女神、散華(3)
エレンとダンが陣を離れてから、4日が経った。
「ジャンヌ殿。このままでは、味方の士気は下がる一方じゃ。今一度、敵陣を攻めてはいかがか」
焦れた様子のライナスが、ジャンヌに声をかけてきた。
「それはなりません。確かに今、敵の総大将は不在でございます。なれど、あのエレン・アルフォードのこと、必ずや何か仕掛けています。兵力が劣る以上、下手に手を出すのは危険です」
ジャンヌはそう言って、ライナスや諸将を抑えようとした。しかし、味方の士気の低下を懸念する諸将は、それで引き下がることはなかった。
「このままぐずぐず対陣を続けていては、いずれこちらの兵糧が尽きる!厭戦気分も高まってきておる、ここらで一度、大きな勝負に出た方がよい!!」
「わしも同感じゃ、ジャンヌ殿。数で不利なのは承知じゃが、それでも今が、敵陣を破る好機ではないか?」
諸将の言葉に、ジャンヌはしばし考えこんだ。やがて彼女は結論を出すと、諸将を見渡して声を上げた。
「よろしいでしょう。兵を動かし、敵陣を攻めます」
こうして、反乱軍の総攻撃が始まった。もはや先に進むしかない反乱軍は、遮二無二陣を破ろうと突撃してきた。
「弓隊、構え!!十分に引き付けてから、矢を放つのです!!」
一方、討伐軍の最前線には、これまで同様にカレンが立っている。彼女も愛用の弓を構えながら、味方の弓隊に叫びかけた。
「放て!!」
カレンの合図で、弓隊が一斉に矢を放った。その攻撃で多くの反乱軍の兵士が討たれたが、それでも敵は構わず突っ込んでくる。
「頃合いだな。バルデッタ隊、掛かれ!!」
「カロット隊も続け!!カレン殿を援護するのだ!!」
ルシウスとランスの部隊が、陣から出て白兵戦を相手に仕掛けた。反乱軍もこれを迎え撃ったが、歴戦の将であるランスとルシウスが率いる部隊は強く、容易に突破できない。
「やるではないか、カレン」
かつて、アルフォード家の使用人として働いていたカレンの成長ぶりに、ジャンヌは思わず笑みを漏らした。しかし総大将として、味方の窮地は捨ておくことができない。
「皆続け!!敵陣を突き破るのだ!!」
ジャンヌは自ら剣を構えながら、数百人の親衛隊と共に前線に躍り出た。ジャンヌは鬼神のごとき強さを遺憾なく発揮し、攻勢に出ていた討伐軍を押し戻し始めた。
「ここが好機ぞ!!進め!!敵陣を突き崩せ!!」
ジャンヌの雄姿に励まされた反乱軍が、喊声を上げながら再び突っ込んできた。カレンは必死に矢を放ち続けたが、敵の勢いは止まる気配がない。
「これは・・・まずいわね・・・!」
陣に迫ってきた敵兵を弓矢で射抜きながら、カレンは苦々しく呟いた。敵の兵士が勢いに乗り、陣を守る柵に取り付こうとした・・・その時であった。
「やめよ!!双方、戦をやめよ!!」
突然、戦場に大きな声が響き渡った。討伐軍と反乱軍、双方が声のした方へ視線を向けると、そこには顔を真っ赤にしたダンの姿があった。
「兄さん!・・・!エレンも・・・!」
ダンの後ろから、馬に乗ったエレンが悠然と歩を進めてきた。彼は爽やかな表情を浮かべながら、手にした1枚の紙を高々と掲げている。
「両軍の兵士に告げる!!このエレン・アルフォード、おそれながら、陛下の勅命を預かってまいった!!戦の手を止め、陛下のお言葉に耳を傾けるべし!!」
「勅命だと・・・?まさか・・・陣を離れたのはそのためか・・・!」
ようやくエレンの意図を悟り、ジャンヌが悔しそうに声を上げる。エレンは馬上で紙を広げると、大声で読み上げ始めた。
「ジャンヌ・アルフォード、及びそれに味方する領主たちの行動は、この国の法を揺るがす暴挙である!!我、国王レオナルドは、この暴挙には断じて屈さない!!よって、ジャンヌ・アルフォード、及びそれに味方する全ての者を、逆賊として扱うものとする!!」
「何!?我らが・・・逆賊・・・!?」
ライナスがあんぐりと口を開けながら、呆然とした表情で言った。一方のジャンヌは小さく笑いながら、勅命を読み上げるエレンに視線を向けた。
「ふふ・・・やるではないか、エレン殿・・・」
「この国を乱す逆賊、直ちに討ち取るべし!!エルドラ国、第111代国王レオナルド!!・・・この通り、陛下のご直筆の署名、及び王家の印もある!!この勅命は、まぎれもなく本物!!此度の謀反に加担せし者、ことごとく逆賊として討ち取る!!」
「おお!!」
エレンの言葉に、討伐軍の将兵が声を上げて応えた。カレンはダンのもとに駆け寄ると、疲れ切った顔に精一杯の笑みを浮かべた。
「エレンがやってのけたみたいね、兄さん」
「ああ、俺もどうなることかと思った。だが、これで戦の流れは決まる。我らは官軍だ、大義はこっちが握ったぞ!」
ダンが喜びの声を上げた一方で、ライナスは青白い顔でジャンヌに問いかけた。
「ジャンヌ殿、いかがなさる?」
「・・・このままでは、味方は総崩れになります。一度撤退し、善後策を練りましょう。・・・全軍退け!!陣まで引き上げろ!!」
こうして、ジャンヌは兵を撤退させることを余儀なくされた。一方のエレンは馬から降りながら、味方の将兵と共に、勝利の喜びを分かち合うのだった。
ご覧いただきありがとうございます。
評価や感想をいただけると、とても励みになります。よろしければ、ぜひお願いいたします




