義姉VS義弟(5)
「急げ!敵軍の虚を突くためにも、遅くとも夕方には出陣せねばならん!!」
ランスの号令のもと、兵士たちが出撃の準備を進める。その中には、エレンの仲間であるカイルの姿もあった。
「カイル!」
「エレン!」
そんなカイルに、エレンが声をかけてきた。カイルが驚いた表情を浮かべながら、手を止めてエレンの方へ駆け寄る。
「どうした、こんな所に来て?お前は総大将だろ、どんと構えてなきゃだめだ」
「いや、それは分かっている。だが、出陣前に、お前の顔を見たくなった」
「なんだそれ。まるで最後の別れみたいな感じだな。言っとくけど、総大将がそういうこと口にするもんじゃないぜ。不吉だぞ」
たしなめるようなカイルの言葉に、エレンは素直に謝罪した。
「そうだな・・・すまぬ」
「ま、俺たちの仲だ。よしとしてやるよ」
「しかし、敵は大軍。こちらは、多くて8千ほどしか割いてやれぬ。不利な戦になるが、軍勢が整い次第、すぐに後詰に駆けつける。それまで、なんとか耐えてくれ」
エレンの言葉に、カイルは笑顔で大きくうなずいた。
「おお!たとえほかの味方が崩れたとしても、俺だけは最後まで踏みとどまってやるよ」
「・・・お前こそ、不吉なことを言うな。デイン殿も言っていたであろう?まずは、生きることだ」
「だな。じゃあ、俺はそろそろ」
「うむ。・・・死ぬなよ、カイル」
そして、夕方。出陣準備を整えたランスは、8千の兵を率いて城を出立した。この間にも、続々と各地の軍が城に集まってはいるが、ランスに8千の兵を与えた結果、城には5千ほどの兵しか残っていない。
「ランスは、戦巧者だ。きっと時間を稼いでくれる。軍勢さえ揃えば、一気に逆転だ」
ルシウスが励ますように言ったが、エレンの表情は硬いままだった。
「しかし・・・相手は義姉でございます・・・・・・いかにランス殿といえど、寡兵でどこまで持ちこたえられることか・・・」
明朝。進軍を続けていたランスのもとに、1つの報せが届いた。
「敵軍、本日早朝にバルサラを出立した模様!」
「そうか・・・このまま順調に進撃を続けたとして、明日には敵とぶつかるな・・・」
ランスはそう呟くと、周囲に注意深く視線を向けた。彼の目は、前方数キロ先にある、小さな山に向けられている。
「あの山の手前に陣を敷く。あの山を塞げば、敵軍は隘路を進むしかない。それなら時間を稼ぐこともできよう」
「はっ!全軍、あの山を目指せ!!」
こうして、ランスの部隊は山の手前に陣取り、さらに城から持ってきた簡易的な柵を植え付け、応急ではあるが防衛線を設置した。
「これで、何とか防げればいいのだが・・・・・・あとは、宰相殿がいつ、後詰めとして駆けつけてくれるかだ・・・・・・」
その夜。カレンと共に夕食を取っていたエレンのもとに、農夫姿のダンが姿を現した。
「ダン!よく帰ってきてくれた!」
「いや・・・噂もあまり効果がなく、橋を落としてもすぐに進路を変えられた。1日ほどしか時間を稼げず、すまん、エレン!!」
ガバッと頭を下げたダンのもとに、エレンが歩み寄って肩を叩いた。
「いや・・・十分な成果だ。この1日が、我らの命運を分けるやもしれぬ」
「その通りだ、ダン。お前が時間を稼いでくれたおかげで、俺たちの所領から5千の兵が到着したぞ」
いつの間にか部屋までやってきていたトールが、ダンを労うように声を上げた。一方のエレンはトールの言葉を聞き、目を輝かせながら叫ぶように問いかけた。
「それは・・・まことか、トール!?」
「ああ。しかも、この5千はあくまで先遣隊。もう3日くれれば、残る1万の部隊も到着する」
「それは心強いわ。でも、まだ出撃するには兵が足りない・・・」
カレンが苦い顔で言ったその時、1人の衛兵が部屋に飛び込んできた。
「宰相殿!ザメク将軍が率いる1万5千の兵、到着いたしました!!」
「来たか!!さすがザメク殿、動きが速い!!」
エレンは喜びの声を上げると、すぐにザメクを出迎えに向かった。ザメクは相変わらず粗野な風体をしていたが、エレンを見るなりにやりと笑みを向けた。
「どうだボウズ!俺の用兵の速さ、恐れ入ったか!?」
「さすがはザメク殿でございます。あの遠い所領から、よくこの速さで1万5千もの兵を・・・!」
「ま、それなりに無茶はしたがな。しかし、おめえの義姉貴が相手なら、面白い戦ができそうだぜ!」
「感謝いたします。共に、義姉と戦ってくださいませ」
と、その時であった。先ほどとは別の衛兵が、エレンにさらなる朗報を告げた。
「宰相殿!ベルトのノリス・クレイ将軍、3千の兵を率いて到着されました!!」
「何!?ノリス殿が!?」
ノリスは、かつてスティークの反乱の際に、エレンが無血で開城させたベルト城の主である。反乱の終息後、ノリスは降伏後の活躍から所領を安堵され、ベルト一帯を引き続き治めてきた。
「宰相殿・・・お久しぶりでございます」
エレンのもとにやって来たノリスが、笑みを向けながら声をかけた。
「ノリス殿・・・まこと、かたじけのうございます!!」
「なに、此度の反乱がなくとも、元々城には参る予定だったのです。それに宰相殿には、命を救っていただきましたからな。そのご恩に報いるときは今と、今いるだけの兵を連れてまいりました」
「なんとも、頼もしき援軍でございます。これで、城に集った兵は合わせて、2万8千・・・ランス殿と合流すれば、ギリギリ義姉上の軍を迎え撃てるだけの数になる!」
エレンはそう計算すると、直ちに周囲の者に命令を下した。
「明朝、2万5千の兵で出陣する!!各員、戦支度を怠るな!!」
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