変化した日常_01
祭りを楽しんだ翌朝は片付けから始まる。
これには子供たちも意欲的に参加したし、行商のエルフたちも同じように片付けに参加してくれる。行商が去るのはこれから数日後だった。それまでは多少村の活動を手伝ってくれる。特にエルフであるクラウやオーラ、ガリラルと共に行動することも多い。
ゼルクが最初に抱いた違和感は、その片付けにマイトがいないことだった。
アエリアやより幼い子供たちも参加している中、舞で疲れ切っているミールはともかく、マイトが参加していないのは少しばかりおかしい。家のことを優先しているだけかもしれないが、祭りの翌日は大体片づけが優先だ。生活にも関わる話である。
微かな疑惑が確信に変わったのは、大人たちが慌て始めたのを見てからだった。部隊を綺麗にして片付けている最中、大人の1人が同じように働くオーラを呼びに来た。やけに慌てている。オーラが話を聞くと顔を歪め、クラウに静かに一言告げた。
「クラウ。皆を見ていてくれ」
「はい」
静かに言うと、オーラは村人と共にその場を離れて行った。
クラウは軽く応じて作業に戻った。焚火の番をしているのと同時に、小道具の清掃を行っている。ついでと言っては何だが、その焚火で白湯を作ってもいた。休憩がてら子供たちに振舞われる。
「なんかあったのかな」
「……さぁ……?」
アエリアの言葉に、ゼルクは只首を傾げるばかりだった。それよりも彼には気になっていることがある。
「なあ、マイト遅くないか。ミールはともかくとして」
「なんでミールがともかくなのよ……まあ舞の翌日はいつも疲れてるけどさ。マイト、ミールの様子でも見てるんじゃない? 昨日の舞、気合入ってたもんね」
「ああ、綺麗だった」
ゼルクは素直に頷く。昨晩のミールの舞は洗練されたものだった。炎に照らされ踊るその姿は未だに瞼の裏で思い出すこともできる。
だがとりあえず思い出に耽るのは後にしよう。昼までには終わらせて食事にしたい。昨日の残り物だが、少し肉があるのが楽しみだ。
「様子だけでも見に行くってくる」
「解った。私井戸周りやっちゃうね。ほら、ネガト、シジー! 井戸周りは私がやるから離れて離れて」
アエリアが子供たちと共に片付けに戻るのを見ながら、ゼルクはミールたちの家へと向かった。一応クラウにも挨拶をしておくが、特に問題もないだろうとそのまま見送られる。
それほど遠い場所ではなく、時間がかかるはずもない。だからこそまだ来ていないのが気になる。
病気にでもなっていたら大変だ。そうであるのならば手伝わなければならないことも多くあるだろう。ファウラ一家は父母と姉弟、4人で仲睦まじく暮らしているとはいえ、病人が出れば人ではいくらあっても困らないだろう。片付けも危ないものだけ先に済ませてしまえばいい。
「……?」
ファウラ一家の家に辿り着いた時、すぐに家の様子がおかしいことに気が付いた。
既に日も登っているというのに、いまだに明り取りの窓が開けられていない。
「――?」
僅かな胸騒ぎ。けれども悪寒を無視して、ゼルクは木製の扉を叩く。一家全員で病にでもかかっているのならば急がねばならない。扉を叩く手がやたら強くなり、思ったよりも音が大きく響いた。
「こ――おはようございます! ファウラさん、メルウさん。ミールとマイトはどうしてますか?」
声をかけてみるが、何も返答はない。
「あ、あの……? おはよう、ございます!」
念のためにもう一度、扉を叩きながら声をかける。反応はない。
広い家ではない。今のゼルクの声も家全体に響いたことだろう。
心臓が早鐘を打つ。微かに手が震え、喉が急激に乾く。何も呑み込めないまま喉が嚥下し、無駄に苦しい。
「――っ、――っ」
胸元に手を当て、荒くなった呼吸を鎮め、扉を開く。扉は一切の抵抗なく、外側に向かって開く。閂はかかっていなかった。
家の中は暗い。どこの明り取りの窓も開けられていない。そして暗い室内には、誰もいなかった。耳が痛くなるほどの静寂が家の中を支配している。
「――ファウっ、――ファウラさん? メルウさん? ミール、マイト?」
声をかけながら暗い室内に入る。家の間取りはゼルクの家とほとんど変わらない。ゼルクは浅い呼吸を繰り返しながらとりあえず明り取りの窓の板を外した。手が震え、板を取り落としてしまう。土間の上に落ちたそれは、殆ど音を建てなかった。
ミールたちは家族四人で暮らしている。ファウラとメルウの夫妻は仲が良く、ミールとマイトは助け合う姉弟だった。ミールとマイトと仲の良かったゼルクやアエリアもファウラたちには可愛がられていた。より幼い子供たちにも厳しく勉強はできる時にしておきなさいと言っていた。自分が簡単な計算問題しかできず、ミールが勉強をできることを喜んでいたっけ。ラドたち行商に頼んで、本やらなんやらを買い込んでいるのも見たことがある。
その四人が、今は誰一人としてここにいない。ただ静かな土間が広がるばかり。食料も家具も、何もかもが置かれっぱなしだ。先ほどまで誰かがいたと言われても信じられる。
「マイト! どこだ、おい! ミール!?」
焦りからゼルクは思わず駆け出し、置いてある椅子を蹴飛ばしながら奥の部屋へと続く扉を開く。だがどの部屋にも誰もいない。ただ黒々とした部屋に、明り取りの窓から僅かに隙間の光が入るばかり。
どの部屋にも誰もいない。それが解った瞬間、ゼルクは慌てて家を出た。狭い家だ。隠れられるような場所もない。ここに誰もいないのは明白だった。
駆け足のまま広場に戻る。肩で息をしながら戻ると、広場では相変わらず子供たちが燥ぎながら片づけをしている。アエリアがゼルクに気が付くと怪訝そうな顔をした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




