女神、散華(6)
ここまでが、物語全体の第15章になります
「くっ・・・!義姉上、おやめくだされ・・・!」
襲い掛かるジャンヌの剣を、エレンは必死に剣で受け止めた。ジャンヌは獲物を狙う獣のように、激しくエレンに攻撃を仕掛ける。
「はあっ!」
「あっ・・・!」
ジャンヌの渾身の一撃が、エレンの剣を弾き飛ばした。剣はクルクルと空中で回りながら、落下して床に突き刺さった。
「覚悟!!」
ジャンヌがエレンに狙いを定め、剣を勢いよく振り上げた。エレンが手で体を庇い、思わず目をつぶった・・・その時であった。
「うっ・・・げほっ!ごほっ!がっ・・・!」
突然ジャンヌが咳き込んだと思うと、その口から鮮血が噴き出された。エレンが目を開けると同時に、ジャンヌは力なく床に倒れ込んだ。
「義姉上・・・義姉上!!」
エレンは叫び声を上げながら、倒れ込んだ義姉のもとへ駆け寄った。そこで彼が目にしたのは、真っ赤に染まったジャンヌの腹部であった。
「これは・・・!」
「ふっ・・・運がいい男よ・・・・・・こんな時に・・・古傷が、開くとは・・・!」
エレンがジャンヌの服をはだけさせ、血に染まった腹を確認した。明らかに新しい傷口から、血が流れ続けている。
「これの・・・どこが古傷でございますか!?義姉上・・・なぜ、このようなことを・・・!?」
「私は・・・実の子を殺した・・・・・・親として・・・最も、犯してはならぬ罪だ・・・・・・そんな私に、楽に死ぬことなど許されぬ・・・・・・人とは、腹を切ってもそう簡単には死なぬ・・・・・・切った腹から血が流れ、少しずつ、命が消えていく・・・・・・それこそ・・・実の子を手にかけた、罪深い謀反人にふさわしい・・・・・・」
それ以上、エレンは聞いていられなかった。彼はジャンヌの体を抱きかかえると、涙を流しながら叫びかけた。
「死んではなりませぬ!!まだ・・・死んではなりませぬ!!」
ジャンヌはエレンに弱々しい笑みを向けると、彼の目をまっすぐ見ながら言った。
「エレン殿・・・そなたは優しい・・・・・・その優しさゆえに・・・この先もきっと・・・何度も迷うことがあろう・・・・・・だが・・・その時は、思い出せ・・・・・・そなたがなぜ、宰相となる道を選んだか・・・・・・そなたが・・・どんな世を作ろうと願って、今の生き方を選んだか・・・・・・それを・・・決して・・・忘れるな・・・・・・!」
「義姉上・・・!」
と、その時。ジャンヌが最後の力を振り絞って、エレンの体を突き飛ばした。エレンが床に尻もちをつくと同時に、焼けた天井が2人の間に落ちてきた。
「行け・・・エレン殿・・・」
「義姉上・・・!」
「行け!!」
ジャンヌの言葉に唇をかみながら、エレンは部屋を後にした。その背中を見送りながら、ジャンヌは笑みを浮かべて亡き夫に声をかけた。
「ゴール・・・お前の弟は、立派に成長した・・・・・・いずれ・・・お前や義父上を、超えるかもしれん・・・・・・」
屋敷を包む炎がますます強くなる中、カレンはエレンを待ち続けた。そんな彼女の前に、涙で頬を濡らしたエレンが姿を見せた。
「エレン!!・・・ジャンヌ様と、アラン様は!?」
その問いかけに、エレンは小さく首を横に振った。それだけですべてを悟ると、カレンはエレンの手を引いて走り出した。
「エレン、早く!!」
屋敷の前では、ダンとトールが固唾を飲んで、エレンとカレンの帰りを待っていた。一向に戻ってこない2人に、ダンが思わず声を上げる。
「エレン・・・カレン・・・!」
次の瞬間、炎と煙の中から、エレンとカレンが姿を現した。ダンとトールが安堵の声を漏らすと同時に、屋敷はついに完全に崩れ落ちた。
「エレン・・・」
燃える屋敷をじっと見つめるエレンの肩に、カレンが手を置きながら声をかけた。エレンは意を決したように振り返ると、ダンとトール、そして2人の背後の兵士たちに叫びかけた。
「謀反人、ジャンヌ・アルフォードとその息子は、炎の中で自害した!!もはや、その首を検める必要はなし!!この炎が、謀反人とその息子の亡骸、跡形もなく焼き尽くしてくれよう!!戦は終わりだ!!城に引き上げる!!」
エレンとカレンが馬にまたがり、屋敷に背を向けてゆっくりと歩を進める。ダンとトールもその後に続き、100人の兵士たちもそれに従う。
馬を進めながら、エレンは目を見開き続けていた。そんな彼のもとに、ダンが馬を寄せて声をかける。
「仮にも、謀反人とその息子だぞ。首を晒した方が・・・」
「これ以上辱める必要がどこにある!?」
空気を裂くようなその言葉に、ダンのみならずカレンとトールも息を飲んだ。エレンは手綱を強く握りしめ、声を震わせながら言った。
「もう十分だ・・・・・・もう・・・十分だ・・・・・・!」
ジャンヌの死と時を同じくして、彼女に味方した反乱軍の残党もまた、ルシウスが率いる軍勢に次々討たれていった。
ルシウスは各地に散った残党を討つため、四将軍の部隊を分散させることに決めた。反乱の首謀者であるライナス・ボルトは、ルシウスの軍勢がその首を挙げた。ザメクとランス、そしてゴードンの部隊も、主だった敵将を討ち取ることに成功した。
こうして、後の世に『ジャンヌの乱』と呼ばれることになる反乱は、首謀者たちの死で幕を閉じた。・・・しかし・・・
「頭領。兵糧が足りません。このままじゃ、明日の昼飯が最後になっちまいますぜ」
城に帰還しようとしていたザメクのもとに、苦い顔をした兵士が駆け寄って告げた。
「そうか・・・この近くに、村か町はないか?そこに立ち寄って、兵糧を徴収する」
「いい所が。もう半日近く進むと、カルドって村があります」
兵士の言葉にうなずくと、ザメクは大声で軍勢に叫びかけた。
「よし野郎ども!!俺らはこれから、カルドに向かう!!そこで兵糧を徴収し、城に戻る!!」
ザメクの軍勢は方向を変え、カルドに向かって進み始めた。これがさらなる悲劇の幕開けになるとは、まだ誰も知る由もない。
ご覧いただきありがとうございます。
評価や感想をいただけると、とても励みになります。よろしければ、ぜひお願いいたします




