義姉VS義弟(4)
城にジャンヌの挙兵の報がもたらされてから、1日経った。ジャンヌはライナスや諸将と共に、城に向けて兵を進めていたが――
「聞いたか?城にはすでに、10万の兵が集まっているそうじゃ」
「10万!?我が方の倍の数ではないか!?」
「いくら総大将がジャンヌ様といえど、倍の敵と戦うのはな・・・」
「この戦、本当に勝てるであろうか・・・」
兵士たちの間に、不穏な噂が広がり始めている。ジャンヌは一旦兵を止めると、ライナスを始めとする武将たちを集めた。
「方々。城にすでに10万もの敵が集まっているという噂が、兵たちの間でまことしやかに流れている」
「10万!?・・・いや、いくらなんでも、そんなにすぐに兵を集められるはずがない」
ライナスが動揺しながらもそう言うと、ジャンヌはうなずきながら冷静に言った。
「おそらくこれは、宰相が流させた噂にございましょう。我らの足並みを乱し、士気を挫き、兵が集まる時間を稼ごうという魂胆と見ました。兵たちにお伝えくだされ。このような噂に、惑わされてはならぬと」
「そ・・・そうじゃな!方々、兵たちに告げるのじゃ!噂はでたらめ、城には兵はそれほど集まっておらぬ!!」
こうして、城に10万の大軍が集まっているという噂は、すぐに静まることとなった。しかしそれから1時間も経たないうちに、今度は別の噂が流れ始める。
「聞いたか?ライナス様は、この戦で宰相を蹴落としたら、その位にご自分が就くと仰ったようじゃ」
「まことか?わしが聞いた話では、宰相の位にはジャンヌ様のお子の、アラン様が就くそうじゃが」
「いや、アラン様はまだ5つじゃ。そのような小さなお子に、宰相などが務まるはずがない」
「となれば、ジャンヌ様は体のいい神輿にすぎぬのではないか?すべては、ライナス様が最大の利を得るための策か?」
この噂を耳にしたジャンヌは兵を休ませると、すぐにライナスに事の真相を問いただした。その話を聞いた途端、ライナスは顔を真っ赤にして否定した。
「根も葉もないでたらめじゃ!!ジャンヌ殿、わしは宰相の座を狙って起ったわけではない!わしはただ、宰相によって削られた領主の力を、取り戻そうと思って起ったのじゃ!!」
「・・・そうでしたな。無礼なことをお聞きしました。お許しくださいませ」
ライナスに深々と頭を下げて詫びると、ジャンヌは進軍を再開した。彼女に付き従う侍女のミオが、怪訝そうな顔で声をかける。
「ジャンヌ様。不穏な噂が複数、兵の間に流れておりまする。よもや・・・宰相の策ではございませんか?」
「ああ。十中八九、あやつの策であろう」
そう応えながら、ジャンヌは小さな笑みが漏れるのを抑えきれなかった。エレンが知恵の回る男だとは思っていたが、こんな手も使うことができるとはと、感心している自分がいた。
(やるではないか、エレン殿・・・)
やがて一行は、川を挟んだ道に辿り着いた。そこには橋が架けられているはずであったが、先頭の兵士が辿り着いた時にはすでに、橋は何者かによって壊されていた。
「ジャンヌ様、橋が落ちております!!」
その報せに、ジャンヌはすぐに頭を切り替えた。
「迂回して進む!川沿いに進め!!」
ジャンヌの的確な指示で、兵士たちは大きな動揺もなく進軍を再開した。その様子を、壊れた橋の向こう側から、農夫に身をやつしたダンが苦い表情で見つめていた。
「くそっ、あまり足止めにはならなかったか・・・・・・すまん、エレン。稼げるとしても、1日くらいになりそうじゃ・・・!」
翌日。ようやく、城にもある程度の軍勢が揃い始めた。四将軍筆頭のゴードンも、兵たちに先んじて城に到着し、城方の士気を大きく上げた。
「すまんのう、宰相殿。わしの指揮下の1万の兵が到着するには、あと4日はかかろう。今は、手持ちの千人しかおらぬ」
「いえ・・・ゴードン殿がお越しになったことで、兵の士気も高まっております。あとはザメク殿さえ到着すれば、四将軍の方々が揃い踏みになります」
エレンが微笑を浮かべてゴードンに応えた、まさにその時。部屋に駆け込んできたニールが、おびえきったような声を上げた。
「宰相殿、申し上げます!ジャンヌ殿が率いる軍勢の先鋒が、バルサラに辿り着いたとのこと!」
「バルサラに!?」
ニールの言葉に、エレンが苦々しい声で応えた。バルサラとは、エルドラ城の南方に位置する広い平野であり、ここなら大人数の軍隊が陣を張ることができる。先鋒部隊がそこに辿り着いたということは、おそらくそこで夜営する気であろう。
「まずいのう・・・バルサラからこの城までは、3日もあれば辿り着く。今日はそこに陣を敷くとしても、おそらく明朝には出立しよう」
「でしょうな。・・・宰相殿。ひとまず、私に出陣させてくださいませんか?」
ゴードンの言葉にうなずきながら、ランスがエレンに願い出た。
「ランス殿・・・なれど、まだ1万ほどしか兵が集まっておりませぬ。今正面から挑んでも、敗北は必定かと・・・」
「しかし、このまま敵を捨て置いていては、すぐに城に辿り着かれてしまいまする。どうか・・・私に出撃させてくださいませ」
ランスは、すでに覚悟を決めたようであった。それが揺るぎないものであることを悟ると、エレンはすぐさま決断を下した。
「分かりました。ランス殿・・・ご武運を・・・!」
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