女神、散華(2)
エレンとダンが城に辿り着いたのは、陣を出てから2日後のことである。
「あれは・・・宰相殿ではないか!?」
「宰相殿じゃ!戦はどうなったのだ?」
城下を馬で走るエレンの姿に、人々が驚きと疑問の声を上げた。エレンはさらに馬を走らせ、城門に辿り着いた。
「義兄上!?戦は終わったのですか!?」
衛兵として門を守っていた義弟のウェイドが、驚きを隠せない様子でエレンに尋ねた。
「いえ、むしろこれからでございます。私はこれから、陛下にお会いします」
「陛下に?・・・ともかく、お入りくだされ」
ウェイドともう1人の衛兵が、急いで城門を開けた。エレンたちは城に入るとすぐ、王のもとに向かおうとした。
「これは宰相殿。こんなに早くお戻りになるとは、予想外でございました」
そんな2人の前に、文官のバナージが姿を見せて言った。
「バナージ殿・・・今は、お話ししている暇はありません。私はこれから、陛下のもとへ向かいます」
「それは難しゅうございましょう。陛下は此度の戦、関わらないと決めておられますゆえ」
蛇のような目でこちらを見てくるバナージを、エレンは振り切るように言った。
「そのお心を、変えるために参ったのです。時がありませぬゆえ、ここで失礼します」
エレンたちはすぐに、レオナルドのもとに向かった。レオナルドは側近のベイル、そしてサイラスと、何やら話をしているところであった。
「陛下!お話し中、失礼いたします!」
エレンが叫ぶように声をかけると、レオナルドたちは驚いたような顔で彼に目を向けた。
「宰相・・・!このような所で何をしておる?戦はどうなったのじゃ?」
「ランス殿が陣を築き、敵を防いでいるところでございます。しかし・・・この戦に勝つには、陛下のお言葉が必要でございます。どうか、私にお力をお貸しくださいませ」
ダンと共に頭を下げたエレンだったが、レオナルドの側近のベイルが口を開いた。
「宰相殿。あなたもご存じの通り、陛下はこの戦に関わらぬと決めておられる。この戦は、あなたがお1人で解決すべきじゃ」
「ベイルの言う通りじゃ、宰相殿。陛下は此度の戦、中立を保つことに決められたのだ」
ベイルに続いてサイラスも、エレンを諭すように言った。ダンは苦い表情を浮かべたが、エレンは小さな笑みをレオナルドに向けて言った。
「陛下・・・久しぶりに、何か遊びをいたしませぬか?」
「遊び・・・?今か?」
「はい。宰相となってから、陛下と遊ぶ時間がなかなか取れませんでした。いかがでしょう?久々に、2人きりで」
「おいエレン、こんな時に何を・・・?」
ダンがエレンを制止しようとしたが、レオナルドは興味深そうに微笑みながら口を開いた。
「よかろう。すぐに支度させるゆえ、待っておれ」
こうして、エレンは久しぶりに、レオナルドとゲームをすることになった。この日用意されたゲームは、レオンがまだ側仕えだったころ、よく2人でやっていた陣取り遊びであった。
「こうしてそなたと遊ぶのも、久しぶりじゃのう」
感慨深そうに声を上げながら、レオナルドが石を盤面に置いた。それに応じるように、エレンも自分の石を置く。
「ええ。父が生きていたころが、懐かしゅうございます」
「これ、そのような年寄りめいたことを言うでない。そなたの方が、わしより2つ年下じゃ」
穏やかな笑みを浮かべつつも、レオナルドはエレンの急所に石を置いた。エレンは石を手に取ると、どこに置くべきか考えこんだ。
「そうか・・・戦は、膠着状態か・・・」
一方。ダンから話を聞いたベイルが、重い表情で言葉を返した。
「はい。エレン・・・いや、宰相殿は、是が非でも陛下に、ジャンヌ殿を逆賊と認めていただきたいのです」
「・・・実はな。わしらもつい先ほどまで、陛下にそれを申し上げていたのだ」
サイラスの言葉に、ダンが驚いたような声を上げた。
「そ・・・そうだったのですか?」
「此度の戦、理は明らかに宰相殿にある。ジャンヌ・アルフォードの行いは、この国の法を踏みにじる暴挙。ゆえに、かの者を逆賊とお認めくだされと、ベイルと共に申し上げていたのだが・・・」
「陛下のお気持ちは固くてな、我らの言葉にも耳を貸そうとなさらぬ。これでだめなら、王妃様にご相談しようと、サイラス殿とは言っていたのだが・・・」
「そこに、我らが来たということですな?」
ダンの言葉に、サイラスは小さくうなずいた。
「さて・・・宰相殿が、陛下を果たして説き伏せることができるかどうか・・・・・・」
サイラスが不安そうに声を上げたその頃、エレンはようやく、石を置く場所を決めた。
「ほう、そこか。やはりそなたとの遊びは面白い。他の者との遊びは、ここまで心が動かぬゆえな」
「左様でございますか。・・・では、私が負ければ退屈になりますな」
「何・・・?」
鋭い目を向けたレオナルドに、エレンは小さな笑みを向けた。
「ご自身で仰ったではないですか。私との遊びは面白いと。私がこの戦で負ければ、確実に命はないでしょう。そうなれば、陛下と遊ぶことはもう二度と叶いませぬ」
レオナルドの置いた石を遮るように、エレンは自らの石を置いた。その結果、レオナルドの石は完全に動きを封じられた。
「ふっ・・・ふふふ・・・!そうか・・・!そう来たか、宰相よ!!」
心から可笑しそうに、レオナルドは声を上げて笑った。
「ならば・・・そなたを失うのは惜しいな。よかろう。そなたの望み、聞いてやろうぞ」
「はっ・・・!ありがたき、幸せでございます!!」
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