↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宰相殿のご決断  作者: 髙橋貴一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/125

女神、散華(5)

戦場を逃れたジャンヌはミオと共に、テネスの自邸まで馬を走らせた。


「ははうえ!!」


母の姿を見るなり、アランは安堵したように駆け寄ってきた。ジャンヌは馬から降りて兜を脱ぐと、息子の頭を愛おしそうに撫でた。


「ははうえ、いくさはどうなったのですか?」


母の様子から何かを感じ取ったのか、アランが不安そうな表情で問いかけた。ジャンヌはそんな彼に微笑みを向けながら、その体を優しく抱きしめて言った。


「アラン・・・もう、何も心配することはない。共に・・・父上の所へ行こう・・・」




それから、およそ30分後。エレンが率いる100人の部隊も、テネスのジャンヌの屋敷の近くまでやってきていた。


「本当に、こっちでよいのか?」

「ああ。義姉上ならば、アランのもとへ戻るはずだ。そこで何とか、義姉上を降伏させる」


ダンの言葉に応えながら、エレンはさらに馬を速めた。そんな彼の後ろから、必死に馬を走らせながらトールが叫びかけた。


「しかし、あの方が素直に降伏すると思うか!?きっと、アランと共にゴール殿のもとへ行く気だ!」

「それだけは止めねばならん!まだ・・・義姉上にもアランにも、生きてもらわねば困る!!」


だが、その時だった。カレンがあっと声を上げ、前方を指さして叫んだ。


「エレン・・・あれ!!」


カレンが示した先には、煙が天に向かって立ち上っていた。それを見て、エレンの胸に嫌な予感がよぎった。


「まさか・・・!急げ!!急ぐのだ!!」


エレンたちはさらに馬を走らせ、ようやくジャンヌの屋敷に辿り着いた。しかし屋敷にはすでに火が放たれ、煙がもうもうと立ち込めていた。


「まだ・・・まだ間に合うかもしれぬ!誰ぞ、水を持て!!」

「だめだ、エレン!もうあきらめろ!!」


エレンの肩を掴みながら、ダンが必死に叫びかけた。


「いや・・・まだ分からぬ!義姉上もアランも、まだ生きておるやもしれぬ!!」

「だが・・・!」


言いかけたトールの言葉を遮るように、エレンは決意がこもった表情で叫んだ。


「俺は・・・あの2人を死なせたくない!!それだけだ!!」

「エレン様!水をお持ちいたしました!!」


ちょうどその時、兵士の1人が井戸から組んできた水を、エレンに差し出した。エレンはそれを頭からかぶると、手で口と鼻を覆って迷うことなく、燃える屋敷に突っ込んでいった。


「エレン!!・・・どなたか、私にも水を!!」

「カレン!まさかお前まで・・・!?」


思わず声を上げたダンに、カレンは何とか笑みを浮かべながら言った。


「もちろんよ。エレンが行くところなら、どこだってついてくわ!!」



「義姉上!!どこにおられます!?」


屋敷の中に飛び込んだエレンは、炎をよけながら懸命にジャンヌとアランの姿を捜した。しかしどの部屋を捜しても、2人の姿を見つけることはできない。


次第に、炎の勢いが強くなってきた。エレンは思わずひるみながらも、それでもジャンヌたちを助けるために、さらに足を進めた。その時――


「はあっ!!」

「うっ・・・!」


突然、気迫のこもった叫び声と共に、刃が頭上から襲い掛かってきた。何とかその一撃を交わしたエレンの前には、剣を手にしたミオの姿があった。


「お2人のご自害、たとえ宰相様でも邪魔はさせませぬ!!」

「やはり義姉上たちは・・・!どいてくれ!!私は、義姉上たちをお助けしようと・・・!」

「問答無用!!・・・お覚悟!!」


ミオが剣を振り上げてエレンに襲い掛かろうとした、その時であった。エレンの後ろから走ってきたカレンが、素早くミオの体に組み付いて身動きを封じた。


「カレン!?」

「エレン、行って!!ここは・・・私に任せて!!」

「・・・分かった。恩に着る!!」


エレンはミオをカレンに任せると、さらに先へと進んでいった。一方のカレンは、腕の中でもがくミオを必死に押さえつけながら、手にした短剣を相手の首につきたてた。


「うっ!・・・あっ・・・・・・」


ミオは小さな叫び声を上げると、カレンの腕の中で絶命した。カレンは荒い息をつきながら、ミオの死体から手を離して立ち上がった。


「エレン・・・どうか・・・間に合って・・・!」




「義姉上!!アラン!!」


エレンはミオが守っていた通路の先に、1つのドアを発見した。すぐにそのドアを開けると、そこは寝室になっており、鎧を脱いだジャンヌが床に腰を下ろしながら、その目を固く閉じていた。


「義姉上!!」


エレンがそう叫びかけると、ジャンヌは目を開けてエレンを見つめ、小さな笑みを浮かべた。


「やはり来たか・・・エレン殿・・・」

「義姉上、もう戦は終わりました!どうか・・・アランのために、降伏してくださいませ!!」

「一足遅かったな。アランはすでに、父親のもとに旅立った」


ジャンヌが視線を向けた先には、ベッドの上に横たわるアランの姿があった。眠ったように目を閉じる甥の姿に、エレンは込み上げた感情のままに声を上げた。


「なんと・・・なんということを・・・!」

「このまま2人で逝くのも、少し寂しいと思っていた。だが・・・そなたが来てくれたのなら、冥途への良い供となろう」


ジャンヌはゆっくりと立ち上がると、腰に提げていた剣を引き抜いた。そして鋭い雄たけびを上げ、エレンに襲い掛かるのだった。

ご覧いただきありがとうございます。

評価や感想をいただけると、とても励みになります。よろしければ、ぜひお願いいたします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。