義姉VS義弟(2)
一方、反乱を起こされたエレンは悲惨である。
「直ちに兵を集めろ!所領にいる武将たちにも急使を送り、動員できる最大の兵力で城に来るよう命じるのだ!!」
文官たちに命じながら、エレンも城中を駆け回って戦支度に奔走した。情報によると、ジャンヌ率いる反乱軍は、城まで1週間もかからない距離まで進軍しているという。これを迎撃するためには、最低でも3万の兵力は欲しい。しかし――
「宰相殿。おそらく、今日中に集められる兵力は、多くて3千といったところでしょう」
現状を分析したカールが、渋い表情でエレンに言った。
「それでは、とても義姉上には勝てませぬ。せめて、3万は欲しいところですが・・・」
「そこにきて、相手はあのジャンヌ殿でございます。率いる兵は5万という報せもあります、3万の軍勢を集めたところで、果たして勝てるかどうか・・・」
「いずれにせよ、出陣はもう数日見合わせねばなりませんな。今は、兵を集める他ありませぬ」
エレンの言葉に、カールが重々しくうなずいた。そんな2人のもとに、四将軍の一員であるルシウスとランスがやって来た。
「宰相殿。とりあえず、今集められるだけの兵を連れてきた。俺のところは600がせいぜい、もう5日もくれればそれなりに集まるだろうが・・・」
「私も、今は千あまりしか集められませんでした。ゴードン殿とザメク殿は、それぞれ所領におられます。こちらに着くには、ゴードン殿は早くても5日、ザメク殿は1週間はかかりましょう」
「時を稼がねばなりませんな・・・しかし相手は義姉でございます、小細工が通用するかどうか・・・」
「するかどうかじゃない、やるしかないんだ、宰相殿。総大将は、お前さんが務めるのか?」
ルシウスの問いに、エレンは緊張した表情で小さくうなずいた。
「ええ。義姉もきっと、それを望んでおりましょう」
「しかし、此度反乱に加わった者たちの中には、宰相殿を恨んでいる者たちもおりましょう。かえって、危険ではございませんか?」
心配そうに言ったランスに、エレンは重い表情で言葉を返した。
「なればなおさら、私が出ねばなりません。全ては自分が蒔いた種、私が刈り取らねば示しがつきませぬ」
「まあともかく、今は兵を集めることだ。宰相殿、身内との戦いは辛いだろうが、ここがお前さんの正念場だ」
「はい・・・!必ず、しのぎ切って見せまする・・・!」
2人が去っていくと、エレンはすぐにレオナルドのもとに向かった。レオナルドは、新たに王妃となったジェシカと、親しげに談笑している。
「陛下!」
エレンの叫び声に、若き国王夫妻が物憂げな視線を彼に向けた。
「何じゃ、宰相。せっかく、ジェシカと水入らずの時間を過ごしていたものを・・・」
「一大事でございます。義姉が・・・ジャンヌ・アルフォードが、5万の兵と共に謀反を起こしました!」
切羽詰まった声を上げたエレンだったが、レオナルドはこともなさそうな表情で言葉を返した。
「うむ。先刻、ベイルとサイラスから聞いた」
「・・・その割には、ずいぶんと落ち着いておいでですね・・・」
エレンが訝しそうに言うと、ジェシカが申し訳なさそうな表情になって言った。
「宰相殿。此度の一件、わたくしたちは関わらぬことに決めました」
「はっ・・・関わらぬ、とは?」
「つまり・・・この一件は謀反にあらず。アルフォード家の、お家騒動という形にしたいのじゃ」
レオナルドの言葉に、エレンは後頭部を殴られたような衝撃を覚えた。
「な・・・何を仰せです!?義姉はすでに、テネスの砦を落としております!この砦は国が設けた物、それを攻め落としたということは、義姉の行いは紛れもなく謀反!!」
「じゃがな、スティークの反乱を鎮めてから、まだ2年余りじゃ。こうも反乱が続くとなると、我が国の威信にかかわる。他国への聞こえも悪かろう。せっかく、そなたが任命したダリオ・モンティが、ラダンとの関係を良くしてくれたばかりじゃ」
レオナルドが試すような目で、エレンの顔を見ながら言った。
「宰相よ。そなたが兵を集めるのは構わぬ。バルデッタやカロットなど、親しい将軍たちの協力を得ることも構わぬ。が・・・此度のことは、そなた自身で解決してみせよ。そなたの父であれば、これしきの事はすぐに解決してみせたであろう」
「・・・それは・・・陛下のお考えでございますか?それとも・・・どなたかに何か、言い含められたのでございますか・・・?」
レオナルドは表情を変えることなく、エレンを見つめながら答えた。
「わしはわしじゃ。他の者に何か言われたとて、自分の考えを曲げるつもりはない。そのこと・・・側仕えであったそなたが、一番知っていよう?」
微笑を向けながら言ったレオナルドに、エレンは震える声で言葉を返した。
「分かりました・・・なれど、いざという時は、陛下にお縋りするかもしれませぬ。そのこと・・・ご承知おきくださいませ」
レオナルドに頭を下げると、エレンは早足で部屋を後にした。ジェシカが心配そうな表情を浮かべ、微笑を浮かべたままの夫に問いかける。
「陛下・・・宰相殿は、大丈夫でございましょうか?」
「ジェシカ・・・そなたはわしを信じておればよい。わしはな・・・エレンがこの危機にどう立ち回るか、それをじっくりと見たいのじゃ。ここを乗り越えることができれば、エレンは宰相としてますます成長できよう。だが、ここで負けるようであれば・・・」
そこで一旦言葉を切ると、レオナルドは真顔になって低い声で言った。
「あの者は所詮、その程度の男だったということじゃ」
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