女神、散華(5)
戦場を逃れたジャンヌはミオと共に、テネスの自邸まで馬を走らせた。
「ははうえ!!」
母の姿を見るなり、アランは安堵したように駆け寄ってきた。ジャンヌは馬から降りて兜を脱ぐと、息子の頭を愛おしそうに撫でた。
「ははうえ、いくさはどうなったのですか?」
母の様子から何かを感じ取ったのか、アランが不安そうな表情で問いかけた。ジャンヌはそんな彼に微笑みを向けながら、その体を優しく抱きしめて言った。
「アラン・・・もう、何も心配することはない。共に・・・父上の所へ行こう・・・」
それから、およそ30分後。エレンが率いる100人の部隊も、テネスのジャンヌの屋敷の近くまでやってきていた。
「本当に、こっちでよいのか?」
「ああ。義姉上ならば、アランのもとへ戻るはずだ。そこで何とか、義姉上を降伏させる」
ダンの言葉に応えながら、エレンはさらに馬を速めた。そんな彼の後ろから、必死に馬を走らせながらトールが叫びかけた。
「しかし、あの方が素直に降伏すると思うか!?きっと、アランと共にゴール殿のもとへ行く気だ!」
「それだけは止めねばならん!まだ・・・義姉上にもアランにも、生きてもらわねば困る!!」
だが、その時だった。カレンがあっと声を上げ、前方を指さして叫んだ。
「エレン・・・あれ!!」
カレンが示した先には、煙が天に向かって立ち上っていた。それを見て、エレンの胸に嫌な予感がよぎった。
「まさか・・・!急げ!!急ぐのだ!!」
エレンたちはさらに馬を走らせ、ようやくジャンヌの屋敷に辿り着いた。しかし屋敷にはすでに火が放たれ、煙がもうもうと立ち込めていた。
「まだ・・・まだ間に合うかもしれぬ!誰ぞ、水を持て!!」
「だめだ、エレン!もうあきらめろ!!」
エレンの肩を掴みながら、ダンが必死に叫びかけた。
「いや・・・まだ分からぬ!義姉上もアランも、まだ生きておるやもしれぬ!!」
「だが・・・!」
言いかけたトールの言葉を遮るように、エレンは決意がこもった表情で叫んだ。
「俺は・・・あの2人を死なせたくない!!それだけだ!!」
「エレン様!水をお持ちいたしました!!」
ちょうどその時、兵士の1人が井戸から組んできた水を、エレンに差し出した。エレンはそれを頭からかぶると、手で口と鼻を覆って迷うことなく、燃える屋敷に突っ込んでいった。
「エレン!!・・・どなたか、私にも水を!!」
「カレン!まさかお前まで・・・!?」
思わず声を上げたダンに、カレンは何とか笑みを浮かべながら言った。
「もちろんよ。エレンが行くところなら、どこだってついてくわ!!」
「義姉上!!どこにおられます!?」
屋敷の中に飛び込んだエレンは、炎をよけながら懸命にジャンヌとアランの姿を捜した。しかしどの部屋を捜しても、2人の姿を見つけることはできない。
次第に、炎の勢いが強くなってきた。エレンは思わずひるみながらも、それでもジャンヌたちを助けるために、さらに足を進めた。その時――
「はあっ!!」
「うっ・・・!」
突然、気迫のこもった叫び声と共に、刃が頭上から襲い掛かってきた。何とかその一撃を交わしたエレンの前には、剣を手にしたミオの姿があった。
「お2人のご自害、たとえ宰相様でも邪魔はさせませぬ!!」
「やはり義姉上たちは・・・!どいてくれ!!私は、義姉上たちをお助けしようと・・・!」
「問答無用!!・・・お覚悟!!」
ミオが剣を振り上げてエレンに襲い掛かろうとした、その時であった。エレンの後ろから走ってきたカレンが、素早くミオの体に組み付いて身動きを封じた。
「カレン!?」
「エレン、行って!!ここは・・・私に任せて!!」
「・・・分かった。恩に着る!!」
エレンはミオをカレンに任せると、さらに先へと進んでいった。一方のカレンは、腕の中でもがくミオを必死に押さえつけながら、手にした短剣を相手の首につきたてた。
「うっ!・・・あっ・・・・・・」
ミオは小さな叫び声を上げると、カレンの腕の中で絶命した。カレンは荒い息をつきながら、ミオの死体から手を離して立ち上がった。
「エレン・・・どうか・・・間に合って・・・!」
「義姉上!!アラン!!」
エレンはミオが守っていた通路の先に、1つのドアを発見した。すぐにそのドアを開けると、そこは寝室になっており、鎧を脱いだジャンヌが床に腰を下ろしながら、その目を固く閉じていた。
「義姉上!!」
エレンがそう叫びかけると、ジャンヌは目を開けてエレンを見つめ、小さな笑みを浮かべた。
「やはり来たか・・・エレン殿・・・」
「義姉上、もう戦は終わりました!どうか・・・アランのために、降伏してくださいませ!!」
「一足遅かったな。アランはすでに、父親のもとに旅立った」
ジャンヌが視線を向けた先には、ベッドの上に横たわるアランの姿があった。眠ったように目を閉じる甥の姿に、エレンは込み上げた感情のままに声を上げた。
「なんと・・・なんということを・・・!」
「このまま2人で逝くのも、少し寂しいと思っていた。だが・・・そなたが来てくれたのなら、冥途への良い供となろう」
ジャンヌはゆっくりと立ち上がると、腰に提げていた剣を引き抜いた。そして鋭い雄たけびを上げ、エレンに襲い掛かるのだった。
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