ない。奴隷なんてのはそうして簡単に作ることができるんだ。その首輪を外そうとも、最早奴らは動けない。

 そんな連中がここには大勢いる。ここはそういう里だからな。自らの名を失い、誇りを失った者たちが寄り集まった最後の逃げ場。部族の名前など、どこにもない。

 つまり人間というだけでお前はそういう者たちと同等だという色眼鏡で見られるわけだ。嫌われているんじゃない、憎まれているのさ。

 それはお前の罪ではない。

 だが、お前が受け止めるべきものではある。

 何せ、お前は人間だからな。

 理不尽か? ああ、そうだろうとも。だが『人間』が憎まれている以上、お前という個人を信じてもらうには時間をかけるしかないのさ。

 最も、これはあらゆる種族に言えることだが――竜はそうでもないか。少ないからな、単純に――個々人ではどれほど信用がおけて、信頼できて、親しむべき存在であっても、群れてしまえばその気質は常に恐ろしいものになる。群れとは常に先頭に立ったものの意見に左右されるからだ。

 だからこれはお前にとっては最高の機会だぞ。何せお前は個人だ。お前の気質を知ってもらえれば、受け入れられることも早いだろうさ。

 深く考える必要はない。

 お前は善く育っているよ。お前を育ててくれた方々は余程善い人たちだったのだろうな。その方たちに恥じぬよう、胸を張って生きろ。きっと、それだけでいい。

 真っ直ぐにあるお前の在り方を、俺は結構気に入っているのだよ。こうして直接話すのは三度目だが、物怖じしない態度もな。くはは。

 何せお前は必死に生きている。それだけで俺にとっては十分好感を抱くに足るのさ。

 さて、今日はこれまでとしようか。とりあえず飯はしっかり食っておけ。温泉は入ったか? まだか。あそこはエルフたちにとっても大事な場所だから、そう簡単でもないか。

 まあそこまで案内してくれる程度には信頼を勝ち取ることだな。何、共に生きれば難しいことではないさ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

皆さまは個人との対話と種族との対話とどちらを重んじるでしょうか?

個人個人が尊重される今の時代、きっととても優しい時代です。


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