義姉VS義弟(3)
「そんな・・・ジャンヌ・・・お義姉様が・・・?」
エレンが城で奔走していた、まさにその頃。夫のウェイドからジャンヌの反乱を聞かされたミアが、呆然と声を上げた。
「私も信じたくはないが、どうやら本当のことらしい。義兄上は、今戦支度で忙殺されていらっしゃる。何とか助けになりたいが、一介の衛兵風情には何もできぬ。悔しい限りだ」
心から悔しそうな表情を浮かべながら、ウェイドが無念をにじませて言った。一方のミアは目を潤ませながら、夫の腕にしがみついて尋ねた。
「ねえウェイド・・・今からでも、お兄様を説得できない?お義姉様は、エルドラの女神と恐れられた方よ。戦になったら勝てっこないことくらい、お兄様だって分かってるはず。お義姉様と、話し合うことができれば・・・」
「いや・・・義兄上は、すでに諸将に兵を整え、城に参集するよう使者を出されたという。こうなったら、話し合いでどうこうできる段階ではない。辛いことだが・・・義兄上とジャンヌ義姉上の戦いは、もはや避けられないであろう」
「そんな・・・・・・じゃあ・・・家族同士で、殺し合いになるってこと・・・?」
力なく頽れると、ミアは両目から涙を流し始めた。
「嫌・・・そんなの、絶対嫌よ・・・・・・」
声を震わせて泣き続ける妻の体を、ウェイドは優しく抱きしめた。
「そなたの気持ちは分かる。そなたは、誰よりも家族思いの女子だ。だが・・・ことはもう、動き始めてしまっている。そなたも・・・覚悟を決めてくれ」
「嫌・・・そんな覚悟・・・決めたくない・・・!」
声を上げて泣き始めた妻の体を、ウェイドは強く抱きしめた。2人が育てている花々も、活気を失ってしおれ始めている物が多く、中には花びらが床に落ち始めている物もあった。
一方。アルフォードの屋敷では、カレンが戦支度を進めていた。
「カレンさん・・・また、戦に出るの・・・?」
スティークの乱の時も、カレンが戦に出たことを知っているマリアが、暗い表情で問いかけた。
「はい。エレンのこと、放っておけないので」
「でも、あなたは今や、宰相の正室。もし戦場で、万一のことがあったら・・・」
「その時は、サラさんがいます。私は・・・エレンを守って死ねるなら本望です」
女性用の軽い鎧に身を包み、愛用の弓を背中に掛けながら、カレンが覚悟を込めた声で言った。そんな彼女の様子を見ていたサラが、おずおずと声をかけてきた。
「カレンさん・・・戦に・・・行くの・・・?」
「サラさん・・・ええ。私は行きます」
「戦・・・怖くないの・・・?死んじゃうかも・・・しれないのに・・・・・・」
怯えたように口にしたサラの手を、カレンは微笑みを浮かべながら優しく握った。
「私に何かあった時は、エレンのこと、お願いしますね。エレンだけは・・・絶対に、死なせませんから」
カレンの言葉に圧倒されながら、サラは小さくうなずいた。彼女はカレンの目を見つめながら、震える声で必死に哀願した。
「お願い・・・エレンだけは・・・死なせないで・・・!」
「もちろんです。私の命に代えても、絶対に守って見せますから」
サラにそう約束すると、カレンはマリアに視線を向けた。
「お義姉様、この家のこと、よろしく頼みます」
「ええ・・・カレンさん、あなたもどうか、無事に戻って・・・!」
「宰相殿!奥方様が到着されました!」
その報せを受け取った時、エレンは思わず飛び上がりそうになった。
「何!?カレンが・・・ここに来たというのか!?」
「はっ。お止めしたのですが、宰相殿に会うと仰って聞かず・・・」
「エレン!」
衛兵の言葉が終わらぬうちに、カレンが部屋に入ってきた。
「カレン!何をしている?すぐに屋敷に戻れ!!」
「嫌よ。あんたのこと、放っておくことなんてできないもの。それに、あんたのことを絶対守るって、サラさんに大見得切ってきちゃったのよ?今更帰れなんて言わないで」
「しかし・・・!」
心配そうに声を上げる夫の手を、カレンは優しく握りながら言った。
「わがままだとは、百も承知よ。だけど・・・今のあんたを1人で戦わせるなんて、私には絶対にできない。あんたが今感じている辛さも、背負ってる重荷も、全部一緒に分かち合いたいの。・・・夫婦って、そういうものでしょ?」
「カレン・・・」
精一杯の笑みを向ける妻に、エレンは感謝の言葉を告げた。
「ありがとう・・・お前がいれば、百人力だ」
「ふふっ。おだてても何も出ないわよ。・・・で、今どういう状況?」
「義姉上が率いる兵は、どんなに少なく見積もっても5万。報せによっては6万、7万ともいわれているが、おそらくこれは、義姉上が仕掛けた流言であろう」
「数が多いと見せかけて、こっちの戦意を挫こうって魂胆かしら。さすがはジャンヌ様、戦というものを分かってらっしゃるわ」
感心したように声を上げつつ、カレンはすぐに表情を引き締めた。
「それで、こっちの兵力は?」
「今城に集まっている兵は、2千余りに過ぎない。まとまった軍勢が揃うには、最低でも1週間はかかる。その時間を、何とかして稼がねばならぬ」
「難しいわね・・・でも、何もしないわけにはいかないし・・・」
「ああ。すでに、ダンにいくつか指示を出しておいた」
「兄さんに?」
エレンはうなずくと、張りつめた表情のまま言った。
「戦とは、刃や矢を交えることだけが全てではない。義姉上が謀略の限りを尽くすというのなら、俺もどんな小細工だってしよう。例え卑怯といわれようが・・・・・・俺は決して、負けるわけにはいかぬ」
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