宰相殿の嫁取り(4)
「そっか・・・やっぱり、カレンを嫁にもらったのか」
カレンとの結婚式を挙げてから、2日後のこと。夜になってアルフォードの屋敷を訪ねてきたトールが、複雑な表情でエレンに言った。
「ああ。私には、やはりカレンが必要なのだ。・・・お前の式に行けないのは、申し訳なく思ってる。今は・・・サラ殿と、顔を合わせるべきではないと思って・・・」
「ああ、それなんだけどさ・・・・・・いや、俺はお前たちの結婚、めでたいことだと思ってるぜ?ただ・・・今回ばっかしは、サラが不憫でな・・・」
「やはり・・・まだ、落ち込んでおいでか?」
「落ち込むどころの話じゃねえよ。サラの奴、お前に告白して断られてから、ろくに飯も食ってねえんだ。おまけに、『私はもう、誰とも結婚しない』、なんて言い出しやがってよ」
「サラ殿が・・・そこまで・・・」
これまで、どこか幼いと思っていたサラが、そこまで言い出すとはエレンにも予想外だった。トールも渋い顔になりながら告げる。
「あいつ、それだけお前のこと好きだったんだよ。そのお前が別の女と結婚したんだ。お先真っ暗・・・ってとこなんだろうな」
「すまぬ・・・だが、私はカレンのことが・・・」
「いや、別にお前を責めてるわけじゃねえよ。それに元はと言えば、あいつが勝手に片思いしてただけだ。あいつもそろそろ、大人にならねえと」
と、その時だった。屋敷のドアを、どんどんと強く叩く音が聞こえた。
「何だ?こんな夜分に・・・」
エレンが不思議そうに声を上げ、屋敷の使用人がドアを開ける。するとそこには、1人の女性が、慌てた表情を浮かべて立っていた。
「バルデッタのお屋敷の、使用人でございます!トール様・・・トール様が、こちらにお越しと聞いて!」
「俺の屋敷の奴だ。・・・どうした、一体?」
トールが玄関に向かって使用人に声をかけると、彼女は早口でトールに告げた。
「トール様!すぐ・・・すぐ屋敷にお戻りください!!お嬢様が・・・お嬢様がいらっしゃらないのです!!」
「何!?サラが!?」
その叫び声は、エレンとカレンの耳にも届いた。2人は事態の深刻さを悟ると、すぐに玄関の方へと向かった。
「どういうことだ?サラはずっと、部屋にいたんじゃないのか?」
「私たちも、そう思っていました。しかし・・・夕食をお持ちした時、部屋がやけに静かだったもので・・・開けてみたところ、中にお姿がなく・・・!」
「トール!」
玄関に辿り着いたエレンが、張りつめた表情でトールに声をかけた。それに遅れて、カレンも玄関に到着する。
「エレン・・・カレンも・・・」
「サラ殿がいなくなったと聞いた。私も、捜すのを手伝おう!」
「私も手伝うわ。トールさん、サラさんが行きそうな場所に、心当たりは?」
「いや・・・あいつは昔から、あまり屋敷の外に出ないからな・・・・・・とにかく、城下を捜してみるしかない!」
「私たちも手伝おう!カレン!」
「ええ!」
こうして、エレンたちは夜の闇の中を駆けまわり、サラの捜索を始めた。彼らは城下の至る所をまわってみたが、サラの姿はどこにもない。
「サラ殿!サラ殿!!」
「エレン!!」
大声でサラの名を呼んでいたエレンに、カイルとエミルを連れたダンが声をかけてきた。
「おお、いいところに!みんな、サラ殿を見なかったか!?」
「いや、俺たちも今、サラさんを捜してるところなんだ!バルデッタの家の人が、うちの長屋の近くにまで来てな!」
「それで、サラさんの行方が分からないと知って、僕たちも捜していたんです」
カイルとエミルが早口で言うと、エレンは3人に改めて協力を要請した。
「そうか・・・なら、このままサラ殿を捜してくれ!」
「分かった!カイル、エミル、行くぞ!」
「おお!」
「はい!」
こうして、4人は再び散り散りとなり、サラを捜し始めた。カレンとトールもサラの名を呼んで城下を駆け回ったが、彼女はどこにも見当たらない。
「サラ殿!サラ殿!!」
やがてエレンは、城下町を流れる川の近くまでやって来た。すると川の上に架けられた橋の上に、1人の若い女性の姿が見えた。
「あれは・・・サラ殿か!?」
遠くて闇夜のため、はっきりと顔は見えなかったが、その女性はどこかサラに似ていた。女性はじっと橋の下の川を見つめていたが、やがて橋の手すりに手をかけると、川に身を躍らせた。
「あっ・・・!いかん!!」
エレンはすぐに川に飛び込み、女性が身を投じた場所まで必死に泳いだ。川の流れは思ったよりも早かったが、エレンは負けじと腕と脚を動かし、女性が落ちた場所まで泳ぎ続けた。
(どこだ・・・?っ!あれは・・・!)
暗い水の中に、微かに人の手のようなものが見えた。エレンはそれを頼りに全力で泳ぐと、ついに女性のもとに辿り着いた。
「っ!サラ殿!サラ殿!!」
水の中にいた女性は、まぎれもなくサラであった。エレンは彼女の体を抱き寄せると、岸に向かって必死に泳いだ。
「はあっ、はあっ・・・!」
荒い息をついて泳ぎながら、エレンはついに岸へとたどり着いた。サラの体を地面に横たえたエレンだったが、彼女は意識を失っているのか、目を閉じて何の反応も示さない。
「サラ殿!!サラ殿!!」
エレンはサラの胸を両手で強く押しながら、必死に彼女に叫びかけた。胸を押された瞬間、サラの口から勢いよく水が噴き出され、閉じていた目がぱっと見開かれた。
「はあっ、はあっ・・・!」
意識を取り戻したサラが、荒い息をつきながら必死に呼吸した。やがてその目が焦点を取り戻し、エレンの顔をじっと見つめた。
「エ・・・エレン・・・」
「サラ殿・・・!」
気が付けば、エレンはサラの体を抱きしめていた。彼は声を震わせながら、サラの体を強く抱いて言った。
「良かった・・・!そなたが・・・無事で・・・!」
そんなエレンを、サラは戸惑ったように見つめていた。やがて事態をゆっくりと把握すると、サラはエレンの体をそっと抱き返すのだった。
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